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チョークには地球の歴史が詰まっている

チョーク。誰しも知ってるチョーク。誰しも一度は使ったことがあろうチョーク。こんなに有名で、様々な場面で活用されているにも関わらず、スポットライトが当たることはない。長さが3分の1位になったところであっさり捨てられてしまう、そんな地味で不びんな存在、チョーク。

我々はそんな身近な道具であるチョークのことを知っているようで、ほとんど知らない。たとえば、チョークを顕微鏡で見ると、あのシンプルなルックスからはかけ離れた神秘的な姿を現すということも。今回はチョークについてじっくりご紹介したい。

「チョークって何でできているの?」

「チョークって何でできているの?」この質問に即答できる人はそう多くないだろう。チョークは小さな白い球が集まってできている。顕微鏡で拡大してみると、写真のように白い球はまるで紙皿が雪だるまのように重なりあうかのように構成されている。

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Emiliania huxleyi coccolithophore

この「紙皿」は化石である。チョークはかつて海に浮かんで暮らしていた小さな丸い生き物だった。それが死に、海底に沈み、何千年もかけて積み重なって、白い固まりになる。チョークの前身である小さな丸い生き物は「コッコリス」と呼ばれる単細胞の植物プランクトンだ。

チョークが発見されたのは比較的最近のこと

何千年にもわたる生物の営みが、少しずつゆっくりと積み重なってできた白い固まり、チョーク。それが人間に発見されたのは地球の歴史からすればごくごく最近のことだ。

1853年に大西洋を横断する海底ケーブルが敷かれた時、海底からワイヤーを引っ張り上げると、毎回白い泥のようなものがついていたという。それがチョークだった。

こうして、チョークの地層がヨーロッパからアジアにかけて、約4800キロメートルほど延びていることが判明した。たとえば、英国とフランスの間に位置するドーバー海峡では白い絶壁を見ることができるが、それはチョークである。

「世界の歴史の重要な章がチョークに書かれている」

世界で初めて顕微鏡でチョークを観察した博物学者のトーマス・ハクスリー氏は1868年、チョークが多く存在するイングランド東部のノリッチという街の労働者に講義をした。この講義は『1本のチョークについて』というスピーチとして、今も有名だ。そのスピーチでハクスリー氏は「世界の歴史の重要な章がチョークに書かれている」と言った。

「何の変哲もない1本のチョークを握り、その中にある微小な構造を注意深く見つめてみると、分かることがあります。それは、南イングランドの平野がかつては今の状態とは異なり、浅い海の下にあったこと。そして、小さな生き物たち、まさに今あなたの手の中にあるものであふれていたということです」

ハクスリー氏は続けた。「近年になって、大地が上昇し、海水は蒸発しました。そして今あなたの目の前にあるものは、今となっては姿を消した化石化された古代世界の証拠なのです」
 
あまりにロマンティックな見方かもしれないが、チョークには地球の歴史が、そしてかつて海で生活していた生き物たちの栄枯盛衰が詰まっているのだ。1本の変哲のないチョークも、その歴史を知れば、ロマンのつまった存在に変わるのである。

(本記事は、もともと8年前に私がロケットニュース向けに書いた記事になります)

参照元:
Thinking Too Much About Chalk
On A Piece Of Chalk

Photo by Jason Blackeye


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