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11. 認識の違いをすり合わせようとする

今年は雪が少ない秋田市。11月下旬になってもまだ初雪の便りはなく、文化創造館の敷地をよく利用していた高校生や大学生のスケーターは「ヨルカツ」の利用は早々に離脱し、付近の道路で滑るようになっていった。
敷地内の滑走は許可が必要というサインを掲示し、「ヨルカツ」という簡易的に無料で屋外を使える枠組みを用意して、スケーターには声掛けをつづけるも苦情はやまない。雪が降り始めたとしても、また3月下旬になれば雪は解けてスケーターが増えることは目に見えている。さて、どうするか。
 
まずは、関わる人たちと認識を共有し、どうしていくかを話し合う場を設けることにした。
苦情としてどういう声があがっているのか。スケーターたちは何を考えているのか。行政としては、何を問題視し、どういう対応なら可能なのか。指定管理者である私たちは、これまでどんな話し合いをし、調整をし、対策をしてきたのか。
スケーターを快く思わない人も参加しなければフェアではない、との意見もスタッフからはあがったが、とっかかりとして秋田市の担当課と、スケーターと、私たちとで膝を突き合わせる場を11月の終わりに設けることにした。
 
スケーターについては、できるだけその場に参加をしてほしいと思ったものの、開催日まで日があまりない中での呼びかけに応じられる人や公的な場に出て意見を表明する人は少ないのではないかと想像し、スケートボードの経験者に絞ってアンケートフォームを用意し、関係者に情報の拡散を依頼した。
嬉しかったのは、アンケートをつくる際に、日頃ものすごく積極的にディスカッションに加わる風ではないスタッフから、「こういうのはザ・施設っぽくて嫌だけれど」という前置きのもと、こんなことを聞いたらいいのでは、とアンケートのたたき台が送られてきたこと。それをベースにつくったアンケートの拡散に、たくさんの人が協力を申し出てくれたこと。また、道路で一人滑っていた少年に、「アンケートに協力を」とチラシを手に恐る恐る声をかけたところ、「あ、自分答えたんで」と最初は鬱陶しそうな素振りを見せたのに、立ち去ろうとしたら「その紙ください。友達に送って協力してもらうようにするんで」とチラシをもらってくれたこと。10人回答が集まればと低い(が現実的な)目標を設定していたが、1日半で30人を超える人から回答が届いた。
 
迎えた話し合いの当日。館長や秋田市の担当者、スケーター数名が三々五々に集まり、場がスタートした。
何か合意すること、結論を出すことは目的にしないが、認識をすり合わせるための場である。冒頭私から、これまでの経緯や現状、アンケートの集計結果を共有し、警察や弁護士に相談して確認した法律的な解釈や、寄せられる苦情から分析した本質的な課題についての仮説を提示し、そこから議論がはじまった。
 
議論は白熱し、話題は安寧を求める住宅街とにぎわい創出を狙うような施設とが近接している都市構造の問題や、エリアのマネジメントが縦割りになってしまっていること、若者の居場所が中心市街地にないこと、ストリートとスポーツが共存するスケートボードのカルチャー、自分たちのプレイグラウンドは絶対に荒らさないというスケーターの信条まで多岐に渡った。
 
仮に市内にスケートパークが整備されれば、今の問題は解決するかと言えば、NOである、というのが熱い議論を経ての私なりの実感である。そして、文化創造館やその周辺でスケートボードの利用を禁止にすれば解決するかと言えば、それもNOである。スケーターは滑る場所を求めて放浪するし、中心市街地に若者の居場所はないままである。一部の人が抱くスケーターに対する偏見は拭えないし、もしかしたら大人を信用しない若者の量産につながるかもしれない。都市構造やマネジメントの課題は積み残され、スケートボード以外の問題が持ち上がった時に、再び同じループにはまることになるだろう。
万能な唯一無二の解決策はなく、細分化して存在するニーズやズレに対してアプローチするような小さくとも多様なアクションが必要になりそうだ。そのアクションを起こす主体は文化創造館(だけ)ではないはず。「それは文化創造館だけが担うことなのか」とスケートボードの問題が持ち上がった当初、私たちに問うた町内会長の言葉を思い出す。

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