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KAKUTEISHINKOKU2023(確定申告)

春はあけぼの、夫はなまけもの

……ごめんなさい清少納言さん。

事の発端は、令和5年2月16日から受付を開始した確定申告だった。

同年3月15日までの間、われわれ夫婦は人生はじめての確定申告をすることになる。住宅ローン控除を受けるためだ。

うちの夫は、事務処理が大の苦手である。
本当にそんなんで管理職をやってたのか? と目を疑うほど、郵便できた重要書類はいつも長いことテーブルの上に放置されている。
ふるさと納税だって、ここ最近まではすべて私が対応していた。
夫は自分で書類を準備できないくせに、むかつくほどのふるさと納税品を注文する。同じ自治体にまとめて頼むとか、そんな気の利いたことをするそぶりもなく、次々と返礼品が届いてはうれしそうに食べている。

その頃、ワンストップ制度はネットで完結してなくてすべて紙で対応したもんだから、私は夫婦で相当な数の手続きをこなし、しまいには会社のデスクで書類を広げて確認したこともある。元同僚には「業者ですか?」と謎に褒められたほどだ。

そんな夫に確定申告をさせるという超過酷な期間。
私も事務処理は得意か? と言われると、実際はそうでもないが、夫に比べたら、堂々たる顔で「得意だ」と言えてしまう。

そんな不安な思いを抱えながら過ごしていると、勤務先のSlackで確定申告のチャンネルができた。同じように確定申告をするメンバーがこんなにもいるかと思うと、心からホッとした。サッとやりとりを確認すると、確定申告の期間が始まる前にある程度準備を済ませていたり、私が一ミリも知らなかった情報を提供してくれたり……とにかく強すぎるメンバーが揃っていた。

もし夫がこのチャンネルにいる人たちみたいに、確定申告に激強だったら……私はきっとバラの確定申告期間を送っていたに違いない。と、あらぬ妄想をしてしまうが、しっかりと現実をみることにした。

確定申告の受付が始まった2月半ば。最初から夫を脅すと体力が続かないと判断し、最初はサザエさんが始まる前の「サザエでございます」並みのテンションで「確定申告がはじまったでございます」と、伝える。もちろん夫には全く響いておらず、今日もポケモンカードのレートらしきものを眺めている。

2月下旬。夫が無事に確定申告を終えた暁には、どんな輝かしい未来が待ち受けているのか? を具体的に想像させようと決めた。概算だが、どのくらいの金額を控除してもらえるのかを調べ、夫に伝える。
夫は「想像より返ってくるんだー」と生温い返事をしたあとに「じゃあやらないとね」と発言。よしっ。一歩前進。

3月頭。私は30歳になった。30歳の異名は「而立」だ。
「而立」した大人は確定申告ができるはず。
私はそう自分を奮い立たせて、一気に終わらせた。しかし、自分は終えても夫は終わってない。清々しい気持ちにはなれなかった。

……そして忘れないであろう3月13日(月)。
私は約8ヶ月ぶりくらいに映画館に行った。レイトショーでアカデミー賞を受賞したばかりのエブエブを鑑賞。言わずもがな傑作で、ポップコーンを過去一で落とすほど前のめりでスクリーンに食いついた。映画のパンフレットも購入して、この上ないテンションで家に帰ると……夫が「確定申告を始める」と言い出した。

まずは簡単に手順を説明し、あとは項目通りに入力をすればいいと伝える。横で私はエブエブのパンフレットを眺めながら、見守ることにした。しかしそのあと、悲劇は待ち受けていた。怒濤の質問攻めが始まったのだ。

最初は穏やかに答えていた私も、だんだん腹が立ってきた。
先ほどからパンフレットが1ページも捲れていない。
完全エブエブの世界にいた私の頭がだんだん確定申告という現実に引き戻される。……最悪だ。
ついに堪忍袋の緒が切れた。「まずは調べてから聞きなさい!」。
すると夫の顔がシュンと一気に何階層も暗くなった。

……しばらくして、私はパンフレットを堪能できていることに気がついた。あれから夫が一度も話しかけてこない。こっそりと様子を眺めていると、先ほどから書類を探しては眉間に皺を寄せて……うん。全く進んでない様子だった。

いつも私はここで手を差し伸べてしまう。シュンとした人をみると放っておけない性なのだ。でもこれだと夫は成長しない。いま夫はサナギから羽化しようと、もがいている。そうだ、もうすぐで夫はアゲハ蝶だ。ポルノグラフィティだ。

そして私は黙ったままリビングの席を立ち……こっそりと寝た。

* * *

次の日、洗面台でコンタクトをつけていると後ろから夫がやってきて、「確定申告が終わったよ。……ありがとうね」と、報告をしてきた。昨日私の機嫌が悪くなったことに気づいて、あのあと反省をしたらしい。そうだ。うちの夫は、時間が経つと反省して、しっかりと謝ってくる。ここはいい所だ。

2023年3月13日。
夫は無事にアゲハ蝶になり、私たち夫婦の確定申告デビューが幕を閉じた。
<完>

この記事は2023年3月14日にnoteで開催された下記イベントを視聴して、書いてみようと思い立ったものです。勢いのまま、30分ほどでダーーーッと書き綴ってしまった駄文をお許しください。

ぼる塾の田辺さんが、酒寄さんの書く文章で自分は負の感情もデトックスできているのかもしれない(言い回しが違ったが)。のようなことを仰られていて、私も記事にしてみました。

書き終えたあとにこの出来事を客観視すると、確かに大したことないし、なんだか平和な夫婦だなと我ながら思いました。気づきを与えてくれたぼる塾の酒寄さんと田辺さん、そしておふたりの面白いお話を引き出しながらイベントを盛り上げられていたしずるの村上さんに感謝です!

追伸
この記事は、しばらく夫には内緒です。
酒寄さんの新刊『酒寄さんのぼる塾生活』も注文しました。届くの楽しみ!
そして確定申告がまだの人……ファイト!


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大好物のパイナップルの詰め合わせを 食べて幸せに浸りたい。