令和6年司法試験 民事訴訟法 再現答案

第1.設問1
1.課題1
(1)任意的訴訟担当とは、本来の当事者適格者(被担当者)が、当該訴訟物について当時者適格を有しない者に対し訴訟追行権を付与することを意味する。そして、訴訟追行権を付与された担当者が受けた判決の効力は被担当者に及ぶ(民事訴訟法(以下「法」とする)115条1項2号)。
以上が任意的訴訟担当の意義である。
(2)明文なき任意的訴訟担当の要件をいかに解すべきか。この点、法54条1項が弁護士代理の原則を定める趣旨は、いい加減な訴訟追行により依頼者が害されることを防止する点にある。かかる趣旨を踏まえると、明文なき任意的訴訟担当を無制限に認めることはできない。よって、明文なき任意的訴訟担当の要件は①弁護士代理の原則の趣旨を潜脱し依頼者を害する恐れがなく②これを認める合理的必要があることであると解する。(昭和45年判例参照)
2.課題2
(1)要件①について
ア.判例の事案では、組合の代表者である組合員が担当者とされたところ、組合の代表者は組合員から代表者として選任され、対外的な代表権を持つ者である。そして、代表者は組合の事情に精通しているから適切な訴訟追行が期待できる。さらに代表者は通常組合員と共通の利害関係を有するから、組合員にとって不利益となるような訴訟追行を行うことは考えにくい。以上の理由から判例の事案では①が満たされるとされた。
イ.本件の事案は判例とは異なり、賃貸建物の共有者たる共同賃貸人の一人を担当者とするものである。このような場合にも①が満たされるか。
本件契約については、本件契約の更新、 賃料の徴収及び受領、本件建物の明渡しに関する訴訟上あるいは訴訟外の業務についてはX1が 自己の名で行うことが取り決められた。よって、X1には訴訟追行権が付与されているから、訴訟物について適切に代表し得る者である。そしてX1は契約の当事者であるから、契約に関する事情に精通しており、適切な訴訟追行が期待できる。さらに、X1は、本件契約を解除し て本件建物の明渡しを求める訴訟を提起しようと考えていたところ、X2及びX3はこの意向について賛同していたのであるから、X1とX2・X3との間で利害対立はない。よって X1が被担当者であるX2・X3に対して不利益な訴訟追行を行うことは考えにくい。
以上のことから判例の事案と同様に①が満たされる。
(2)要件②について
ア.判例の事案は組合を契約当事者とする訴訟である。そして、通常共同訴訟と固有必要的共同訴訟の区別は実体法の管理処分権の帰属形態の観点と訴訟法的観点から判断されるところ、判例の事案は固有必要的共同訴訟であった。
すなわち、組合財産は各組合員の共有に属する(民法668条)ところ、ここでいう「共有」は合有を意味し、各組合員の持分は潜在的である。よって、各組合員の単独での処分は許されず、管理処分権は共同行使が必要である(実体法的観点)。また、個別訴訟を許した場合には、当事者となった組合員と相手方でのみに判決効が及び他の組合の構成員との関係では再度の訴訟が可能になるからから、紛争の一回的解決がなされない(訴訟法的観点)。
以上の理由から判例の事案は固有必要的共同訴訟であったため、構成員の全員が当事者となる必要があったところ、構成員の人数が多数に昇るため、これを満たすのが困難である。よって、任意的訴訟担当を利用する必要性があるとされ、②が肯定された。
イ.本件の事案は判例の事案と異なり固有必要的共同訴訟ではなく、X1単独で訴訟を提起することができるが、このような事案でも②が満たされるか。
この点確かに本件の事案ではX1単独で訴訟提起可能であるから、任意的訴訟担当を利用する必要性はないとも思える。もっとも、X2とX3は自らが当事者となることは時間的・経済的負担が大きいことを理由に、X1単独で訴訟を提起してほしいと述べていたから、 X2とX3を訴訟に参加させることは不合理である。また、任意的訴訟担当を利用することで、被担当者であるX2・X3にも判決効を及ぼすことが出来るから紛争の一回的解決に資する。したがって②が満たされ任意的訴訟担当が認められる。
第2.設問2
1.裁判上の自白とは①相手方の主張する②自己に不利益な事実を認める旨の③口頭弁論又は弁論準備手続における陳述をいう。本件陳述はこれを満たすか。
(1)本件陳述は第一回弁論準備手続期日においてなされているから③を満たす。
(2)基準の明確性の観点から「自己に不利益な事実」とは相手方が立証責任を負う事実を意味する。そしてここでいう「事実」には少なくとも主要事実が含まれる。主要事実とは要件事実に該当する具体的事実である。
 Yの相手方であるXらは本件契約の終了に基づく本件建物の明渡しを求める訴えを提起しているところ、かかる請求においてXらが主張すべき要件事実は㋐賃貸借契約の締結㋑㋐に基づく引き渡し㋒解除原因㋓催告と相当期間経過㋔解除の意思表示である。そして、本件陳述では令和3年10月以降、自分の妻が、本件建物において何回か料理教室を無償で開いたことがあった旨の陳述がなされているところ、かかる事実は用法順守義務違反として㋒に該当する具体的事実である。よってYは本件陳述において、Xらが主張・立証責任を負う主要事実を認めている。したがって②を満たす。
