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RSNA AI 2023まとめ

Radiological Society of North America (北米放射線学会)、いわゆる"RSNA"はコロナ禍以降最大の盛況でした。2023/12/18の発表によると、今年の参加者は4万人を超え、コロナ前に迫る参加者数です。

私は4年ぶりのRSNAの参加となりました。それまで4年連続でシカゴでAIの動向を見てきて、その後はオンラインで動向を追っていたつもりでしたが、今回は洗礼を受けたような気分になりました。こちらでは、全体の総括をしていきたいと思います。

1. RSNA AI Show case

AI 専門エリアであるAI Showcaseのブース数は100程度であり、ここ4年間の出展者数自体は横ばいです。AI Showcaseの周辺でも関連企業が出展していたため、120-130社くらいは展示していたとおもいます。COVID-19の渦中で中心となったオンライン展示の流れを引き継ぎ、未だオンラインのみの出展社もあります。

<600のAIがワンストップで。プラットフォーマーの躍進。>

1番の驚きはプラットフォーマーの躍進で、CADベンダーはかなり淘汰が進んでいたことです。この傾向は4年前に十分に予想していてブログ*にも書いていたことではあったのですが、その勢いはかなり進んでいる印象を受けました。

*RSNA(北米放射線学会)2019。 “AI Showcace”から見えた医療画像AIの最前線。

例えば4年前の2019年創業のdeepc社(ドイツ)は、600近くのAI(研究用も含む)を同一プラットフォームで使えるようで、複数社のAIの解析結果を一度に比較できるようになっていました。実際にブースに訪問し、プレゼンも聞いたのですが、Gatewayとクラウドのハイブリッドのシステム構成(完全クラウドも可能らしい)もよく考えられていて、実用性の高い状態になってました。興味ある方はHPをご覧ください↓

<deepcの躍進はいい意味で予想外?残念な面も...>

4年前はすでに多くのPACSベンダーがプラットフォーマーとしてアピールを強くしており、PACSベンダー以外にも

-Blackfold(UK)

-Carpl(インド)

-Arterys(Tempusが買収)

-EnvoyAI(テラリコンが買収)

などのプラットフォームベンダーがいて、彼らが他に追随を許さないと思いきや、deepcの躍進を見るとそうではありませんでした。それよりも、CADベンダーのコモディティ化の方が深刻で、あまり興味を持たれていないし、目新しいものはほとんどなかったのは残念でした。韓国で上場し、世界的にも著名なLunit社の導入数が世界で40カ国、3000施設を超えているようで大きな躍進は見えますが、いい意味で想定の範囲内です。その反動もあってか、プラットフォーマーを中心としたスマートなシステム構成、AIベンダーと連携したレポート連携、既存PACSビューワーと表示システムの連携などの素晴らしさが際立ちました。残念ながら、ほとんどの素晴らしいプラットフォームのUI/UXは日本では実装されていません。しかし、大きな変化はすでに起きており、日本の医療が、その恩恵を受けるのは時間の問題であると信じたいところです..…

<Imaging AI in Practice demonstration>


Imaging AI in Practice demonstration Area

”Imaging AI in Practice demonstration”はAI Showcaseの真ん中に位置する2年前から新設された区画のようで、私は初めて訪問しました。その名前の通り、様々なベンダーのAIが実用に近い形でデモ展示されていて、AIの導入イメージを得ることができる区画です。個社のブースでは自社のCAD、あるいはプラットフォーム等の展示がされていますが、ここではワークフローを俯瞰して体験し、学ぶことができます。

実機を触れてみたいと思えばテーマ分けされたdemoブースが3つ用意されており、今回は”Trauma to Lung & Thyroid Nodules”、”Acute Dyspnea to Incidental Breast Mass”, ”Inpatient vs Outpatient Lung Cancer Workup”がありました。そもそも実機の使い方もイメージがわかないという方は、中央の発表ブースで大体1時間おきに2-30分の講演をしてくれるので、そちらを聞くだけでも十分に勉強できます。AIの導入を検討し始めた段階の方や、ワークフローを俯瞰してAIを学びたい場合におすすめです。

例えばSiemens社のビューワーが展示されており、実際のビューワーで、原画像、AI解析画像、AIレポートを参照することができます。実際はどのような操作をする必要があるのか、イメージを持つことができます※画像参照(許可を得て撮影/掲載しております)。このような実践に近い形でのdemoを複数社が協力して展示していることは素晴らしいと思いました。

実際にブースに行けなくとも、こちらのページで概要がまとめられております。少しでも興味を持たれた方がいらっしゃいましたらチェックしてみてください!

▼区画の説明ページ

▼区画の紹介動画 2023(2022のものも別にあります)

▼Imaging AI Workflow

https://www.rsna.org/-/media/Images/RSNA/Education/AI-resources-and-training/Imaging-AI-Workflow.ashx?fbclid=IwAR0MHIBY_Y5Mfh0rrm-QbCYMJwMUF6EcmCRygpoGJ26XYpbmihObAid59nk

▼Post-Imaging AI Workflow

https://www.rsna.org/-/media/Images/RSNA/Education/AI-resources-and-training/Post-Imaging-AI-Workflow.ashx?fbclid=IwAR3Ovt4lL7L3yx60P6TLaOT8YvilNVVQr101djfOz7Q8CqDiDbEJsXMIpCw

