AVYSS Mix 04の補足

AVYSS magazineで僕が作った和ボサmixが公開されました。

https://avyss-magazine.com/2020/03/26/14620/

2020年代はビートに重きを置いたダンスミュージックへの反動や、シティポップムーブメント(vaporwave含)の終着駅としてボサノバが注目されるような気がしています。渋谷系の時代を経て2000年代のカフェブームで限界まで消費された後、2010年代がどうだったか振り返ると、そろそろかな〜と。単に自分の気分なだけかもしれないのでよくわかりません。

以下は収録曲の簡単な説明です。気になったものがあればmixをチェックしてみてください。

前田憲男&ヒズ・オーケストラ - 別れ話は最後に(1983) 00:00〜

サザンオールスターズのインストカバーアルバム『いとしのエリー』収録。ボサノバ調にアレンジしている訳ではなく、サザンのデビューアルバム『熱い胸騒ぎ』(1978)に収録されている原曲が既にボサノバなのだ(ボサ度は強めている)。桑田佳祐に作れないものはない。この1曲を残しボサ桑田は姿をくらますが、5年後に中村雅俊に提供した「恋人も濡れる街角」(1982)でcoming backする。

国生さゆり - 大きい猫(1987)04:14〜

80年代後半、元気路線のアイドルが、アンニュイでアーティスティックな作風にシフトするフェーズがあった。『BALANCE OF HEART』に収録されているこの曲は、各方面で評価が高い。作曲は「セーラー服を脱がさないで」の佐藤準。女性シンガーの、シンセ・打ち込みサウンド主体でニューウェーヴ感のあるボサノバを、「クレプスキュールボサ歌謡」と乱暴に定義してもいい。

葉山レイコ - 何、してた?(1990)08:52〜

遠藤京子作曲のニューウェーヴ・ボサノバ。女優、葉山レイコのレコード会社移籍後の再デビューシングルのA面。歌詞、「おいしい水飲み干したなら」「イパネマ気分で揺れたら」「朝までボサノバしましょ」などとあり、厳しいものがある。作詞はRainie Knightとある。変名だと思うが、いったい誰なのだろう。

小林麻美 - 幻の魚たち(1985)13:03〜

個人的にはクレプスキュールボサ歌謡のエース曲。シティ・ボッサの先駆者、ユーミンの作詞作曲だ。80年代中盤からこんな感じの、ヨーロピアンテイストの和ボサがちらほら出てくるが、決してシングルのA面に抜擢されることはない。B面か、LPの中の地味なポジションの1曲だ。曲名が素晴らしい。

大野方栄 - 個人教授(1983)16:52〜

ジョビンの「Desafinado」が原曲。CASIOPEAをバックに従えた大野方栄の大名盤『MASAE ALA MODE』は、派手で煌びやかなナンバーがてんこ盛りのため、この曲は見落とされているように思う。なのでレコード屋のキャプションでも「B4 和BOSSA」と書かれることはない。ライナーでは井上鑑が「あまりにも美しくなりすぎてしまって、もっと歌い手のエゴがでていてもよかったのではないかとさえ思えるのである」と述べている。よくわからない。編曲は佐藤博。

夏山美樹 - 何故(1980s?)19:25〜

「かぐや姫その後」という舞台の挿入歌であること、自主制作盤だが和ジャズの重要人物、山屋清の作編曲ということもあり文句なしのクオリティなこと、それ以外の情報はなく、発売年も、その舞台が本当に存在していたのかすらも謎。盤の匂いを嗅いでみたが何もわからなかった。

持地三津子 - かなりや(1985)23:07〜

仙台在住のSSW、持地三津子の自主制作盤『HEART TO HEART』に収録。ボーカル処理は悩ましいが、都会的で繊細な、品のあるシティ・ボッサだ。声もいい。70年代後半っぽい雰囲気だが、1985年の作品。自主盤レコードの世界ではメジャーシーンとの結構なタイムラグがしばしばある。先日買った『野菜を作っているあいだに』という謎のアルバムは、1987年の作品にもかかわらず、全編通して中村雅俊主演の青春ドラマの主題歌のような曲しか入っていなかった。
ちなみに、『HEART TO HEART』は友人のNAKED LANDSCAPEこと鳥海君から譲り受けた。本当にありがとう。

長尾美代子 - さよならトリコロール(1981)27:21〜

LPがガイド本常連のため見送ろうと思ったが、初めて意識して買った和ボサという、曲への強い思い入れにより収録した。シティ・ボッサのイデアのような曲。どうでもいいけどmixはEPから録っている。

狩人 - 雨上がりのスケッチ(1977)31:21〜

とんぼ、ふきのとう、NSP、紙ふうせんetc…。100円コーナーでよく見かける、当時は有名だったっぽいフォークグループのレコード、安さ故に購入のハードルは高いが、どんなレコードにもたいてい1曲は良い曲が入っている。そうでない場合は時計やコースターに改造すればいい。この曲が収録されている『出逢った人に』も、もちろん100円で買える。

