父と最後のおしゃべり
元旦に、大阪の病院に入院している父親を見舞いに行きました。
痛みどめのモルヒネの量が増えたせいで
父は始終夢の中にいます。
ある時は永年働いていた職場
またある時は生まれ故郷の川べりと
自分のいる場所がころころ変わります。
胸ポケットには運転免許証。
「これがないと仕事ができん」と宝物のようにしています。
昨年末で期限がきれているのに。
父「みやげに海苔巻を買って行ったらどうや」
私「どこに売ってるの」
父「4号館の地下や」…約40年勤めた職場のビル街のことです。
私は苦笑しながら「ここは8号館やから、ちょっと遠いねえ」
と答え、そして思い出しました。
息子たちが幼かった頃
覚えたての言葉で空想と現実をごちゃ混ぜにした話を
一所懸命しゃべっていたことを。
その時と同じく、今の私は父の話に相槌をうちます。
大きな大きな子供です。
帰る頃になると、父はガランとした病室の中を見渡して言いました。
「誰か新大阪の方へ行く奴おらんか。娘が岐阜へ帰るんや」。
いいよ、みんな仕事中やから、と言うと父は
「そうか。気ィつけてな」
と顔を崩して笑いました。本当に赤ちゃんのような笑顔でした。
来月また行くからね。それまで目を開けといてや、おとうちゃん。
× × × × × ×
30日後、父は永遠の眠りにつきました。
最期の瞬間には間に合いませんでした。
あれからもう15年の月日が流れましたが
父の日が近づくと思い出す情景です。
子供の頃に戻って、ふるさとの川であそんでるのかな?
昔の職場を見て、変わったなあって驚いてるかな?
お父様がご健在の方は
どうぞ優しい言葉をかけてあげてください。
私はもう憎まれ口を叩くことさえ
できません。
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