図書館情報学とよりみち


この記事は、klis Advent Calendar 2020 - Adventarの25日目の記事です。

klisですらないんですが初参加です。老害枠にならないようにがんばります。ただ,半分自分語りっぽいので,我ながらみっともないなあと思いつつ…。

そういえばklisは昨日が卒論提出日だったようですね。おつかれさまでした。

自己紹介とか


slisを経て,現在,某大学で教鞭を執っています。専門は図書館情報学。30代。博士号も一応持っています(注1)。つくばには9年住みました。

図書館に興味があって大学に進んだんですか?なんで大学教員になったんですか?と時々聞かれますが,言ってしまえば偶然です。そもそも大学入学のきっかけは第一志望に落ちたから。もともとは民俗学とか社会学とかをやりたかったんです。司書になりたいとも思っていませんでしたし。

なので,学部のころは正直,落ちこぼれでした。講演等で話すときに大学の同期がいると,もう冷や汗が止まらない。

何年か経ち,ドクターの学生に。Dに進学したのは研究が楽しかったからです(もちろん,辛いこともいっぱいありましたが)。しかしD4に進学するタイミングで奨学金が切れる。このままだと詰むというにっちもさっちもいかない状況で,偶然,大学教員のポストに滑り込むことができました。

なので,しばらくは博士後期課程の学生と大学教員の二足のわらじを履いていました。まー,結局,図書館情報学は性に合ってるなーと思っています。

というわけで,すぱっと目標を叶えたわけではありませんし,今でもいろいろじたばたしていますが,回り道って案外いいかも,というお話です。

ただ,これはあくまでも生存者バイアスのひとつかもしれません。真似してみたら?とも絶対言えません。が,こういう方法もあるよ,ということで。


まわりみちのはなし


大学でのお勉強や研究には直接は関係なかったけど,趣味っぽくやってたことが,実は結構繋がってたんだなーという事例について書いておきます。

旅行とクルマが大好きだった

COVID-19下では幻のような話ですが。もともと貧乏旅行が好きで,高校時代から18きっぷであちこち遊びに行っていました。つくばはとにかく広い。子供の頃からクルマは好きでしたし,とにかく欲しかったわけです。

誰が言ったか「少年と男の違いはおもちゃの値段だけ」。でもクルマって,イニシャルコスト・ランニングコストが大変。

なのでヤフオクで10万円のボロボロのクルマを落札し,ガス代等を捻出するために塾講師などのアルバイトをしていました。

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車中泊やキャンプを繰り返しながら日本全国あっちこっち回るんですが,そのうち物足りなくなってくるんです。通りすがりの神社ひとつにしてもお参りするだけじゃつまらない。

よし,図書館だ。

レファレンスの演習で確か学んだぞ。角川か平凡社の辞典なら大抵の図書館なら持ってるだろ→郷土資料ってのも面白いな→就職後,MLA関係に首を突っ込むようになって,アーキビストと郷土資料の話になったり。

あと,仕事が仕事なので,行政のかたや議員さんとかに,「あの地域の図書館で面白いのは?見所は?」と色々尋ねられるんです。「こことここかなー。こういう仕掛けが面白いですよ」ってサクっと言えるようになったりしたのは良かった。

あ,余談ですが。当時,常にキャンプ用に七輪をクルマに積んでおりました。それを見た友人が真顔になって,さりげなく飲みに誘ってくれたり。

練炭じゃないってば!


コンピュータ等に関する新しい話が大好きだった

さて今年はCOVID-19のため,オンライン授業資料を作成することになりました。

で,ぼくはニコニコ動画が今よりもすっごく流行っていたとき,こそっとそこらに投稿した経験がありました(注2)。なので,動画作り等には抵抗がなかったんですね。

役に立たない趣味だなあと思ってたら,ここで役に立つのかAdobeのスキル…。ちなみにこの一年でコンデンサマイク,ポップガード,HDMIキャプチャボード,4Kビデオカメラ,ミキサー,モニターヘッドホン等々が増殖しました。

そうそう。話は少し変わりますが,大学院に入ってみてびっくりしたのは,世の中にはこんな頭のいい人がいっぱいいるんだなあと死ぬほど感心したことです。学内学外,問わずね。

情報系とか工学系でバリバリやってる人と話をすると,それがまた面白い。

「コレがアツいよ!」

「次コレ来るかも」

なんて目をキラッキラにさせながら話してる。そんな奴らが叫ぶテクノロジーは,数年後に社会で広く使われるケースが多々あることに気づきました。

プロジェクションマッピング,歌声合成,3Dプリンタ,ドローン,プログラミング教育,VR,ブロックチェーン…。

何が言いたいかっていうと,大学ってのは最先端の人たちがウヨウヨいて、誰かしらが面白いことやってるってことです。ただ,学部生(および修士の前半期)はそれが貴重な場だったとはあまり感じてなかったかもしれない正直。それがあるのが,あたりまえだったから。

