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何者でないとはどういうことなのだろう。

タロットカードにはトランプと違って0番、版によってはナンバーすら割り当てられていない「愚者」というカードがある。

愚者の概念はもはや世の中に存在しない。
現代人は愚かであることを忌み嫌うからだ。けれどもその癖、へりくだって物を言い、愚かさの自覚アピールという防波堤を作ることを止められない。(自戒を込めて)

鏡リュウジが愚者のカードはビートルズの「The fool on the Hill」を彷彿とさせると言った。丘の上でぼんやりとして誰とも口を利かない愚者は周囲から見たら愚か者に過ぎない。しかし、その目には誰も信じなかった地球の自転が見えている。

現代は愚者が消えかかっているのだから、当然制度から逸脱した者しか見えない世界は消えている。
イタコは愚者とは異なるが、愚者と同じく制度の外にいる人間だ。制度の中にいる者には見えない、つまり盲目の人にしか感じられない世界が信じられ、それゆえイタコの神秘性は信じられてきたのだ。

社会から消えつつある愚者の目が完全に閉ざされたとき、世界は単一になると言うべきかひとつになると言うべきか。

何はともあれ、私は何が見えているのか想像のつかない愚者のカードが好きだ。

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