見出し画像

理念と整合する事業成長の鍵「インパクトオフィサー」 - 事業開発、ファイナンス、サイエンス、課題解像度の結節点 -

こんにちは、パブリックヘルスの産業を開発したい守屋祐一郎です。ユビーでインパクトオフィサーとして従事しながら、聖路加国際大学公衆衛生(パブリックヘルス)大学院で医療経済学を学んでいます。

本稿では、ビジネスにおいて社会課題解決と事業成長を両立する鍵となる「インパクトオフィサー」の事例、価値を引き出す要素について、実務や大学院の学びから得た仮説を共有します。

自社や投資先のインパクト戦略の検討・チーム組成・実践の拡大において何か参考になれば幸いです!

要約


  • インパクトオフィサーは経営戦略と社会課題解決を統合するストーリーを設計・運用し、ステークホルダーとの合意形成と共創を通じて、「理念と整合する事業成長」を加速させる

  • (1)事業開発、ファイナンス、サイエンス、課題解像度等の"専門性"、(2)戦略企画力、共創推進力、分析・評価力等の"コンピテンシー"の掛け算が肝

  • パブリックヘルスと親和性が高い。「パブリックヘルス専門知をビジネスで活かす機会としてのインパクトオフィサー」や「インパクトオフィサーの研鑽機会としてのパブリックヘルス」等の機会が考えられる

本稿の背景と想定読者


本稿の背景

  • インパクト投資の拡大に伴い、企業においても社会課題解決と事業成長の両立=理念と整合する事業成長が一層期待される

  • 社会課題解決に対する貢献の検証と対話が重要であり、欧米の非営利セクターを中心に先行するインパクトオフィサーの貢献が鍵

  • 本稿では、まだ限定的なインパクトオフィサーの価値を引き出す要素、パブリックヘルス専門知の有用性について仮説を示し、議論深化と実践拡大を狙う

想定読者

  • インパクト投資ファンドやインパクトスタートアップ、NPO等でインパクト測定・マネジメント(Impact Measurement and Management,IMM)の実務に関与している

  • パブリックヘルス(公衆衛生)の専門知をビジネス領域で活かしたい

  • 経営戦略と社会課題解決の統合に課題を感じている

*専門用語が多いですがご容赦ください。翻訳はAIに譲ります。
*筆者の経験的に医療に偏っていますが、パブリックヘルスは食、環境、教育、貧困等も含む学際領域です。多様な社会課題と関連しますので、医療ヘルスケア領域以外の方にもご覧いただけたら幸いです。


社会課題解決が経済の本流になる未来において、インパクトオフィサーが不可欠


インパクト投資の隆盛に伴い、社会課題解決が経済の本流へとシフトする中、企業には周辺活動を超えて、経営戦略の中核に社会課題解決を据える姿勢が求められています。

画像
重要政策文書でもインパクトがテーマに。筆者noteより

しかし依然「社会課題解決と経営戦略の統合」や「IMMの能動的実践」は発展途上。ここで貢献が期待されるのが、専門性を駆使して企業と社会の関係性をアップデートするインパクトオフィサーです。

The goal for CIOs is to embed impact within current practices and to innovate where deficiencies are identified.
They are also tasked with broadening a company’s horizons by fostering external connections that can lead to expansion and growth.

Expert opinion: Chief Impact Officers are disrupters

医療・ヘルスケア・パブリックヘルス領域で顕在化するインパクトオフィサーの事例


インパクトオフィサーの実態とは。国内では限定的ですが、医療・ヘルスケア・パブリックヘルス領域では特にグローバルの非営利セクターにおいて様々な事例があります。詳細は下記をご覧ください。

下記の特徴が伺えます。

  • グローバルでも"Impact Officer"は非営利セクターが主体。営利企業にも"Chief Health Officer"等が存在するが、事例は少数

  • "Chief Health Equity Officer"、"Policy and Community Impact Officer"等名称も多様。特定のコミュニティ(低所得層等)における公平性を志向するケースが散見

  • MPH(Master of Public Health)、DrPH(Doctor of Public Health)等のパブリックヘルス専門家も複数

活動が充実しているKaiser Permanente、私が所属するユビーをピックアップします。

Kaiser Permanente|地域の疾病予防、"健康の社会的決定要因"の改善と融合した経営戦略

同社は健康保険、病院/診療所等の医療サービス、低所得層向けの廉価な住居の提供等のプログラムを提供する米大手医療グループです。

Chief Health OfficerやChief Community Health Officer主導のもと、予防医療や"健康の社会的決定要因"の改善に向けた課題策定、プログラムの実施、評価及び改善を実施。

結果、健康改善、医療費適正化、健康格差是正に寄与しながら、重症化予防による医療費適正化/抑制、満足度向上による契約の維持・拡大を通じた保険事業の収支改善にも貢献。まさに社会課題解決と経営戦略の統合です。詳細はこちらをご覧下さい。

ユビー|インパクトを共通言語に「生活者と適切な医療のマッチング」を共創

ユビーは「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションにコンパウンド戦略を展開。症状検索アプリ医療情報メディア医療機関向けAI/DXサービス製薬企業向けメディカルマーケティング支援事業を提供しています。2024年5月、社会的インパクト指標とロジックモデルを策定・公表しました。

