TL作家がファミレスで小説書いてみた①


 新型コロナウイルスのせいでいろいろ落ち着かない昨今。筆者も子供が通う小学校、幼稚園の休校、休園のおかげで、五月が終わるまでまったく仕事が進まなかった。
 おかげで六月に入ってから「死ぬ気で執筆しないと月末の〆切やばい」という状況に陥ることに。

 そんなわたしが〆切死守のために採った方法――それが『家ではなく外で執筆する』というものだった。
 さて、その結果どうなったのか。2020年六月後半を使って検証してみた。

1 なぜ外で執筆しようと考えたのか
2 執筆できる場所はどこ?
3 カフェとファミレスの最大の違い
4 ファミレス執筆の注意点
5 実際にはかどったのか否か


1 なぜ外で執筆しようと考えたのか

 筆者は自宅でノートパソコンを開き、一太郎に文章を打ち込んでいく作家なので、基本的に『仕事場=自宅』になっている。普段ならこれでまったく問題ないし、自分のタイミングで家事をしたり、宅急便を受け取ったり、買い物に出たりと、まさに在宅ワーカーのメリットを享受しまくった働き方をしている。
 が、世は蔓延する新型コロナウイルスのせいで、いろいろと大変な時代。筆者には小学一年生の娘と年中の息子がいるのだが、五月いっぱいずっと休校・休園だったため、自宅保育を余儀なくされた。保育者はもちろんわたし。結果、五月は思うように執筆できないだけでなく、家はとにかく汚れるままに汚されることになった。
 結果、六月になっても出しっぱなしのおもちゃ、引きずり出された布団、未だしまえていないホットカーペット、取り込んだだけでたたんでいない洋服、などに部屋中が占拠されることになった。
 ……一応、筆者も主婦の端くれではあるので、「休校明けたら全部片付けてやるー!」と意気込んではいたのだ
 が、よく考えると、六月末に〆切の原稿が二つあって、一つは十万字越えの長編、もう一つは五万字程度の中編なわけだが……あれ、おかしいな? 六月一日の時点で、長編は四万字、中編は一万字しか書けていなかった。あれ、おかしいな???
 ――そう、お察しの通り、『休校開けたら全部やる』と考えていた結果、〆切までのやばすぎる執筆量と、やばすぎる部屋の惨状が見事に残されてしまったわけである。
 わたしは即座に優先順位を決めた。一位、〆切。二位、新生活に慣れない子供たち(特に娘は小学校一年生。環境ががらりと変わる)のケア。三位、家のメンテナンス。
 ということで、子供たちが家にいるときはとにかく家事と育児、それ以外の時間はとにかく原稿執筆、というふうに決めたわけだ。

 だが、これが家にいるとなかなか難しい
 わたしは執筆中かなり飲み物を飲むタイプだ。ホットの飲み物を飲みたいと思ったときには、電気ケトルにお湯を入れ、マグカップにお茶を入れるという工程が発生する。
 が、このときにいやでも目に入るのだ。パソコンを置く机から台所までのわずか二メートルの導線の床に、おもちゃや絵本や自由帳や服やゴミが散乱しているのが……
 台所に立てば朝ご飯を食べたまま手をつけていない洗い物や、油が飛んだままのコンロ、ちょっと汚れてきた水切り籠が目に入る。
 トイレに行けば「そろそろ掃除しないとやばいな」というレベルの汚れが浮いた便器や、床に落ちた毛が気になる。
 手を洗うため洗面台に立てば、汚れた洗い場と水跳ねがひどい鏡が目に入る。
 麦茶を飲むため冷蔵庫を開ければ、「あ、あれ足りない。買ってこなくちゃ」と思い、お菓子のゴミを捨てれば「そろそろゴミ袋を代えないと。あふれそうだ」と思う。

 要するに、仕事に集中したいのに、ちょいちょい「家事をやらなきゃいけない」という、主婦としての自分が顔をのぞかせてきてしまうのだ。

 掃除も洗濯も料理も、この家で行うのはすべて自分。
 子供たちがいる時間は子供たちの「ママ見て」攻撃や、宿題をさせたりすることに忙しく、なかなか手をつけられないので、こういう仕事の合間にちゃちゃっと終わらせる家事が多いのだが……
 〆切までマジで時間がない現状では、たまに顔を出す主婦の自分は、明らかに邪魔でしかなかった

 では、どうするか。
 家にいるあいだは確実に家事が気になって、できていない自分を責めてしまう。「トイレ掃除なんて十五分もあれば十分できるだろう」と思うが、今はその十五分すら惜しい!

