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4話 想定外なフィリピン(仕事編)

何か新しいことにチャレンジするときには、人の想像力というか、妄想力が大活躍するでしょう。
これは自然な防衛本能で、起こり得るハプニングや失敗の仮説を立て、想定「外」を想定「内」にしてしまうのです。

わたしにとって「フィリピンで働くということ」は、四半世紀強生きてきた人生の中で、まさしく新しいチャレンジでしたので、いろいろな想像を膨らませた上で、フィリピンへやって来たわけです。

しかし、それでもたくさんの「想定外」がありました。自分の妄想をはるかに超えるフィリピンがここにはあったのです。
まさにこの部分が、何かにチャレンジするときのおもしろさ。「何が起こるかはすべて読めている」と思っていても、登場する「想定外」。それを経験して、これまで当たり前じゃなかったことが、当たり前になっていく感覚。一番自分の成長を感じる瞬間です。

そこで、フィリピン生活が1年経った今、「日本で働くこと」と「フィリピンで働くこと」を比較し、想定内だった違いと、想定外だった違いをご紹介していきます。

■想定内だった違い
(1)締切は守られない。
(2)わかっていないのにYES MAN。
(3)効率を上げることを度外視。
■想定外だった違い
(1)名前を覚えない。
(2)英文ビジネスメールが上達しない。
(3)すぐに伸び悩む英語力。

■ 想定内だった違い(1):締切は守られない。
フィリピン人から「明日送ります。」と言われたら、72時間は待ちましょう。逆に言うと、明日欲しい資料は、3日前を締切に設定するか、自分のために特別に取り組んでもらえるような関係性を築きましょう。
100人いれば100人全員が締切を守らない人ではありません。ただ、締切どおりに届いて当たり前、という考えは捨てなければなりません。

このフィリピン人の時間のルーズさの理由は、結局「交通渋滞」に行きつくと思うのです。「渋滞がひどくて、、」というのは、車社会のフィリピンでは遅刻する際の常套句です。フィリピン在住の日本人だけの飲み会ですらそうなのですから、フィリピンは本当に時間が読めない国なのです。

すると、「物事は時間どおりに進まなくて当たり前」という感覚が備わります。

日本で働いていたときは、やりとりもしたことのない部署から「今日中に確認してください。」という無茶な作業依頼メールもたくさんありました。
無理なら無理と言いますが、「今日中にお返しします」と返事をすると、それは暗黙の了解で「今日の23:59までにお返しします」という意味でした。

こう見ると両極端だな、と思います。
ただ、慣れてしまえば、確実にフィリピンのほうがストレスフリーです。

■想定内の違い(2):わかっていないのにYES MAN。
"Naintindihan mo?"(わかりましたか?)と聞くと、フィリピンでは二つ返事で"Yes, ma'am."と返ってきます。
(なんだ、ものわかりがいいな・・・)と安心できないのが、ここフィリピン。お願いした仕様とは違う資料を作る同僚、お願いした道を通ってくれないタクシードライバー、お願いした商品とは違うものを持ってくる店員さん、なんてことは茶飯事です。よっぽど信頼関係を築けている人以外に対しては、ときどき進み具合を気にかけることをお勧めします。

「なぜあのときYESと言ったのか」
問いただしたこともありませんが、失敗しても謝れば済む国なんだな、と思います。ビクビクしながら仕事をしている人は、まだ見たことがありません。

■想定内の違い(3):効率を上げることを度外視。
日本は効率性オタクだと思います。かく言うわたしも効率のことを考えるのが大好きです。
学生時代、出勤ラッシュ時のコンビニのレジをしたり、1日200人もの患者さんが訪れる個人病院の受付をしたりという経験が、物事を速く的確に「さばく」ことの喜びをわたしに植え付けました。

しかし、フィリピンでは効率の「こ」の字もありません。

たとえばお店でレジに行列が出来ていても、陳列に精を出している店員さんはレジのカバーに入ってくれません。
信号機が壊れているわけではないのに、信号機とは違ったタイミングでわざわざ交通整備員が手信号をします。
朝マックをすると、たいていレジには1ペソ硬貨がまったくなく、さらに隣のレジにもなく、挙句の果てにお釣りをおまけしてくれます。

効率を上げよう、という集団意識がない国。だから、フィリピン人はとても忍耐強いです。

これは、コロニアルメンタリティと呼ばれるものだと考えています。フィリピンはスペインに327年間、アメリカに48年間、日本に3年間統治されていたからか、受動的な国民性である印象です。また、自分では判断しようとせず、すぐに上司に指示を仰ぐ傾向も強いと思います。
受動的で自分で判断しようとしない。この点は日本と似ていますね。

