30年間1%成長の衝撃

 日本は1991年から2021年の30年間にわたり実質GDP成長率が年平均0.7%という信じられない数字を記録した。かつてなら「信じられない記録」と言えば「驚異的な素晴らしい記録」を指したが今はそうではない。この期間に実質GDPは1.2倍に増えただけである。
 ちなみに、高度成長期は年率9%の成長率を達成し、18年間で4.8倍に増加した。オイルショックからバブルまでの時期でも年率4%で成長し16年間で2倍に増加した。それと比べれば、この30年間はやはり「失われた30年」と言うしかないだろう。

日本の実質GDPの成長率

 この30年には戦後最長の景気拡大期と言われた「いざなみ景気」が含まれる。アベノミクスの下での景気拡大はそれに次ぐものとされる。2000年以降の20年間のうち、このふたつだけで実に12年間は景気拡大期だったことになる。この言葉を聞くと、21世紀に入ってから日本の景気は良かったような印象を受ける。しかし、そんな実感はない。実態は悲惨なものである。経済成長率を計算すると次の表のようになる。

戦後最長の景気拡大の実態

いざなみ景気の年平均成長率はわずか1.5%に過ぎず、アベノミクス下ではさらに低い1.1%に留まっている。たった1%成長であっても、それを景気拡大期と呼べば、景気は良くなっているという錯覚を抱かせる。この間に実質GDPはそれぞれ1.08倍と1.04倍に増えただけで、6年間もかかって「増えた」というほどのものではない。
 実際、2018年(平成30年度)の『国民生活に関する世論調査』によれば、生活に不満を抱いている人の割合は24.3%、「所得・収入」に関して不満を抱いている人の割合は46.4%、「資産・貯蓄」に関しては52.2%に達していた。コロナ禍の影響を受けていた令和3年度の調査では、現在の生活に不満を抱く人の割合が全体で44%に達し、40代では50%を超えた。

では、30年もの間、1%成長が続くということがどれほど大きな意味を持つかを考えてみよう。次の表は、成長率が1~10%のとき30年で何倍に増えるかを示している。例えば、7%成長が10年間続くと約2倍(厳密には1.97倍)になる。10%成長が7年続くと約2倍(厳密には1.95倍)になる。ちなみに、1%成長で2倍になるのに69年かかる。

成長率が1~10%のとき30年で何倍に増えるか?

では、30年間続くとどうなるか。1%成長だと30年間たっても1.35倍にしかならない。7%成長が30年間続くと7.61倍になる。5%成長でも4.32倍になる。つまり、30年前にはGDPが日本の4分の1しかなかった国が、30年経てば日本を追い越してしまうということである。
 さて、これでいいと思うのか、それとも危機感をいだくのか。

かつてイギリスの経済悪化が「イギリス病」と呼ばれていた1960年代から70年代にかけて経済成長率は2%を越えていた。日本の状況はもっとひどく、「日本病」と呼ぶべきだと思って調べてみたら、そんな本が半年前に出版されていた。永濱 利廣『日本病:なぜ給料と物価は安いままなのか』 (講談社現代新書)  2022/5/18。読んでいないが、コメント欄を見ると、アベノミクスのタイミングが遅かった、というようなことを書いているらしい。本当の原因をマクロ政策に求めるのは違うような気がしている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?