また、基本的な規格等の説明もありますので、これを機にAI関連の規格等を勉強したいという方はこれらのページをご参照ください。

▼IHE AI Workflow for Imaging

https://www.ihe.net/uploadedFiles/Documents/Radiology/IHE_RAD_Suppl_AIW-I.pdf?fbclid=IwAR1Wj_gnVStBI6vn8rRgTZxFTwtbyc5brdLSIXaZrH71tFTpznLTtbcjjss

▼HL7 FHIRcast


AIを勉強したり体験できるのは企業展示ホールだけではありません。今日はLearning Centerを紹介します。

2. Learning Center

こちらでは、その名の通り、多くの教育的な症例集やデジタルでアーカイブされた発表資料を閲覧することができます。その中でも独立して目立つ存在となっているのが”AI Deep learning Lab”です。こちらでは、初学者向けに様々なハンズオンワークショップが行われております。こちらの優れた点は、それぞれのコンテンツがGitHubでアーカイブされており、誰でも確認できることです。展示ブースのAI ShowcaseにあるAI TheaterやImaging AI in Practiceは現地でしか講演を聞くことができませんが、こちらは非常にfriendlyです。

▼RSNA AI Deep Learning Lab 2023

例えば、最近注目を集めているChat GPTを活用したDICOMの匿名化に関する発表もあります。

▼ChatCTP: DICOM De-Identification Using ChatGPT

3. 大企業ブース

企業展示ブースでAIを展示しているのはAI Showcaseだけではありません。当然のように、企業ブースで最も存在感を示しているのは、CT/MRIなどの大手モダリティベンダーやPACS/ワークステーションなどの大手システムベンダーです。そこでもAIが取り上げられていました。

<AIは当たり前に>

2019年、多くの大手企業の広いブースでは、「AI」と表示された柱や、大きなパネル、特別エリアなどが広範囲にわたっていました。おそらく、企業ブースでAIをアピールした度合いとしては、その年がピークだったのではないでしょうか。これはAIへの投資が減少したり、臨床的価値が薄れたことを意味するわけではありません。むしろその逆ですが、ニュース性という点で話題の価値が下がったことを意味していると思います。多くのモダリティではすでに画像の再構成などに深層学習技術が活用されており、エリア全体でAIが関わっています。そのため、AIを特別なエリアで強調する必要はもはやないのです。良い意味で、大手ベンダーにとってAIは当たり前の存在となっています。現在、AIアプリケーションやプラットフォーマーとしてのポジショニングで他を圧倒する差別化は表面的には見られません。しかし、細かく見ると投資への意欲や実際の取り組みには大きな差があり、3-5年後にはその差が顕著になると個人的には思っています。

<GPTはRSNAでどこまで?>

業界を席巻しているGPTの利用ですが、RSNAでは少々盛り上がりに欠けています。その中でも、Microsoftは注目度が高かったでしょう。Microsoft社は2022年に医療関連の音声認識サービスを提供するNuance社を買収し、2023年にOpenAI社への大型出資を行い、医療DX化を強力に推進しています。今年の4月に開催されたHIMSSの年会前にMicrosoftが発表したExperience DAX Copilotの展示が今回も行われていました。紹介動画を見ると、その世界観を理解しやすいので、興味がある方はぜひご覧ください。病院経営のDX化にフォーカスした展示会は、おそらくHIMSSに集中しているため、2024年3月のHIMSSにも引き続き注目していきたいです。

一方、放射線領域に絞ると、GPTの利用用途として最も想像しやすいのは読影レポートの作成ですが、取り組み自体は確認できましたが、大きな驚きはありませんでした。AI Showcaseではsmart reporting社がGPTの利用について触れていましたが、主要技術としてはルールベースや標準化がしっかりしており、レポート生成のUI/UXが優れている点が最大の特徴でした。他の企業では、レポートの標準化や音声入力の精度向上、医療現場のコミュニケーションをbotで対応するなどの取り組みが見受けられました。これは私たちが普段Chat-GPTを使うイメージに非常に近く、医療現場への活用にチューニングされています。全体を通じて、放射線領域での驚くようなGPTの活用例はまだ限られており、これからに期待しています。

総括

総じて、今年のRSNAは大盛況でした。AI Showcaseもコロナ前と比較すると縮小はしたものの、1日では細かく周りきれないほどの大きさです。医療AIをが最も盛んな学会の一つであると言えると思います。黎明期から普及期に移行していることが感じられるHands-onの展示やworkshopが多くなってきました。一方で、どこも似たようなAIが多くて1年後の姿も想像しやすく、この5年間動向を追い続けてきた人からすれば新鮮味に欠ける展示エリアになりつつあるように思います。最近話題のGPTについては特化した企業も無く、逆に言えば差別化になるため、来年はもう少しレポートやワークフローに関連する展示も増えるのではと期待しています。しかし、GPTはBtoCや病院全体のワークフローに関連する領域が本場になるため、2024年はHIMSSに行った方が良さそうだな….(まだ行くかは迷ってます)と思っています。

そして日本のAI企業の存在感がないことは残念です。日本にも世界で独自性で戦えるAIも少しずつ出てきておりますし、世界から日本市場に参入意向が強くなっていることも感じます(特に韓国・中国などのアジア企業)。そこで、来年は"Japan Pavilion"を設けて、しっかり一丸となってアピールしていきたいと考えています。主体となる4企業がまとまりましたので、実行します。まだまだ企画中のため、少しでも興味がある方がいれば一緒に企画して盛り上げていきたいと思っておりますのでお気軽にご連絡ください!

ご覧いただきありがとうございました!

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