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ほしのほしのおほしさま 1

第1章 おちこぼれ

 カッタンコットン。カッタンコットン。
今日も大きな歯車が噛み合う音がしています。
ここは、星の星にある星のパン工場。
大きな機械の中でパンの材料がこねられています。
星屑のクルミパン。
銀河のふわふわクロワッサン。
太陽のピリ辛ピザ。
どれもとっても美味しそう。

 そんな星のパン工場で働く1つの星がいます。
その星は今出来上がったばかりのパンをせっせせっせと運んでいます。
そして・・・バタンっ、ほら転びました。
「あーっ。またやっちゃったよー。班長に叱られちゃうな。」
そう言いながら落ちたパンを慣れた手つきで拾います。
この星の名前はルーペ・フルト。
星に住む皆んなはこの星のことを落ちこぼれのルーペと呼びます。
何で落ちこぼれなのか気になりますか?
それはこの星を見れば一目瞭然。
全く輝いていないからです。
この星の星で生まれた星は、産まれてから数年でその身に輝きを宿します。
そしてその輝きは成長するほど強くなり、立派に成長し終えた時に最も光り輝きます。
それがこの星の星の常識です。
けれど落ちこぼれのルーペは違います。
生まれてもう10年も経つというのに、その身に輝きを一切宿していません。
だから落ちこぼれのルーペなのです。
ルーペはパンを拾い終えると、急いでそれを持って班長の所へ向かいました。
班長は自慢大きなお腹を包み込むようにして背中を丸め、椅子に座っています。
「はんちょーう。すいません。」
ルーペが何に対して謝っているのかをまだ説明していないにも関わらず、班長は振り向きながら言いました。
「またかルーペ。落ちこぼれのルーペ。お前はどうしてそんなにパンを落っことす。」
ルーペがパンを落っことすのは日常茶飯事です。
「んー。わかったぞー。お前は輝きが無いから足元が見えないんだなー。ほーら真っ暗だ。」
班長はルーペを馬鹿にするようにして言いました。
「はんちょう。違いますっ。僕はまだ輝いていないけど、足元はちゃんと見えてますよっ。」
ルーペは少しムッとした表情を浮かべながら反論しました。
「じゃあなんで、なんでパンをわざわざ毎日落っことすー?んー、なんでだー。」
班長がルーペを上から見下すようにしてネチネチと言いました。
「このクツを見て下さい。」
ルーペはそう言うと、自分の片足を手で持ち上げて、履いているクツを班長に見せました。
とっくの昔に履き潰されているそのボロボロのクツを見ると、つま先の部分が剥がれかかっていました。
「なんだー。お前はそのクツが原因で毎日すっ転んでパンを落っことすと言いたいのか?」
班長がルーペに問いかけると、ルーペは力一杯自分の頭を縦に降りました。
「バカヤローー。だったら早く新しいクツを買ってこい。」
班長はパン工場の外をフランスパンのような自慢の太い指で指しながら、大声でそう怒鳴りました。
「ひー。ハンチョウごめんなさーい。」
ルーペは後ろ姿で班長に謝りながら工場を飛び出していきました。
班長はそのルーペの後ろ姿を見送りながら、そこに全く輝きを宿していないことに少し心を痛めるのでした。
ルーペがこのパン工場で働きはじめてもう5年になります。
それ以前のことを班長は知りません。
生まれたばかりの頃に両親を失って、転々としていたルーペを班長が5年前に預かりました。
それからこのパン工場でルーペの面倒を見ています。
しかし、その頃から全くルーペの輝きは変わらないのでした。

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