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鏡よかがみ

car:FIAT500
music:ゲスの極み乙女 私以外私じゃないの


他人を落とせば、自分の評価が上がると思っている人のなんと多いことか。

イライラは美肌の敵!
仕事が終わっても仕事のイライラを引きずるのはサービス残業!
と分かりつつも、人間、腹立たしさはあるもので、それを相手の前で出さずに、個人的空間である自分の車まで持ち帰った私を褒めて欲しい。
職場でサーモマグに淹れたティーパックのジャスミンティーくらいではこの怒りは流れない。
早く帰ってポットでカモミールティーを入れて、ゆっくりお風呂に入って、お気に入りのパックをしよう。
愛車のコンパネのミントグリーンが少しだけ私を落ち着かせる。
ふんわりとしたアイスブルーのブランケットを引き寄せ、もう一口ジャスミンティーに口をつけると、

そうだ、空港を通って帰ろう。

と思い立つ。空港を擁する地方都市にあるちょっと外見の求められる女社会的な会社に勤める私は、疲れるとキラキラの空港の滑走路を見て元気を出すのだ。緑と赤と黄色の光が道を作り、飛行機が飛び立つ姿は圧巻で、お気に入りなのだ。


ドライブする事が決まるとまた少し心がほぐれる。私が怒っても相手には届かないし、他人を引きずり落とそうとする人に寄せる心などない!と切り替えて、大人になったら乗りたいと思っていた夢を実現させて愛車のエンジンをかける。

多分私の容姿は恵まれている。
ただ、容姿が極端にいい人間は中身が空っぽだという風潮は何なのだろう?
私は、自分が綺麗なのが好きだ。それは、他人から綺麗と言われるのが好きなのではなくて、ショーウィンドウに映る自分の姿や、受話器を取るときの指先、カップの持ち方。椅子に座っているときの姿勢を想像したとき、私が輝いているのが好き。
そういう、自分が好きになれる自分になるために磨けば磨くほどぶりっこと言われるのは何なのだろう。

美しさとは片側通行の概念で、自分の美は誰かにとっての醜であるのは当たり前で、だから、自分が思う美しさを追うだけで良いはずなのに。


“なんで、他人を攻撃するかなぁ” 

コンソールに置かれたジルスチュワートの手鏡がくらい車内できらりと光を反射させて

“私を攻撃している時のお顔、鏡で見せて差し上げたい”
なんて、やもすれば攻撃的な気持ちが湧き上がりそうになるのを、グッと堪えて、滑走路脇の直線道路に滑り込む。

ドライブのお供に流れてくるのは、ちょっと、ゲスな不倫をなされたアーティストさんの曲。


“私になってみてよ、ねえ
私になってみたいんでしょ?
声にならない言葉で自分が煙に巻かれた”

という歌詞に、いつも、苦いものを感じるのだけど、


今まで、何度この顔のせいで妬みや嫉みを受け止めてきただろう。
今回の彼女だって、今まで同期として普通に接してきたのに、彼女が憧れている営業の先輩が私を食事に誘った途端この有様。

お断りしたら、何様のつもり
お受けしたら、私の気持ちを知っていて

こう言われる事が目に見えている、

あぁ、何でこうなんだろう。
別に、この顔で生まれてきたからこの顔で生きてて、自分が自分を綺麗と思いたいから、喋り方から歩きから所作、メイクをたくさん研究して、自分の好きな自分になっているのに、周りから攻撃されなくちゃならないのだろう、、、。


いけない、体に力が入ってる、、、。

ふと、メーターに目を向けると93キロを指していて、慌ててアクセルペダルから足を離す。

途端に、この車に乗っている理由を思い出した。
私はこのフィアット500のような女性になりたいのだ。
優美で優しく、美しいフォルムに、車としての走行性能を一つ残さず詰め込んで、繊細で優美なそして、パワフルで他に追従をゆるなさい個性。

“これが私の欲しいもの”
そうじゃない。間違えちゃいけない。

ボディーと同じ質感のコンパネタイルを指で触れる。
あぁ、今日のヌーディーベージュの色も合うな。
指先が、ミントグリーンの上で滑るのを視覚と感触で味わうと、心が落ち着いてくる。

私の内面は私しか住んでいないから、私が住みやすい心と体を作るだけ。
他人が攻撃してくるのは、私の問題でなくて、相手の心の問題。
わたしが誰かを攻撃しなければ大丈夫。


“そうでしょ?”


わたし以外わたしじゃ無いの。


そうよ、わたしはわたし。

明日は、うん、少しだけモードなモスグリーンのメイクにしよう。ちょっとだけ500の真似をして。
職場について、ルームミラーで笑顔の練習車を降りれば、わたしはきっと大丈夫。

夜の空港沿いの道路をレディライクなミントグリーンが力強く走り抜ける。
外も中も美しい。こんな難しいことはないから、楽しいの。
わたし以外わたしでしかないんだから、


“わたしがなりたい自分”

をそれぞれ目指すしかないのだから


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