王様戦隊キングオージャー全体感想③キングオージャーショーに通った1年

 「王様戦隊キングオージャー」にハマり、気が付けばシアターGロッソにほぼ月1ペースで通うようになった。第1弾から第4弾まですべて観劇したが、そのどれもが、脚本・演出・アクションすべてにおいて素晴らしいものであった。
 感想は観た都度にnoteに書いたが、1年に及ぶ公演がいよいよ今日大千穐楽を迎えたため、改めて第1弾から振り返って感想を書いておきたい。

第1弾

 王様たちがとある国にやってきて、願いが叶う鏡を巡るストーリーが展開される第1弾。各国の駆け引きがヒーローショーの上演時間に収まるようデフォルメされて落とし込まれ、分かりやすくもキングオージャーらしい内容だった。また観客を「民」として物語の中に取り込んでくれるところもキングオージャーらしかった。「ピンチに陥ったヒーローが子どもたちの声援を受けて力を得る」というヒーローショーの様式美に対して「民こそが王に戦う力を与えてくれる」という、キングオージャーならではの意味付けをしたことにひたすら痺れたのを覚えている。
 印象的だったのはアクションだ。殺陣のスピード感、フライングの迫力、そして観客の歓声などが一体となった体験は、観劇というよりもはやスポーツ観戦の域に入っていた。

第2弾

 第2弾からは追加戦士であるジェラミーも登場した。初日の公演を観ることができたのだが、ジェラミーが登場した瞬間、客席全体が高揚感に包まれて一体となったあの感覚が忘れられない。あの瞬間、劇場の照明も、劇場の空間そのものも、観客の拍手も、すべてがジェラミーのために存在していた。会場全体をものにしてしまう、ジェラミーというキャラクターそのものが持つスター性が存分に発揮されていたと思う。また本編で「拍手なき即位」をしたジェラミーに、ヒーローショーの中でだけでも存分に拍手を贈れるのが嬉しかった。
 夏休み期間の公演だったこともあり、蝉を題材とした優しく切ないストーリーだった第2弾。ジェラミーの語り部としての側面もきっちりと脚本に生かされ、ストーリー面でも素晴らしかった。また本編が進むにつれナレーションが変更されるなど細やかさはありつつ、初期ジェラミーを堪能できるため、千秋楽間際に行くと、初日とは違う楽しさもあった。

第3弾

 トウフ国の秘境を舞台に、願いが叶う「星のしずく」という玉を巡るストーリーが展開される。「一つのものを各国の王が奪い合う」という点でいえば第1弾と共通しているが、本編に登場しない国が舞台だった第1弾との違いは、トウフを舞台としているところ。キングオージャーの本編は首都(城下町)以外の様子が描写されることがあまりないので、ヒーローショーの中で世界観を拡張してくれるのが楽しかった。
 第3弾といえば、特筆すべきはギラくんの、言うなれば暴走フォームだ。「星のしずく」を使って世界を滅ぼそうとしたカメジムを止めるべく、破壊の力を持ってしまった「星のしずく」を取り込んでしまったギラくんの姿は彼の持つ危うさを伴ったヒーロー性が最大限発揮されたシーンでもあったし、何よりギラくんを元に戻すために観客=民がギラくんの名前を呼ぶという演出は、ギラくん推しとしてたまらなかった。
 個人的に好きなのは、龍を前にしたときのギラくんの反応が回によって違ったこと。髭に触ろうと小さくジャンプしたり手を振ったりしていて可愛かった。