(3) Yの相手方であるXらは第2回弁論準備手続期日において「Yによる本件建物の使用は本件契約に おいて定められた使用目的に違反するものであり、賃料不払とは別の解除原因を構成するもので あるところ、Yはかかる請求原因事実を自白したものであり、Xらはこれを援用する。」と陳述する見込みであるから、これがなされると①を満たす。
(4)以上より①~③を満たすから本件陳述に裁判上の自白が成立する。
2.裁判上の自白が成立すると、撤回制限効が生じるのが原則である。、もっとも、本件陳述がされた場面や弁論準備手続の目的等を踏まえ、本件では例外的に撤回制限効が生じないと解することはできないか。
(1)裁判上の自白が成立した主要事実には不要証効(法179条)が生じる。そして、不要証効が生じる結果、不意打ち防止の観点から裁判所は裁判上の自白が成立した主要事実についてはそのまま判決の基礎としなければならない(裁判所拘束力)。このように裁判上の自白が成立した場合、不要証明効及び裁判所拘束力が生じるところ、相手方当事者においてこれらに対する信頼が生じるから、かかる信頼を保護するために自白の撤回制限効が生じる。
以上の通り、撤回制限効の根拠は、相手方の信頼保護及びかかる信頼を生じさせたことに対する自白者の自己責任である。よって、形式的に裁判上の自白の定義に該当する場合であっても、かかる根拠が妥当しない場合、すなわち相手方に信頼が生じず自白者に自己責任を問えない場合には、例外的に制限撤回効が生じないと解する。
(2)本件陳述は第1回弁論手続においてなされているところ、第1回弁論手続は裁判官の示唆により、賃料不払による無催告解除の可否に関して当事者の信頼関係破壊を基礎付ける事実関係の存否につき、当事者双方が自由に議論するために開かれたものである。よって第1回弁論手続では信頼関係破壊の評価根拠事実及び評価障害事実こそが議論されるべき事実であり、賃料不払いとは別の解除原因に関する事実は争点ではない。これらのことはXらも認識していたはずであるから、Xらが、本件陳述が賃料不払いとは別の解除原因に関する自白であり、これらに裁判所拘束力等が生じると信頼することは考えにくい。さらに、仮に信頼が生じるとしても、Yらは信頼関係破壊について議論すべき場で、本件陳述を信頼関係不破壊の評価根拠事実として述べたに過ぎないし、さらには賃料不払いとは別の解除原因に関する事実は争点化されていなかったのだから、自己責任が妥当せず、撤回制限効を生じさせてしまうと逆にYに不意打ちとなり妥当でない。
 以上より撤回制限効の根拠が妥当しないから、例外的に撤回制限効は生じない。
第3.第3問
1.既判力は、前訴の確定判決の「主文に包含するもの」、すなわち訴訟物存否の判断について生じる(法114条1項)。前訴である本件判決では、Xらの請求が棄却されているから、賃貸借契約に基づく明渡請求権の不存在について既判力が生じている。
2.前訴の既判力が後訴に作用するのは前訴と後訴の訴訟物が同一•先決•矛盾の関係にある場合である。本件では、前訴と後訴の訴訟物は同一であるから、前訴の既判力が後訴に作用する。その結果、「当事者」であるXらは、基準時前の事由のうち基準時における訴訟物の判断に矛盾する事実を主張することができない(既判力の遮断効)。
3.本件セミナーの開催は基準時前の事実であり、基準時における判断に矛盾する事実である。よって遮断効により主張が排斥されるのが原則である。もっとも、このように解すると、判決確定後に本件セミナー開催を知ったXらにとって酷であるから、例外的に遮断効が生じないと解することはできないか。
この点既判力の目的は紛争の一回的解決であり、その正当化根拠は手続保証に基づく自己責任であるから、①紛争の一回的解決及び②手続保証に基づく自己責任の観点を考慮し、遮断効が例外的に否定される場合があると解する。
4.①の観点を重視する立場からは、本件では遮断効は否定されないと解することになる。すなわち、本件セミナーの開催は基準時前の事由であるところ、このような事実を後訴で主張することを許すと実質的には紛争の蒸し返しを許すことになり、紛争の一回的解決がなされず、勝訴したYの地位を不安定にするという不利益を与えることになる。また、本件セミナーの開催をYは知らなかったものの、2年間もの間開催されており観念的には知ることは可能であったのだから、それの責任はY側が追うべきである。
上記の立場は、以上のような理由で遮断効は否定されないとする。
5.確かに①を重視すると上記のような結論になる。もっとも既述のとおり、既判力の正当化根拠は手続保証に基づく自己責任なのであるから、②の観点を考慮し、基準時前の事由について前訴で主張する期待可能性がない場合には例外的に遮断効が否定されると解するべきである。
本件では、Yが本件セミナーを開催していたことは、前訴の段階では明らかになっておらず、それに気付いたのは前訴判決の確定後であった。また、本件セミナーの開催という事実は専らY側の事実であり、Xらがこれを把握できなかったのも責められない。これらのことを踏まえると、前訴の段階でXらが本件セミナー開催の事実を主張することに期待可能性がなく、手続保証に基づく自己責任が妥当しない。
以上より、紛争の一回的解決が害されること及び観念的には前訴で本件セミナー開催の事実を主張可能であったことを考慮したとしても、②を重視し遮断効を否定すべきであると解する。

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