つんとして見えなくもない唇の素直な「はい」に耳すすがれる
ビニールにブチッと爪を突き立てるタラの身あわくピンクに透けて
ジャスミンがわたしと同じ方向へ腕を伸ばして今日が始まる
桃色月が雲の向こうにいるんだと奮い立たせて大根を摺る
織姫と彦星やろか、と思うほど靴履く彼女を連写している
性という闇に迷えば燻れる生木にさえも見惚れてしまう
階段を(チヨコレイト)と下りるとき涙ぼくろをひとつ落とした
だとすれば正気など望みはしない月ぱらぱらと降る森に立つ
桜が散ってタンポポ吹いて夢でしょう ふうちゃんニ歳前髪を切る
底抜けに寂しがり屋のふたりなら(おやすみなさい)は言わないままに
眠るごと椅子に座ったまま逝きし叔母の遺した飴を舐めおり
リビングの東の襖は日に焼けて奥には人魚一匹を飼う
炭酸のペットボトルを飲み干せば頭上に飛行機雲の切れぎれ