山本リンダ - きっとまた(1974)34:17〜

手掘りではあまり見かけない「闇夜にドッキリ」の、B面。ピンクレディーを手がけた歌謡界の超重要人物、都倉俊一作編曲のブチ上がり高速歌謡ボサ。洒脱なアレンジにヌメヌメした歌唱が相まって、不思議と泣けてくる。実は狩人の「雨上がりのスケッチ」も都倉俊一作編曲。氏の必勝パターンなのだろう。

五輪真弓 - リンゴの樹の下で(1975)37:31〜

ややアーシーで、和ボサというにはギリギリのラインかもしれない。『マユミティ』に収録。ギター鈴木茂、ピアノ深町純。この曲のベースは岡沢章だが、アルバムでは数曲細野晴臣が弾いている。聴きごたえのある、クオリティの高い作品だが、何故か100円で買える。

大塚博堂 - 祭りの朝に(1978)39:52〜

長谷川きよしが憑依したような、凄みを感じる本格的なボサノバだが、クレジットを確認して納得、作曲は渡辺貞夫だった。この素晴らしい曲は博堂のサードアルバムに収録されているが、同作では果敢にも博堂作のボサナンバーも披露されている。
博堂は1978年にオリジナルアルバムを2枚もリリースしている。

ヒロとミコ - 雲の悲しみ(1970)43:48〜

TV番組から登場した松原弘明、松原美津子の兄妹によるソフトロック寄りのボサノバ。兄の作曲だが、青木望のストリングスアレンジによる勝利と思われる。ユキとヒデ、みたいなユニット名だが、二匹目のドジョウでボサノバアレンジにしたのかもしれない。とはいえ、ユキとヒデの和ボサクラシック「白い波」(1967)の系譜を継いでいるわけでもない。
ジャケットは漁船に乗っている兄妹の写真が使われているが、兄のほうは朴訥とした漁村の青年という佇まいで、出門英さんとは対照的です。

森園勝敏 - The Blue Heaven(1985)46:59〜

四人囃子の森園勝敏がシティポップ・AORに振り切った『4:17 pm』に収録。ジャズ、フュージョン、アイドル、ロック、フォーク、エレポップ、70年代〜80年代はあらゆるジャンルとボサノバが、ナチュラルにクロスオーバーした。

さだまさし - 一杯のコーヒーから(2007)50:42〜

初めてこの曲を聴いた時、カタコトに聴こえたため外国人女性ボーカルかと思っていたが、意表を突かれた。発売年からしてアナログはかなりの少数生産だったと思われるが、運良くすぐに入手できた。
服部良一トリビュートアルバムの中の1曲だ。わざとらしいボサノバアレンジ(さだまさしのドヤ顔が眼に浮かぶ)にさだの癖の強いハイトーンボイスが乗っかり、完全に時空が歪んでいる。
さだ作品コンプリートまでの道のりは険しく、金銭面というより精神への負担が大きい。レコスケ君はコンプリート済だというが。

圭修 - 憧れのJOELEN(1988)54:39〜

ボサノバには、オシャレでスノッブなイメージがある/あった。80年代に入り、イメージと相反する歌詞をぶつけてオモチャにする試みがあった。その手のコミックソングの雄はマリちゃんとステゴサウルス「キャンパス・レポート もっとクリスタル〜」(1981)だろう。軽快なボサノバのリズムに合わせてラグビー部の先輩後輩同士の乳繰り合いが展開されるというもので、今なら炎上案件だ。和ボサを語る上でそこそこ重要な曲だと思うが、mixには入れなかった。
「憧れの〜」もコミックソングだが、まさかの村田和人作曲、音はしっかりしている。ギターは鈴木茂のような雰囲気があるが、クレジットに記載がないので誰だかわからない。

Nice Music - 風色(1995)57:46〜

フリッパーズ・ギターになりたかったのだろうと思う。

斉藤とも子 - 風のように(1979)1:01:26〜

女優、斉藤とも子のデビューシングル。70年代後半は和ボサの黄金期。アップテンポで爽快なナンバーが沢山生まれた。
とてもいい曲なのだが、作曲者の藤本あきらの情報が全然出てこない。

山口友子 - マイピュアレディ(1978 or 1979)1:04:47〜

荒井由実「あの日にかえりたい」(1975)と並ぶ、シティ・ボッサ勃興期のヒット曲。原曲は尾崎亜美が1976年にリリースしたものだ。こちらは山口友義・久恵夫妻の結婚15周年を祝って作られた非売品のレコード『声の写真 遙るかな友に 15th Wedding Anniversary』に収録されているが、歌唱は娘さんが担当しており味がある。終盤、理解が追いつかない箇所がある。

BABAOU - NIGHT SAILING(1985)1:07:23〜

高校時代の学友で結成された高学歴音楽集団・BABAOUはサンバやプログレ等もレパートリーに持つ、器用なグループだ。メンバーの就職、大学院進学などのタイミングでLPを作成したと思われるが、青春の1ページを切り取ったというにはあまりにも円熟している。

中村誠一 - 家路からす(1982)1:10:33〜

『取りみだしの美学』から。ボサノバというにはどう考えても無理があるが、どうしても入れたかった。「味噌汁、一緒に」というフレーズに涙した。

おわりに

mixは全てレコードから録っているため聴き苦しいところもあると思うけれど、楽しんでもらえたらうれしいです。