意思決定やマネジメントへの活用に加え、ステークホルダー(メンバー、顧客、採用候補者、投資家、行政、メディア、アカデミア等)との共通言語として浸透を図り、「社会的インパクトへの共感に根差した、理念と整合する事業成長モデル」を目指し試行錯誤中です。

インパクトオフィサーの価値を引き出す専門性とコンピテンシー


インパクトオフィサーの価値を引き出す要素とは。(1)領域横断的な”専門性”、そして(2)専門性を成果に転換するための”コンピテンシー”と分解して考えます。実務の要諦や各社の事例をもとに、コンピテンシー軸の仮説として、下記が挙げられます;

戦略企画力

  • 社会課題と事業の関係性を策定し、マクロトレンドや政策、学術動向を踏まえ継続更新できる

  • 事業のTAM/SAM/SOM、社会課題解決のアウトカムを接続したロードマップを描ける

  • 適切な介入(アウトプット)、成果(アウトカム)、貢献(インパクト)の仮説(インパクト戦略)を策定できる

  • 自然科学(医学、疫学等)と人文社会科学(倫理学、人類学、経済学等)の知見を統合した学際的視点を持ち、科学的エビデンスと社会的・文化的洞察を調和したストーリーを語れる 等

共創推進力

  • 社会課題解決を遂行可能な目標へと落とし込み、適切な推進体制や情報流通の仕組みを実装できる

  • 多様なステークホルダーとの関係性や認知状態を観察し、それぞれの動機に寄り添った共通のゴールを共に追求できる 等

    • 社内:経営陣、営業、IR、広報、政策渉外、生成AIツール等

    • 社外:行政、医療機関、NPO、投資家、研究者、学会、患者団体等

分析・評価力

  • 正確な情報と批判的な吟味を通じて、社会課題の構造を正しく把握できる

  • 理念との整合性・実行性・頑健性・透明性を考慮したインパクト戦略を設計・運用し、社内外コミュニケーションに統合できる

  • 国際的な規範(SDGs、IRIS+、インパクト会計等)、傾向を踏まえ、標準化と個別具体性のバランスを最適化できる 等

このように、価値の源泉としての(1)事業開発、ファイナンス、サイエンス、課題解像度等の“専門性”、専門性を統合する基盤としての(2)戦略企画力、共創推進力、分析・評価力等の“コンピテンシー”の掛け算が肝要と考えられます。

パブリックヘルス専門知を掛け合わせる


いかに価値を引き出すか。パブリックヘルス専門知の掛け合わせが有用と考えます。

パブリックヘルス専門知をビジネスで活かす機会としてのインパクトオフィサー

非営利セクターのインパクトオフィサーにMPHホルダーが複数いることからも、両者の親和性の高さが伺えます。
一方で、国内企業におけるパブリックヘルス実務家の多くは製薬、医療機器メーカーのデータ関連職であり(私見)、本来の活躍余地に対し局所的です。私はここに、企業のインパクトオフィサーという貢献機会の拡がりを見出しています。

創造的な専門教育も重要です。UCバークレー公衆衛生大学院に新設されたChief Social Impact OfficerImpact Fellowsプログラムは注目に値します。こちらでは学生と社会起業家、政策立案者、研究者等との連携企画を通じた実践型教育が提供されるようです。

インパクトオフィサーの研鑽機会としてのパブリックヘルス

逆に、事業開発やファイナンスの専門家がパブリックヘルスを学ぶことも有用です。疫学、因果推論、医療経済学、医療政策管理学、医療人類学等の理論や実践、ステークホルダー理解が、専門性に更なる深化・拡張をもたらします。

学習機会として公衆衛生大学院(国内各校の比較)は勿論、最近はオンラインのスクールコミュニティも挙げられます。目的や時間、金銭、エネルギー残高とのバランスで検討すると良さそうです。

画像

パブリックヘルス x インパクトオフィサーで実現する価値

こうした越境により下記のような価値の実現が期待されます;

画像

上記は十分条件ではないですが、理念と整合する事業成長を加速するユニークな貢献を期待できます。なお一人が全てを身につけるのは現実的ではなく、外部専門家やAI含め、チームで補っていく形が想定されます。

国内インパクトビジネスにおけるインパクトオフィサーの活性化に向けて


本稿では、インパクトオフィサーの価値を引き出す要素やパブリックヘルス専門知の有用性について、スタートアップの実務者視点から仮説を記しました。他領域や非営利セクターでの伝統的事例の探究と統合は継続課題であり、ぜひ有識者の方に勉強させていただきたいです。

今後も事例創出、カンファレンス企画・研究・政策提言を通じたエコシステムの発展に尽力します。本稿の内容、経営戦略と社会課題解決の統合、IMM実施・活用方針に関する議論等大歓迎ですので、ぜひお気軽にご連絡ください!(X / Linkedin / Facebook)

インパクトオフィサーに関心を持った方へ
2025年3月1日(土),2日(日)開催の社会課題カンファレンス「IMPACT SHIFT」にてインパクトオフィサー関連セッションを企画中です。ぜひご来場ください!(お申し込みはこちら)


いいなと思ったら応援しよう!