第4弾

 キングオージャーショーの集大成となる第4弾。ヒアリーという怪人の力で性格が変わってしまった王様たちの繰り広げるドタバタと、ダグデド及びその配下の五道化たちとの戦いが描かれる。
 キャストの高い演技力がSNS上で絶賛された伝説の入れ替わり回「シャッフル・キングス」や、リタ様による圧巻のライブシーンが話題を呼んだ「不動のアイドルデビュー」を思わせる要素がある脚本には、笑いながらも本編が思い出されて泣いてしまった。
 また興味深いのが、「子どもたち(観客)の声援を受けて危機に陥ったヒーローが復活し敵を倒す」というヒーローショーの様式美が、ドラマ本編のラスト3話で描かれた「民が王を救いに向かう」ストーリーと完全に重なり、我々観客が、完璧なまでに作中の「民」となったことだ。
 本編後のトークパートはキャスト本人のトークではなく、キャストが役を演じたまま話してくれる。ゆえに台詞がほとんどアドリブになるため、公演ごとに違う台詞(そして全力の罰ゲーム)を聞くことができ、何度見ても楽しめる公演だった。「様式美」と「この場限り」が融合するのもまた素顔の戦士公演の楽しさだろう。

 素顔の戦士公演を観て気づいたのだが、キングオージャーのメインキャストは、全員が主演ともいうべき風格を持っている。誰が舞台の0番に立っても、この上なく似合うのだ。戦隊というひとつの組にトップスターが1人いる、という構図ではなく、6つの組のトップスターが一堂に会している印象を受けた。そこもまたキングオージャーの魅力のひとつだろう。

 またキングオージャーショーでお馴染みの光景となっていたのが、キャラクターの衣装を着た子どもたちだ。おそらく親御さんの手作り衣装だと思うのだが、どれも「プレバンで売ってるんじゃないか」と思わせるレベルでクオリティが高かった。王様から側近まで様々な衣装を着た子どもを目にしたが、特に黄色のドレスを着た小さな女王様たちにお目にかかる機会が多く、その度にヒメノ様人気の高さを実感した。

 ヒーローショーは、通常公演であればかなりチケットが取りやすい。ゆえに上手・下手・中央、前方と後方、あらゆる席を試すことが可能だ。色々と試した結果「後方の席から照明を味わう」ことの良さに気が付き、もはや照明目当てで通うようになっていた。
 ヒーローたちを輝かせたり、あえて舞台上に埋没させたり。舞台セットが大掛かりでない分、照明の力を他の演劇以上に体感することができた。個人的に印象に残っている照明は、第2弾でジェラミーとギラくんが並んだシーン。この2人がまるで世界に灯った灯火のように見える照明が素晴らしかった。名乗りのシーンの照明は、ヒーローたちの内なる輝きを表現しているようで、神聖さすら感じられた。これから開幕するブンブンジャーショーではどんな照明が見られるか楽しみだ。

 先日、キングオージャーのポップアップストアのために平日にGロッソに行った。ヒーローショーの公演もなく観客もスタッフもいない、がらんとした劇場の前を通った瞬間、ああ、本当にキングオージャーは完結してしまったのだなと思った。大千秋楽前とはいえ、その頃すでにmy楽まで観てしまっていたし、もはや再演不可能な演目の、本当の「終わり」を実感してしまって、とたんに寂しくなった。

 演劇は物語にして生き物だ。始まりがあれば終わりがある。初日があれば千秋楽がある。15年ほど演劇を観てきてそんなこと全部わかっていたはずなのに、今はただ、寂しくて寂しくて、たまらない。私はきっと、あのキラキラしたステージの上に、板の上で生きるヒーローたちの持つ眩しさに、自分が思っている以上に魅せられていたのだと思う。

 1年間、「民」として王たちと共に物語を、あの世界を共に生きられたかけがえのない時間は、これからもずっと私にとっての宝物だ。

 王様戦隊キングオージャーショー。改めて、大千秋楽おめでとうございます。1年間素敵な舞台を作ってくれたスーツアクターの方、キャストの方、そしていつも完璧なオペレーションでスムーズに誘導してくださった劇場スタッフの方。音響や照明、プロジェクションマッピングにフライング、アクション等々、とにかくショーに携わったすべての方に感謝を述べて、この記事の結びとしたい。本当にありがとうございました!ブンブンジャーショーも行く予定なのでよろしくお願いします!