正当性のないイライラの話



【主要登場人物】
・わたし…わたし
・デブメガネ…営業のおじさん。デブでメガネをかけている
・ゴミ…3ヶ月前くらいに入社した2個下の女
・部長…部長。
・わたしと同じ部署の酒ヤクザ…とはいえ潰れることがないすごい女
・バリキャリ女課長…わたしの憧れの女
・ビッチ…わたしはそう思ったことはないがわたしの隣の席の子がそう呼んでたからわたしもそう呼んでるアメリカかぶれの可愛い女



弊社では月に一度「本社飲み」と呼ばれるものがある
「本社飲み」と言っても
本社のみんなでどこかへ飲みに行くのではなく
文字通り本社の休憩室(広い)で行われるなぞの集いだ

大量のドミノピザと大量のケンタッキーのポテトと
ぬるいペットボトルのジュースと
クーラーボックスに入った大量の酒(ピクニックかな)が
テーブルを埋め尽くすように雑多に並べられ
仲良い人たち同士で固まって話したりしてる会である

弊社の社員は65%が日本人ではないので
いつも飛び交う会話は理解できない言語たちばかり
わたしはその輪には入れないし入る気もないが
「1日分の晩飯代が浮くぜ!」という考えから
ピザをたらふく食いコーラをガブ飲みするために
毎回必ず参加している

いざ休憩室に入ると
やはり知らない言語のオンパレードなので
とりあえず日本人がたむろしてる輪にお邪魔する
そこの輪でいつも暴れているのがデブメガネだ

わたしとデブメガネは、部署は違うが
一応同じ業務に関わる人間なので
一応話を合わせ仲良い感じにしてきた

去年の忘年会のとき、デブメガネが
「新年会、しましょうやァ!」と言い、
本社飲みでいつもデブメガネの輪にいる人たちが呼ばれた
そのメンバーの中には、普段の業務では
関わらないような上の立場の人が何人かいたから
めちゃくちゃ嬉しげに行くことにした

日が近くなった頃、デブメガネが
社内連絡ツールで新年会参加者のグループを作り
「○○、○時、予約しました」という業務連絡があった
そのメンバーの中に知らない女が1人いた

そのまま誰やろなという感じで当日店内に入ると
たまたまその知らない女の隣に座ることになった
「初めましてゴミ(あだ名)です」
声が小さすぎて聞こえない
ここは居酒屋だ
病院の待合室みたいなボリュームでびっくりした

新年会がスタートし、
その知らない女をデブメガネが紹介した
「この前カスタマーサポートで入ってきたゴミです、
みんな仲良くしてあげて」
そこでわたしはやっと気づいた
ビッチ(あだ名)が困ってたやつだ
その部署の女の子から
新人が仕事できなくてビッチが最近病んでる
という話を聞いたことがある
お前がその仕事できない新人か!

デブメガネは幹事なのでその場を回していく
「年末年始何してた?年越しの瞬間は?ハイ、部長から時計回り!」
部長「飲んでた」
わたしと同じ部署の酒ヤクザ「飲んでた」
バリキャリ女課長「実家帰ってた」
ゴミ「実家帰ってました」
まだお前の番じゃなくね?「わたし」

まだゴミの番じゃないのだ

デブメガネはすかさず
「いや順番まだだからw」とあたたかなツッコミを入れた

どういうボケなのだろうか?
素?
わたしはめちゃくちゃ怖かった

デブメガネはあらゆるタイミングで
ゴミが中心になるような話題をふっかけてきた

わたしに向かっても
「ゴミと昼ごはん一緒に食べてあげて」などと言ってきた
わたしは普段自席で資格勉強しながら昼飯食ってるので
絶対嫌だよと思いながらニコニコして適当に返した

わたしはここでようやく気づき始めた
この新年会の裏テーマとして
『入社してしばらく経ったのに全然馴染めてないゴミがみんなと仲良くできるようにする』が
デブメガネによって設定されているな、と