でも,こっちが図書館情報学の何かの知見を投げられるから,向こうも話をしてくれるんですよね。

「○○調べるにはどうしたらいいんだろう」「あー,こういうパターンならシソーラス(注3)叩いたほうが早いかも」「業績評価ってどうなの」「この場合,IFは使っちゃマズい。一方,h-Indexだとこういう限界があって」「なんでこの文献オンラインで読めないの」「あーエンバーゴっていってね」「結婚することになったんだけど名前の同一性どうしよう」「ORCID試したら?」なんてね。

哲学,思想系や社会学系の話をおさえておいてよかった

上の話と絡みますが,趣味で読んでいた本が後からするとすっごく役に立ったのがよくありました。ぼくにとっては,哲学とか思想,社会学系の本です。

直接,研究には関係ないよなーと思っていた専門書が,実はあとから考えると,色々と役に立ったったというケース。読んでる最中は「関係あんのかなぁコレ」とか思いながら読んでるんですけど。

……。

ところでさー。最近ブルデューって流行してるみたいじゃーん。NHKの100分de名著で取り上げられたりとかさ。平等を試みる装置そのものが実は格差を再生産し階層の固定化を進めている,みたいな議論だよねー。これ言っちゃうとイヤミになっちゃうからさーあんまり言いたくないけどさー,ブルデューって,オレのコミュニティだととりあえず必読図書って雰囲気あったじゃーん,これ言っちゃうとイヤミになっちゃうけどさー。ハビトゥスとかさー,あるあるだよねー。

冗談はさておき,頭の良い先人が考えた,社会現象を理解するための議論や枠組みって,結構な頻度で図書館にも繋がるってことに気づいたんですね。インチキ科学の図書を図書館で扱うには?図書館とまちづくりってあちこちで聞くよね。だったら公共性?ハバーマスとかアレントとかの議論って何だったっけなー。あー社会関係資本の議論も参照したほうがいいかなー,とか。

https://www.amazon.co.jp//dp/4865782877/

でも,そういう専門書を読んでたり,読書会や研究会(注4)をしてる最中は図書館なんてことは全く考えてないです。でもガチで図書館の世界を現在ばりばり牽引しようとする人と本気で話すんだったら,こういう武器ってスッゴく役に立つなー,と最近ホントに痛感するようになりました。


まとめ

回り道するのも一つの手だったなー,何が何に繋がるかわかんねーなと(注5)。もちろん無駄になったこともいっぱいあるんですが,ぼくじしん,今無駄だと思っていても,数年後「やっぱアレ無駄じゃなかった」と思うことも色々あるんだと思います。逆にすぐ役に立つだろうと思って学んだ物事はすぐ陳腐化したりして(あるある)。

最近いい話だなーと思ったのは,大学同期の元ライブラリアンの女の子。友人です。卒業後,図書館に就職しました。それはそれで本人にとってはひとまず夢を叶えたんですが,いろいろあって中小企業の事務に転職。その後,会社で使ってるExcelのデータが汚いからキレてこっそりマクロ書いたらプログラミングできるぞコイツとロックオンされ,今はロボット開発チームに放り込まれているそうです。イイハナシダナー。

配られたカードで勝負するしかないんだ,と,どっかの犬が言ってました。確かに一面の真実かもしれません。でも手数は増やせる,そんなふうに思ったりしています。

さて。最初は老害枠にならないようにがんばると宣言しておきながら,老害臭っぽい記事で頭抱えておりますが…。でも,klis一年の某さんに声をかけていただき,こんな記事を書く機会を頂いたこと,とても嬉しく思います。

後輩の誰かに届きますように。

メリークリスマス(注6)!


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注1:一応,と書いたのは,学位記を直接受け取ったのは当時1歳のムスメだったからです(授与式の壇上に連れて行ったという前代未聞の…)。詳しいことはhits先生とかいけぴ将軍に聞こう。

注2:アドベントカレンダーの執筆ははじめてで,過去の記録をざっと読んでいたら,これが出てきて吹きました。スマン…これ作ったのオレらだ…。若気の至り&メンタルをヤッてる時だったんだ…(懺悔)。

注3:ちなみにシソーラスやディスクリプタはLIS界隈では基礎用語だと思いますが,案外,他の学問領域の院生レベルだと知らない人もいたりします。

注4:京大の院生とよくやりとりしていました。大学の雰囲気とか,学問的な流儀が近かったんですかねえ?

注5:例えば,全然畑違いの業界に飛び込んだ時に,あれ?ライフヒストリー研究×図書館×アセスメントで一本いけるんじゃね?と気づいて書いたのが,はじめての単著でした。昨年度のAC入試の際,食堂?で拙著を読んでくださっていた方が複数いらっしゃったと聞いて。それを聞いた日は人生で,もっとも美味い酒を飲めた日のひとつでした。

注6:ちなみに執筆時現在,こどもが頼んだサンタのプレゼントが違ったことが判明し,大変焦っているところです。