『真夜中の挨拶』

(怖い話です)

 私は看護師をしていますが、新人の頃の話です。看護学校を出たばかりでペーペーの私は、先輩について仕事を覚えるので必死でした。私の勤める病院は慢性的な人手不足で、急用で看護師が休むと、他の科から応援に呼ばれることもしばしばでした。

 そんなある夜のことです。私の配属ではない科で夜勤担当の看護師が急病で出られなくなってしまい、その代打になんと私に白羽の矢が当たりました。ただでさえ新米なのに、よその科では全く勝手が解りません。夜中の巡回の時間になり、無理を承知でお願いし、最初だけ先輩と一緒に回ることになりました。

 点滴の交換等をしながら各部屋を回って行き、長い廊下をに差し掛かったところ、向こうから1人のお婆ちゃんの患者さんが歩いて来ました。トイレの帰りかしら? そう思って軽く会釈すると、お婆ちゃんもにっこりとした笑顔で会釈を返してくれました。一緒にいた先輩も同じように頭を下げてお婆ちゃんの前を通り過ぎました。


 そのときです。先輩が急に私の手を掴み、早足で歩き始めました。驚く私をよそに、先輩はこう言いました。


「いい? 今絶対に後ろを振り返っちゃダメよ?」

「ど、どうしてですか先輩?」













「今のお婆ちゃん、昨日亡くなったの」

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