見出し画像

『幾度目かの最期』

 幾度目かの死を目前にして、笑みを浮かべる道化師のような、奇妙とも何とも言い難い面持ちで彼は私に話しかける。

「例えば数日後、もし君が太陽に向かって水分を吐き出す花を見たなら、それは僕であるといえるし、或いは猟師に自慢の角を見せびらかす草食動物や神秘に魅せられ深海を目指した回遊魚の話を聞いたなら、それもまた僕であると言える。それほどまでに僕は僕を理解しているつもりだよ」

 私はその言葉を聞いて妙に納得した。彼が、寂れて世界から乖離してしまったようなこの場所を訪れた理由を――。

 もしも降りしきる雨の一粒一粒が私自身であるのならきっと耐えきれないし、どうにかしてその一瞬にバリエーションをもたせる。
そうして暴かれる自身の、軟弱にも劣る心の裡を覗き見ては肉の塊を吐き出す始末だろう。
 
 私は仕方なく、先程まで自分に突きつけていたピストルを彼に向けた。するとやはり彼は、奇妙とも何とも言い難い面持ちで私を見た。
これで私も、彼の幾度目かの最期のバリエーションの一つになったのだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?