しかしまあゴミは喋らない
話を振られても微妙な笑顔で何か言い淀むだけで文章を発さない

新年会も終盤に近づき始めデブメガネがゴミに
「ぶっちゃけなんか嫌な奴とかいない?俺たちが守るから(意訳)」
と話しかけるも相変わらずゴミは言い淀むだけ

ちょっと離れた席で話が盛り上がっては
デブメガネがその話題についてゴミに振って
みんなが一旦黙りゴミが言い淀みその場がしらける
2時間ずっとこの繰り返しだった

ようやく食べ飲み放題の時間が終わり
ゴミと、家庭があったりするひとたちは帰り
わたし・デブメガネ・部長・酒ヤクザ
その他数人が2軒目へ向かった

その2軒目が地獄だった
メインテーマは『デブメガネの反省会』だった

デブメガネは本社飲みでいつも暴れるように
とにかく酒癖がひどい
しばらく酒を飲んでいると
呂律も回らなくなるし声デカなるし足元フラフラになるし
極め付けはなんかすぐ喧嘩する
今日の喧嘩相手は部長だった
実はその部長の部下にあたるのがゴミだ

デブメガネは部長に向かって
「なんでゴミのサポートしないんすか!」と言っていた
部長もまあまあ飲んではいたが
思考はしっかりしてるので
「もう子どもじゃないんだから手取り足取りしてあげないといけないこたぁないだろう」
と答える

ゴミは仕事ができない、ということは
デブメガネも認識しているようで
「それをサポートするのが部署の仲間じゃないですか!」
と勝手にアツくなり
そして真面目に反論する部長

問題なのは、デブメガネとゴミは部署が全然違うのだ

にも関わらず、異様にゴミに過保護なのだ

しかしこの会社の社風としては
困った時ヘルプを出せばみんな助けてくれる
でも何もしなかったらサポートは受けられない
積極性がないと死んでしまう。そんな社風だ

わたしも入社前に、エン転職がやってる
会社の口コミサイトを熟読したうえでここに決めた
その口コミの大半がこの内容だった
(設立して10年も経ってないのにありえんくらい口コミ数があった
もしかして:離職率)

正直そういう社風がわたしにはピッタリだと思っている
だからわたしはここの会社で割と長く働き続けられている

部長は「辞めたかったら辞めたらいい」の一点張り
デブメガネは
「なんでですか!俺は悲しいすよ!」と感情論のみ

他のみんなは、口出しすると
デブメガネがさらにヒートアップしそうなことが
わかっているから黙っていた

そのまますごい雰囲気のまま閉店時間を迎えたので解散した

家に帰ってからわたしは異様にムカついていた
なんだあのゴミは
この会社は新卒を採らずに中途採用ばっかりしている
中途採用のメリットとしては
社会人としてどこかで何かしらの経験を積み
すでに土台ができている人材が得られることだ

それなのに、実は土台のできてない
仕事もできない
そんなやつに手取り足取り教えてあげて
つきっきりでお世話してあげるような義理はない
そういう社風だからゴミは合わないただそれだけだ

なのにデブメガネはなぜあんなに過保護なのか?

実はわたしにも経験がある
わたしも昔はゴミのように、
誰かによるお節介サポートに助けられてきた人間だった

誰も頼れずにアワアワしてたら
そういう人が話しかけてきて
みんなの輪にブチ込んでくれる

でもその輪のみんなはそういう人とは違うので
なんかお節介なやつがなんか連れてきたな?となり
みんなわたしに気を遣って接してくる
いつもとっても惨めな気持ちだった

そういう人って、ただ優しい人なわけじゃない
「ヨシ!俺は・私は、良いことをした!」と
勝手に悦に浸り
その人の自己満の材料に使われるだけなのだ
本当にその人を助けようと思っているわけじゃない
こういう人種は性別年齢関係なくいる

そんな奴らに利用されたくないのに
結局そんな奴らがいないと何もできない自分が嫌だった

だからわたしは変わることにした
勇気を出して人間に話しかける
ハキハキと喋る
人々とのコミュニケーションを取る際は自分のキャラを確立する
人の話をよく聴いてその場に相応しいセリフを考える
そんな奴らがいなくても生きていけるような人間になる努力をした

それがなんだあのゴミは
まんまとデブメガネの餌食になっているじゃないか
いくらわたしの2個下とはいえもう子どもじゃないし
努力をしろだし、努力がまだできないなら
この会は断ればよかったし
マジで何もできねえ意志のないゴミだなと思った

わたしは自覚して努力して変わったからこそ
ゴミみたいなタイプを間近で見ることがすごくストレスだった

基本的にわたしが日常で抱えるイライラは
割と正当なイライラであるが
この件に関してはわたしが勝手にイライラしている
こればかりは誰かの賛同が得られる気がしない
ただ、わたしの人生を懸けたポリシーが許さないと言っている

わたしはもうゴミと話すことはないだろう
もっとゴミのこと嫌いになるし
なんならわたしのことまでまた嫌いになりそうだから