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初期衝動を思い出した日

私はそこそこ長いこと大好きなバンドがある。
Fear, and Loathing in Las Vegasというバンドだ。

出会いは彼らがアニメHUNTER × HUNTERのEDのタイアップをした「Just Awake」を聴いたことである。
2011年、当時からアニメが大好きだった私は何の気なしにHUNTER × HUNTERという名前を耳にしたことがあるという理由でリアルタイム視聴していた。
本当に何の気なしに見ていた。

ふーん、面白いかもなぁ。と思ったかもしれないし、思ってもなかったかもしれない。
思い出せないほどの感情しか抱かなかったが、EDを聴いた時の衝撃は未だに覚えている。

なんだかよく分からないけどめちゃくちゃかっこいい
アニメ描写とこんなにぴったりなのあるのか!
何を言ってるか分からないけど、涙を流しながら"忘れないで"と言ってるのがすごく心に響く

など、たくさんの思いが過ぎった。
そも、私の当時の音楽視聴遍歴はゲームのBGMとボカロのみで、リリースされてる全ての曲は動画があるもんだと思っているくらいで、MVの無い曲の方が多いことすら知らないくらいだった。

そんな偏った音楽知識で聴いたJust Awakeの色彩は鮮烈だった。鮮烈すぎて、いつしかHUNTER × HUNTERの内容よりEDを楽しみにしていた。

しばらくしてJust Awakeから別の曲に変わった時は大層ショックを受けた。もう聴けないのか、と。
だがその時の私は少しだけ成長していた。
EDの中で"Just Awake"という曲名を覚えていた。


YouTubeで調べると動画が出てきた。
やはりアニメが付いている!
でも英語だ。あれ?なんかよくわからんな。
でもかっこいい!


そんな感じで、そこからはちょっとずつちょっとずつMVをボカロの合間に聴いていた。
その時はがっつり聴いていたわけではなかったし、なんならFear, and Loathing in Las Vegasの読み方もちゃんと調べず字面で覚えてる程度だったと思う。

それから3年後、スマホも手にしてYouTubeが見やすくなったある日、Rave-up TonightというMVに出会った。
今思うとこれが「初期衝動を思い出した1回目」だったと思う。


めちゃくちゃ衝撃を受けた。
曲単体じゃなく、MVありきで聴くことでここまで曲の幅とは広がるのか。動き一つでここまで魅せられてしまうのか。表情で、色で、音で、ここまでかっこいいものができるのか。

Just Awakeをやってる人達と同じ字面だ。この人達は天才だ。


そう思ってからは転がるようにのめり込んだ。
MVを徹底的に調べた。
メンバーの名前と担当楽器を覚えた。
CDも買えるだけ買った。(Dance & Screamは手に入らなくて落胆していた)
歌詞を覚えた。
スクリームも出せるように練習した。
スコアの存在を知って購入もした。
無理してライブの遠征も2回できた。

また2年経って、
東京に出てきてからはもっとライブに行った。
ボーカルのSoくんになりたくて髪を真っ青に染めた。
サークルでコピーバンドなんかやったりした。
PCやマイク等機材を揃えてライブしちゃったりした。
ファンとの交流も増えた。
ファンクラブが設立されたらすぐ入会した。


ずっとFear, and Loathing in Las Vegasが大好きだった。
人生を変えてくれたと言っても過言じゃない。
でも、いつからか自分の大好きな気持ちを盲信しすぎて彼らが上手く見えなくなっていた。

私はそれに気がついていなかった。

ライブのセトリがマンネリ化しただとか、新曲がどうだとか、何やら達観した気持ちになりつつあった。
でも大好きだからCDも買っていたしグッズも買っていた。大好きだから。


今思うと、5thアルバム「New Sunrise」あたりから音の構成など聴き込んではいたものの

"BGMとして聴き流す"

ことが増えたのだと思う。



大好きだから、BGMに聴いていた。

これがつい、最近まで続いていた。
初期衝動だって忘れてなかった。
忘れていない"つもり"だった。
忘れていることに気が付いていなかった。

2021年9月16日、Dance & Screamのサブスク解禁記念ライブのチケット先行がファンクラブ会員限定で開始された。

社会人になり、在宅勤務が長らく続き電車に乗る機会が激減した結果音楽からも離れることが増えていたが、
お、応募してみよう!当たったら休み取るか〜
と軽い気持ちで応募していた。

当たった。純粋に嬉しかった。
コロナの影響で実に1年8ヶ月ぶりのラスベガスのライブだった。
席も3列目中央付近と中々近い場所だった。

ワクワクと緊張で開始を待つ感覚、ステージ上で光るPCの画面、流れるBGM、どれも久しぶりでとても気分が高揚した。


ライブは言わずもがな最高だった!
バチバチに聴いていたDance & Screamを中心に構成されたセトリには心が激しく揺さぶられた。
メンバーが本当に目の前で動いていることが奇跡に感じた。
音源化されていないWhy Couldn't I Say The Last Googbye To You?が来た時は変な声が出そうになった。

セトリには比較的新しい
Evolve Forward in Hazard
Shape of Trust
One Shot, One Mind
も組み込まれており
あ、新曲だこれ!
くらいに思っていた。


ライブ後しばらくは所謂余韻に包まれていた。
余韻なんて感じるのも久しぶりでとても楽しい。
溢れる想いが止まらなかった。

そこでやるのがセトリの再現再生リストの作成である。
音源を聴きながらライブに思いを馳せる。
やっぱりダンスクかっけ〜ラスベガスかっけ〜…この曲はライブの時こんな感じで…と耽っていた。

余韻に浸りながら鑑賞中、Evolve Forward in Hazardに差し掛かった時に私はとても驚いた。

もちろん初めて聴いた訳でもないのに
めちゃくちゃかっこいい。
あれ?最初に聴いた時こんな感じだったっけ?
解像度が違いすぎる。とても鮮明だ。
なんで気付かなかったんだろう?


Return To Zeroという楽曲の公開時に
「ラスベガスが文字通り原点回帰した!」
とTwitterで盛り上がった記憶がある。

例に漏れず私も騒いでいた。
かっこいい!ラスベガスらしさがある!!と。
"あの頃に戻ってほしい"
なんて気持ちが無意識下であったからだと思う。

 
はたとその記憶が蘇ったのは、
「もしかして、原点回帰すべきはラスベガス
ではなくてファンたる自分だったのではないか?」
と直感したからである。
彼らの進化を大好きだからと甘んじて受け入れていたのに気が付いた。

リリースから11年、1thアルバムDance & Screamのライブで、私は初期衝動を思い出した。

「忘れないで」と言われた初期衝動を忘れていたことに気が付いた。


今私は初期衝動を忘れ、モヤのかかった数年間を激しく悔いている。
また、その後悔を感じて
「本当にラスベガスが大好きなんだ」
と実感して安心し嬉しくもある。

恋は盲目と言うが、自らの"好きだ"という感情さえ盲信してしまうのは、穴の空いたバケツに水を入れ続ける様なもので決して満たされることがない。

「自分は彼らが大好きだから」と自分の気持ちに甘えていると目に映るものの本当の輝きを見落とすことになる。


今私は首を締め付けていた鎖を解き放ち、つなぎ止められた初期衝動を呼び覚ますことができた。
もうあの日の鼓動を忘れたくない。

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