さて、ここからが想定外だった話です。

■想定外の違い(1):名前を覚えない。
文化の違いとしておもしろいなぁと最近思っているのが、相手の呼び方。
日本では「田中課長」「佐藤部長」のように名字+肩書で呼ぶか、「社長」のように肩書だけで呼ぶことが多いけれど、近ごろは「鈴木さん」のように上下関係なく「さん」付けで呼び合いましょうという会社も増えているそうですね。
アメリカでは、たとえ上司や教授に対してであっても、「Bob」や「Maria」のように下の名前で呼ぶそうです。
同僚がかつて勤務していたアフリカのマラウイでは、立場関係なく、相手をフルネームで呼ぶことが当たり前だそうで、大変苦労したという話を聞いたことがあります。

フィリピンでは、女性に対しては「ma'am」、男性に対しては「sir」と呼ぶことが大半です。特に店員さんがお客さんを呼ぶとき、部下が上司を呼ぶとき、社外の人と話すときなど、自分が遜る必要がある関係性のときに使います。
何でもこれで済むので、相手の名前を覚える努力はあまりしません。確かに便利ではありますが、わたしは名前を一番のアイデンティティだと思って尊重したいタイプなので、この文化はちょっと苦手です。

■想定外の違い(2):英文ビジネスメールが上達しない。
学生時代に何度か受けたTOEICテストで、最後のほうに出てくる英文ビジネスメールの読解が苦手でした。当時はまだ日本語のビジネスメールのお作法すら知りませんでしたが、「ここが得意になれば点数上げれるなぁ」と考えていたことを覚えています。

社会人になり、特に前職では英文ビジネスメールに大量に触れ、だんだんと苦手意識がなくなってきたところで転職、フィリピン赴任が決まりました。

フィリピンでは公用語として英語も使われているし、ここでもっと英文ビジネスメールのスキルあげるぞ~と意気込んでいたのですが、フィリピンの「テキスト文化」がその環境を損なわせます。

フィリピンでは、ビジネスシーンでも携帯でメッセージをやりとりすることが多いのです。相手の電話番号を宛先にしてメッセージを送るもので、日本では「ショートメッセージ」や「SMS(ショートメッセージサービス)」などと呼びますが、こちらではそれを「テキスト」と呼びます。

電話をするより安く済み、ビジネスメールを打つより気軽です。「平素よりお世話になっておりますメール」に慣れている日本人からすれば、「社外の、かつ立場が上の相手にテキストで連絡していいの?!」と始めは驚きでしたが、慣れるとこんなに楽なことはありません。

しかし、英文ビジネスメールは世界のどこで働くにしても必要なスキルなので、ここが錆びてしまうのは今後の不安。。

■想定外の違い(3):すぐに伸び悩む英語力。
フィリピンは公用語のひとつが英語で、かつ、日本から一番近い東南アジアの国、ということで、英語留学の行き先として人気があります。
わたしも、自分のフィリピン語の能力を伸ばすと共に、英語力も伸ばせると期待してフィリピンに来ました。しかし、この1年でどれだけ英語力が伸びたかと言うと、そこまで伸びていません。

フィリピン人は、つたない英語をくみとってくれるのが本当に上手です。こちらの英語のレベルが低く、単語の羅列しか言えず文章が完結していなくても、相手はニコニコして、"Yes, sir. / Yes, ma'am."と会話してくれます。また、こちらのレベルに合わせたスピードや語彙で話してくれるので、英語が聞き取れない・伝わらない焦燥感や、ネイティブレベルになりたいという向上心が湧きにくい。それどころか「意外と自分の英語、伝わってる」と勘違いする人も多い気がします。

6月、約1年ぶりにアメリカへ旅行に行きましたが、アメリカ人は容赦なくネイティブレベルで話しかけてくるので、軽くショックを受けました。もちろん移民の国なので、誰が外国人か見分けがついていないのもあると思うし、遅いスピードで話しかけることが相手のプライドを傷つけることもあると思うので、むしろそうあるべきですが、「わたしはどれだけフィリピンで"ぬくぬく英語生活"しているんだ」と気づかされた瞬間でした。

だからといって、アメリカ人やイギリス人が講師として教えてくれる英会話教室なんて、英語が公用語の国フィリピンで容易に見つかるはずがありません。
英語力を維持・向上したければ、英語が「国語」の国の人と友達になり頻繁に会う、英語の映画・テレビを英語字幕付きで観る、洋書を読む(そもそも本が苦手なのでこれについては何もアドバイスできません)などの努力も必要かな、と思います。

英語留学の行き先としてフィリピンをお勧めしないわけではありませんが、本当にやる気がないと伸びませんよ、ということはお伝えしておきたいと思います。

今回はちょっぴり現実的なnoteになってしまいました。ひとりでも多くの人にフィリピンの魅力が伝わりますように!

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