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医療AI推進機構の設立

LPIXEL設立から約10年が経過しました。実は、今年5月に代表取締役を退任し、9月に取締役も退任し、新たなチャレンジを始めています。なぜ退任したのか、何にチャレンジしているのかを、noteにまとめてみたいと思います。

[こちらの記事は2023/12/3にMediumに投稿した記事を一部編集しNoteに再掲したものです]

新しいチャレンジ「医療AI推進機構」を設立しました

希少疾患を含む様々な疾患に対応し多様な医療AIが生まれ、選択できる時代を目指して、「医療AI推進機構」を設立しました。これが、私のLPIXELの次のチャレンジです(退任の経緯はのちほど)。最近、RSNA(北米放射線学会)@ シカゴから帰国し、世界で最も医療AIが集まるこの学会に参加することで、この団体の方向性と重要性が確固たるものになりました。

<現状>

FDAのリストでは、2023年10月19日時点で医療AIの登録数が692個確認ができます。また、deepc社(ドイツ)のプラットフォームでは約600のAI(研究用含む)を選択して使えると謳っており、Blackfold社(UK)、Carple社(インド)等のプラットフォームでも100近くの商用AIが比較して使えるようになっていました。

それらは既存のPACSを中心とする画像管理システムとシームレスに連携できるようになっていて、実用性の高い状態になりつつあります。医療AIは黎明期を超えて普及期に差し掛かっていると思います。

一方で、今回RSNAで残念だった点が、AIの開発テーマが市場性が高いテーマに集中していて、目新しいものがほとんど生まれていないことです。
例えば、胸部X線 / 肺CTの異常陰影および骨折の検出、脳MRI/CTのレポート出力および白質/出血等の検出、マンモグラフィの石灰化および腫瘤の検出などに集中しており、特に世界最大の米国市場で急速にコモディティ化しています。その他、前立腺MRI、肝臓CT、超音波のテーマもありますが、こちらはまだ大きな改善の余地がありそうです。

マーケットが大きいものに開発リソースが集中することは市場経済で自然な流れですが、臨床的な重要性で言えば、その他の希少疾患や小児などを対象とした多様な疾患を対象とするAIが流通することの方が、現在の医療リソースの均てん化という点では利益的な面もあります。医療AIが溢れ、あらゆる疾患や領域をカバーし、多様な選択肢が溢れる世の中であることの有益性はいうまでもないでしょう。

一方で、全くそのようになっておりません。特に日本は医療AIの登録数も世界とは桁違いに少なく、より選択肢が乏しい状態となっています。そこで特に悲観的にならざるを得ないのは、米国で世界中のベンダーが鎬を削って競争し、そこで淘汰されてきたAIが3–5年後に日本参入してきた時に大量の日本データを学習して市場を圧倒してくることです。

そうなった時に、一部地域だけで闘ってきたベンダにどのような勝ち目があるのか、そこで生まれる差別化は本当に魅力的なのか、自己肯定バイアスを除いて正しく恐れる必要があります。当然、AIには性能・製品としてのローカライズの要素が重要なため、自己肯定感を高める材料にはなります。しかし、製品のコモディティ化は直近3年の脅威ではありませんが、時間の問題です。

<原因>

上記の日本の現状における原因は大きく3つあると考えております。

  1. データ活用の困難性

  2. 法規制対応の煩雑性

  3. 市場経済の限界

1.データ活用の困難性

AIの研究開発はデータ駆動型の開発が中心であることから、データの利活用促進は非常に重要です。
当然ながら、我が国でも様々な取り組みがなされてきました。2017年に厚生労働省で開催された「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」においても、AI開発を進めるべき重点領域に選定されており、日本の医療技術の強みが発揮できる領域として期待されてきました。そのアクションの一つとしてAMEDから6学会(日本医学放射線学会、日本消化器内視鏡学会、日本病理学会、日本眼科学会、日本超音波医学会、日本皮膚科学会)にデータベース構築のための予算が割り当てられデータベースが構築されてきました。また、内閣府主導で2018年に「次世代医療基盤法(正式名称:医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律)」が施行されました。これらにより、医療データの利活用促進が図られることが期待されましたが、残念ながら思ったように活用が進んでおりません。学会のデータベースは現状は商用利用するものとして整理されておらず、学術研究までに利用目的が限定されています。また、次世代医療基盤法により画像の利活用についてもガイドラインがあるものの、実際に匿名化の定義が十分に整理されないまま、画像の取り扱いは未だされていません。