 そのため、わたしは家を出て仕事をするという道を選んだ。
 家にいるから家事が気になるなら、家にいなければいい。実にシンプルな答えだ。
 そうと決めたら話は早い。六月の最初の一週間は娘が給食を食べたら帰ってくる上、下校はお迎えが必要だったために、まるで書けなかった。
 六月の第二週も同じように終わってしまっては仕方がない。わたしはノートパソコンを専用の鞄に押し込み、いざファミレスへと車で向かった。


2 執筆できる場所はどこ?

 ノワドワークという言葉がある。事務所や会社などを持たず、喫茶店やファミレスなど、Wi-Fi環境のあるお店で、ノートパソコンやタブレット端末などを使って仕事をすることで、こういう働き方をしているひとをノワドワーカーというそうだ。
 六月下旬のわたしはまさにこのノワドワーカーだった。ノートパソコンと電子辞書、マウス、外付けHDDとイヤホンを持って、車でぶいーんと任意のファミレスに向かう。

 わたしの場合は小説の執筆が仕事なので、特にWi-Fi環境は必要ない。むしろWi-FiにつなぐとすぐにTwitterや艦これをしたくなってしまう。ノートパソコンも大型のタイプなので、電源がなくてもだいたい五時間は保ってくれる。そのため、あまりWi-Fi環境とコンセントが使えるかどうかは重視しなかった。

 ただWi-Fiや電源を使いたいという場合は店を選ばなければならない
一口にファミレス、喫茶店と言っても、フリーWi-Fiがないところもあれば、電源がないところもある。
 喫茶店で言うと、どちらもそろっているとなると、スターバックスコーヒーやコメダ珈琲が上位にくるはず。特にコメダ珈琲は椅子もふかふかだし、店内も明るくて長居している客も多い。長時間作業には向いているだろう。
 ファミレスに関しては店舗でかなり差がある。ガストは壁際の席にはすべてコンセントがついていたが、フリーWi-Fiは速度が遅い上、一時間ごとのログインが必要。さらにログインは一日三回までという制約がある。
 同じログインが必要なタイプでも、デニーズで使えるセブンスポットは、デニーズ店舗に限りログイン回数は無制限。ジョイフルは一度ログインしてしまえば店舗に入れば勝手にフリーWi-Fiが繋がる便利仕様だ。
 このあたりは働く形態によって、各自で考えておく必要があるだろう。


3 カフェとファミレスの最大の違い

 カフェと一口に言っても、個人でやっている小さなお店から、チェーン店まで様々だ。個人でやっているお店はさほど広くない上、電源もWi-Fiもほとんど完備されていないので(少なくても筆者が住む北関東某所においては)ノートパソコンを広げてガタガタするにはあまりに不向きだ。
 一方、スターバックスコーヒーやコメダ珈琲のような店舗は、平日の昼間なら一人くらいノートパソコンを開いているサラリーマンに出会うことができる。特にスタバなんて、タンブラーにコーヒー入れてもらってノーパソ開いているだけで、なんかできる仕事人っぽい雰囲気になれるし。

 だがわたしは喫茶店で仕事する気にはあまりならなかった。なぜかと言えば、第一に、コーヒーが苦手。第二に、仕事中は飲み物をがぶがぶ飲むので、一時間カップ一杯のコーヒーで過ごすことができない、というのがある。
 家で使っているどでかいマグカップでさえ十五分で空っぽにしてしまう筆者だ。とてもではないが、お店の洒落たカップで出てくる500円もするコーヒー一杯で、一時間も過ごすのは無理だった。

 なので必然的に、ドリンクバーがある店=ファミレスが仕事場というふうになったのだ。
 そう、筆者はドリンクバーのためにファミレスでの仕事を選んだのである。
 ファミレスのドリンクバーは最高だ。冷たい飲み物、温かい飲み物が、最低でもどの店でも十種類は置いてある。コーヒーが飲めない筆者にとっては、紅茶や緑茶、中国系のお茶が置いてあるファミレスは天国だったのである。


4 ファミレス執筆の注意点

・混んできたらすみやかに退席しよう
 これは喫茶店でも同じだ。席が埋まってきたら早めに退席しよう。ドリンクバー一つで延々と居座る客など店にとっては迷惑以外のなにものでもない。そのあたりはわきまえて、まだ仕事がしたければ、別の店にお昼を食べるがてら移ろう。
 今は特に新型コロナウイルスの影響で席を一つ空けにしたりしている店が多いので、ここは特に気をつけていったほうがいい。

・トイレの個室がいくつあるか見よう
 男性にとってはあまり気にならないかもしれないが、女性にとっては重要。トイレの個室が一個あるか二個あるかで、精神衛生面が割と違う。特に大をしたくなったときは個室が一個だけだとちょっと申し訳ないものがある。
 というのも、ファミレスでの執筆中、わたしはほぼ百パーセント大のほうを催していた。それはなぜか。次の注意点を見よう。

