学生時代に手に入れた一番の宝物は

 職場の最寄り駅で、高校生とすれ違う。今日テストじゃん、なんて話をしながら学校に向かう高校生たち。働き始めて二ヶ月弱、そういう光景がひどく脳に焼き付くようになった。

 仕事を終えて帰ると、今度は実家の最寄り駅で高校生とすれ違う。友人を見つけるや否や飛びかかるように駆け寄る姿が眩しい。

 あの頃に戻りたいか戻りたくないか訊かれたら、正直言って結構戻りたい。高校から大学にかけては人生で一番と言えるほど楽しかったから、もう一度経験したいという気持ちがずっと消えない。

 学生時代に得たものは数あれど、一番大切なのはきっと友人関係だ。教室に行けば、部室に行けば、そこには必ず気心知れた友人がいた。今日テストじゃん、英語の予習ってどこまでだっけ。数学また再テストに引っかかっちゃった。五分後には忘れているような話をしていたことを、私は今でも覚えている。きっと一生忘れないんだろう。

 高校時代は、とても褒められたものではない態度で勉強していた。数学が一番苦手ではあったものの、さして勉強はしなかった。再テストに引っかかることを前提にしてテストを受けて、案の定引っかかって、そこから勉強を始めた方が効率が良いと思っていたからだ。

 高校生の頃は、放課後になったらとりあえず文芸部の部室に集まっていた。特に何をするわけでもなくて、皆それぞれ課題をやったりゲームをやったりゲームをやったりゲームをやったりしていた。今思うとほぼゲーム同好会だった。部室でラブライブのイベントを走ってた同級生、元気かな。
 TRPGと出会ったのもこの頃で、それはそれは盛り上がった。学校で一番笑いの絶えない部活だった。その笑いは時に、ファンブルを出した際の引き攣った笑いでもあったわけだが。

 大学でも新しい友人と出会って、必修の授業のときは友人と必ず隣の座席に座り、授業が始まるギリギリまでずっと喋っていた。空きコマが被った友人と学食で延々喋っていた。夜はLINEが盛り上がって気づいたら午前三時になっていた。他のサークルのところに行って、他サークルの友人とずっと喋っていたな。大学生の私、思えばずっと喋ってたな。

 願わくば卒論が終わってから、一度くらい友人と対面で会いたかった。卒業式のあとに、一緒にご飯を食べて帰ってみたりしたかった。卒業式があっただけありがたかったけれど、それでも足りなかった。まだ連絡は取り合っているし、ディスコードでときどきゲーム会をしているけれど、やっぱり会いたい。

 大学生最後の一年間はオンライン授業で、ゼミのメンバーともリアルで会えないまま過ぎていった。就活や卒論の作業以外ではほとんど家に引きこもる生活を送っていて、家族と以外ほとんど会話をしなくて、自分の輪郭が溶けて消えてしまいそうだった。

 それで、今。大学四年次の一年間とは真逆で、週五で外に働きに出ている。自分の親と同じかそれより年上の人と会話をしたり、電話を取ったりする。電話は全然上手くならない。「恐れ入ります」と「お世話になっております」は段々慣れてきたけれど、応用力がないからすぐに詰まる。目上の人に話しかけるときは声が裏返りそうになる。

 まだ社会人一年目の五月だし、きっとこれからだと信じている。でも、いやだからこそ、誰かと話したいのだ。大学生時代の同期と、あの頃のようにどうでもいい話を何時間でもしたいし、今しか出来ない話もしてみたい。こんな時代だから職場の同期とも集まれないし、尚更だ。

 何を言いたいかというと、とにかくこれから高校からの友人に連絡してみようかなということである。