一方、Lunit社、Vuno社のように上場を果たし、医療AI業界を牽引している韓国は、2016年に発表された「韓国の第4次産業革命戦略」の一環として、医療分野のビッグデータとAIの利用が強調されました(韓国の躍進については過去のブログでも紹介しています)。特に公的機関が持つ豊富な医療データを活用し、これを研究機関や民間企業がアクセスできるようにする政策を進めてきました。

これにより、医療AIベンチャーは高品質のデータに基づいた製品開発を行うことが可能になりました。同じ頃に日本も医療データの重要性に気づいてきたのに、日韓に天と地の差がついたことは、大変残念であります。

2. 法規制対応の煩雑性

法規制対応については内閣府主導の規制改革推進会議でも大きく取り上げられ、厚生労働省においてもこの数年で大分情報性がされ、取り組みやすくなっています。PMDAにおいては情報を「プログラム医療機器について」というページに集約しており、こちらを見ればこれまでの流れや、現状についてが理解できるようになっています。また、常任理事を務めさせていただいている日本画像医療システム工業会(JIRA)では、事業者が取り組みやすくなるような豊富な動画/記事コンテンツが良心的な価格で提供されています。2023年からは対面助言サービスもあり、新規参入を目指すスタートアップの数も増えてきてます(仲間募集中!)。また、医療AIベンチャー協会AI医療機器協議会のようなスタートアップを主体とする業界団体においても、この数年で医療AIの研究開発に取り組む同士と繋がることができ、法規制等の情報共有や、政策提言に積極的に関与し始めています(仲間募集中!)。

様々な努力がされているものの、依然としてAIを研究するアカデミアや新規参入企業にとっては、法規制対応は十分に高いハードルとなっており、大きな参入障壁となっています。

3. 市場経済の限界

市場性の高いところから製品開発することは市場経済では自然の流れです。創業したLPIXELでも様々なプロジェクトがありましたが、市場性が高いものの優先度が常に上位になり、市場性が低いプロジェクトについては残念ながら優先度が低い状態が続いている。市場性が高いものは当然競合が多いことから、それらを磨き上げないと競合優位性がなくなってしまうし、そこに集中して結果を出し続けることは多くの労力を費やす。そのため、オープンイノベーションで様々なステークホルダと連携して機能拡充したり、補完し合う関係性を構築することが重要である。

<なぜ退任し、なぜ医療AI推進機構をつくるのか>

これらの状況を鑑み、医療AIが豊富な世界を実現するために「医療AI推進機構」を立ち上げました。変化は避けられないものですが、私たちはその変化の先頭に立ち、より良い方向へと導きたいと思っています。改めて冒頭の話に戻りますが、LPIXEL設立から約10年が経過しました。ここ数年はAIの研究開発や販売促進を優秀なチームに委ねてきました。LPIXELは裁量権を持ち、自然に権限を移譲するカルチャーを持っています。これまで積極的に権限をチームメンバーに移譲してきた私は、現在、LPIXELでの「グロース(売上の最大化)」フェーズにおいて、権限移譲を進めており、毎年順調に成長を遂げています。この数年の私の役割は「社会開発」であり、教育活動をしたり、3–5年後の事業成長のために業界変革をすることでした。そして今後はその活動により向き合い、社会やマクロな視点から良い影響を与えることに集中しするため「医療AI推進機構」の設立を計画しました。この法人をLPIXELで行うことも検討しましたが、社内でもこれは独立して行うべき活動であると結論づけられ、私はこの新たな挑戦に集中することになりました。そういった経緯で、まず今年5月に代表取締役を退任し、9月に取締役も退任しました。今後、LPIXELにはファウンダーとして引き続き関わっています。
私は中長期的にLPIXELと業界の成長のために必要な仕掛けづくりに集中し、貢献していきたいと思います。私の選択に様々な意見があることは承知していますが、この決断は最善であると確信しておいます。5年後の業界とLPIXELの状態を通じて、皆様の疑問に答えたいと思います。

<で、結局何するの?>

一言で言えば、医療AIの充実のために必要なことは何でも行います。特に、データの有効活用と法規制対応の2つの大きなボトルネックを解消することに重点を置いて活動します。さらに、データを中心にした新たな経済圏の構築と、関連ファンドの準備にも取り組んでいます。詳細は近日中に…。この2ヶ月は創業初期の多忙なタスクに追われていました。本来であれば12月から1月にかけて、体制や情報が整った上で皆様にご挨拶する予定でしたが、最近代表の退任に関する情報が一人歩きし、心配されている方も多くなってきたため、ここで状況をご報告させていただくことにしました。急ぎのご質問や相談がある方はご連絡ください。優先的に対応させていただきます。

引き続き、業界のさらなる発展に向けて邁進して参りますので、今後ともご支援とご指導をお願い申し上げます。

つづく。


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