・カーディガンか膝掛けを持っていけ
 そう、夏場のファミレスは寒いのである! ファミレスに限らず、お店の中はだいたいエアコンが効いていて寒い。長居すると、わたしのような冷え性女は必ず腹を下す。カーディガン一枚だと心許ないので、薄手のパーカーとかがおすすめ。暑ければ脱げばいいし、寒ければ着たり、膝掛け代わりにもできる。
 ワンピースで行くならレギンスは穿いたほうがいいし、靴下も穿いていけ。マジで寒い。足首を冷やすな。アラサー作家との約束だ。

・タオルハンカチを最低二枚は持っていけ
 またトイレ関連の話になるが、現在は新型コロナウイルス予防のために、どの店もジェットタオル(風がばーっと出て手を乾かしてくれるあれ)が停止中になっている。そしてわたしが利用したどのファミレスもペーパータオルが置かれていなかった(!)。そのため、自分でハンカチを持っていくのは必須である。わたしのようにお茶をがぶがぶ飲む奴はトイレも近くなるので、必ず二枚は持っていこう。一枚だと心許ない。

・店舗のアプリを入れておけ
 どこのファミレスも今は公式アプリを配信している。ファミレスで席に着けば案内があるのでそれを参考に登録しよう。スタンプが溜まれば、割引券やドリンクバー無料券などが当たるし、Wi-Fiをつなぐために公式アプリからアクセスしなければいけない場合もある。なのでアプリは必ず入れておこう。


5 実際にはかどったのか否か

 簡潔に言おう。めちゃくちゃはかどった在宅で調子がいいときのほぼ二倍の速度で書き上げることができた
 わたしは子供たちを送り出したあと準備をしてファミレスに行って、まずモーニングを食べる。どのファミレスもモーニングは安いしだいたいドリンクバーがついているので。
 で、食べ終えてパソコンを広げるのが九時頃。そこから十二時まで一心不乱に書き続け、少ないときでも八千字、多いときは一万九千字を書き上げることができた。

 家にいるときはちょっと動くだけで「片付けなきゃ」「買い物行かなきゃ」「晩ご飯なににしよう」と雑念に囚われ、なんなら主婦らしいことをしない自分に罪悪感すら感じていたが、ファミレスにきてしまうとそういった罪悪感にふれる機会はまずない。トイレ掃除は係の人がやってくれるし、ドリンクバーコーナーには様々な種類の飲み物がある。お湯を沸かす必要もない。せいぜい取りに行くときにアルコール消毒を忘れずにしようと思うくらいなものだ。

 雑念がない、お茶一つ入れるにも手間が少ない、そして適度なざわめきと人の目がある――まさかそれらが、これほど効率よく執筆できるモードに繋げられるとは露ほども思わなかった。おかげでわたしは六月後半だけで十万字以上の文字数を叩き出した。最終的に、十六万字になった長編と、五万字の中編を、昨日、それぞれの担当様に無事に提出することができたのである。

 それもこれも家にいることの雑念や誘惑から逃れられた成果である。我ながら予想以上の結果におののいてしまったほどだ。
 まったく休憩なしで書いていたのかといえばそうでもない。ノートパソコンはWi-Fiとの接続を切ったが、スマホのほうはつないで、たまにTwitterを見たり、艦これの遠征を出したり、ちょいちょいスマホはいじっていた。
 それでも、たかだか三時間強でこれほどの文字数を稼げたことは、我ながら驚くべき発見であり、嬉しい結果でもあった。

 ――とはいえ、わたしの基本スペックは『サラリーマンの妻』であり『二児の母』だ。
 TL作家として六年ほど活動しているが、それで自立できるほどの収入があるわけではない。
 今回はあまりに〆切やばいということになったので、ファミレスで執筆という手段に出たが、普段使いするにはやはりコストが高すぎる
 注文するのはモーニングのみと言っても、高いところでは五百円を超える。それを毎日続けていたら、主婦のお小遣いなど、いくらあっても足りないのである。
なので、今後もあくまで「〆切前の最終手段」として、ファミレスでの執筆を確保していく心づもりだ。

 本来なら在宅で執筆していてもこれくらいの文字数を稼げるのが理想なのだが……それはおそらく難しいだろう。子供が行ってきますと出て行って、帰ってくるまで約六時間。家事もやりつつ、自分の食事もしつつ、では、やはりだらける気持ちも出てくる。

 理想を追うより、そもそも〆切前に焦るような執筆計画を立てないことこそを重要視するべきである(……できないから毎度、〆切前に「うがああああ」ってなっているのだが)

 次の記事ではわたしが執筆でお世話になったファミレスを紹介していこうと思う。
 同じような作家様たちの参考になりますように。


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