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9. 当事者意識の行方

9月の下旬からはスケーターの数が増え始め、明らかに初心者でボードのコントロールがおぼつかない人や敷地から歩道への飛び出し、ゴミの放置なども目立つようになった。比例して、寄せられる抗議も頻度が増していった。
閉館作業を終えて帰宅する頃になっても住宅街に近い道路で滑っていたり、時に文化創造館のカラーコーンを勝手に持ち出して障害物として使うようなケースも見受けられ、声をかけると喧嘩腰で向かってくるので、やむなく警察に通報する事例も1件発生した。夜遅い時間帯になると、文化創造館の南側の敷地入り口を塞ぐように路上駐車をしてスケートボードに興じる大人も少なくなかった。

文化創造館のスタッフとコミュニケーションの取れるスケーターよりも、顔も名前もわからず、声を掛けても応じないスケーターが増えていったような印象である。

流石に注意を促そうと屋外にサインを設置することとし、スタッフ総出で文言を考え始めた。何かを禁止したり、思考停止を促すようなサインは出さないという方針のもと、文化創造館らしく注意を呼びかけるにはどうしたらいいか、意見を出し合って作ったのが、次のサインである。

秋田市文化創造館は、多様な人が集い、さまざまな活動が行われる拠点です。利用の際は、次のことにご留意ください。
・ 周囲には、暮らしている人がいること。
・ 夜間はお静かに。
・ 敷地内・館内は禁煙です。

明確なルールとして定められている「敷地内禁煙」以外は、直接的な指示文は避けようと試みた。このメッセージを受け取った人が、想像力を働かせて自身の行動を考えるアクションをとってくれることを期待し、10月中旬に屋外にサインを掲出した。

予想外にも、地域住民からもスケーターからもこのサインが「わかりにくい」という反応が返ってきた。例えば「夜間はお静かに」という表記については、何時以降がダメなのかを明記してほしいという意見がスケーターからあったように聞いている。
この出来事に、私は少なからず衝撃を受けた。もちろん私たちの作文力の稚拙さや、このサイン程度でそんな行動変容は期待できないといったご批判もあるであろう。しかし、サインを掲示して以降、立て続けにそういった反応に接する中で、「公共施設を使うルールすらも消費される《サービス》なのだろうか」。そんな感覚を抱いてしまった。

指定管理者として、私たちはきっかけを提示したり活動に伴走したりという役割を担ってはいるが、文化創造館という公共の施設・場をつくっていく当事者は一体誰なのか。

そんな思いを抱えながらも、一方では嬉しいエピソードもあった。
熱心に文化創造館で滑る高校生の親御さんが、夜間に文化創造館の脇を車で通った時に道路で滑るスケーターを目撃し、高校生に「お前の知り合いか」と問いかけたことがあったそうだ。高校生はインスタでそのスケーターを見つけ、「そんなことしているとここで滑れなくなるぞ」と注意したとのこと。居場所を守ろうとする高校生も、そういうコミュニケーションがある家庭も、そんなエピソードを高校生から聞き取れるスタッフも大切にしたい。

件のサインは、10月下旬には更新することになる。



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