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17. 試行錯誤をつづける

5月下旬に、1人のスケーターの方とお話しする機会を得た。
曰く、秋田市の郊外で現在開催している子どもを対象としたスケートボードの交流会ではなく、スケーターのコミュニティを可視化していくための取組みを文化創造館でやってみたい、とのこと。秋田市内のスケーターの競技人口は全くもって不明で、「ここでやっていた」という情報を聞きつけ、現地に赴いても出会うことがほとんどない。スケーター同士の縦横のつながりが希薄なことが、他の地域で起こっているようなルールやマナーの啓発や継承を阻害している要因ではないか。それを進めるために、まずは文化創造館を拠点として、高校生や20代の若手を中心に、スケーター同士のネットワーキングとコミュニティ形成を図りたいというものだった。
この数カ月の間に、県外のアーバンスポーツの研究者にお話を聞く機会を何度か得て、コミュニティ形成によるスケーターへのマナーの啓発・継承が鍵であることの助言をいただいていたこともあり、その流れがついに来たかと心躍った。

ご相談の趣旨を踏まえると、参加料を徴収するイベントとしての開催はそぐわず、また今から申請可能な助成金の情報も探し出せず、文化創造館としてできるサポートの範囲を検討した結果、屋外スペースの多様な利用を促進するために無料で貸し出す「ヨルカツ」を復活させることとなった。なお、ヨルカツは冬の間の屋外利用の開拓としてスタートさせたものであるが、春になっても散歩や一時的な休憩といった用途以外での屋外利用は限定的であることを踏まえて、今回の要望も踏まえつつ、復活を決めたものである。

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早速お申込みをいただいて、開催に向けた調整を担当スタッフが進めていたところ、敷地内におけるスケートボードの利用の容認について、改めて創造館の複数のスタッフとコミュニケーションを図る中で、未だスタッフ間でもグラデーションがあることが判明した。それほど広さがなく、歩行者や自転車の往来が一定程度あり、さらに歩道と車道が隣接する文化創造館の敷地において、市役所とも合意した安全柵の設置、保険加入などの最低限の条件を課したとして、引き続きスケートボードの利用を許容することが適当なのか。そして、安全管理に加え、迷惑行為の誘発という2点においての懸念を払拭する上で、現状の条件が必要十分な対策と言えるのだろうか。秋田市文化創造館の基本理念を踏まえて「何かを禁止することはしたくない」という想いと、指定管理者として安全管理を図る実務上の懸念とが対立している。スポーツ施設でもなく、完全なるストリートでもない、公設による広場のような空間である文化創造館が故に抱える課題なのかもしれない。
改めて検討と検証が必要であるということを確認し、7月26日にヨルカツの本番を迎えた。

安全柵の設置状況や、周囲への音の広がり具合は。歩行者は活動にどんな視線を送っているか。周囲を時々ぐるぐると見回りながら見守った。老若男女問わず道行く歩行者が足を止めて興味深げに視線を送る様子を認めては、こういう街の姿があってもいいではないかという思いを抱きつつも、ボードが着地したときのガシャンという音の反響やボードが車道に飛び出さないかという不安は拭い去ることができなかった。
主催者と参加したスケーターの方々は、ヨルカツ終了後に周辺道路のゴミ拾いをして終えた。

ヨルカツの枠組みを利用したスケートボード「解放日」

この後9月末まで3回予定されている、ヨルカツの枠組みを利用した「スケートボード『解放日』」の試みは、市内のスケーター同士のネットワーキングとコミュニティ形成が目的である。スケートボードをやる場を一時的に開くことは手段であって、ゴールではない。文化創造館としてはその実証実験の場を提供しているといえる。
また、スタッフは理念と実務の両面において、どう現実的に落としどころをつけるかという難しい課題に直面している。理念として守ろうと固辞するものが、一個人レベルの理想や夢想に陥っていないか。“コスパ”と“タイパ”良く実務を遂行するために、思考停止していないか。理念を軽視していないか。

両者の絶妙なバランスを見出すための試行錯誤を、どこまでつづけられるか。
まだまだ続きます。

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