映画の予告編はどのように作られているか?

NETFLIXオリジナルシリーズの予告編を分析していたのですが、基本的な作り方は、映画の予告編とほぼ同じ作り方をしていることに気づいたので、その構造についてまとめてみます。


映画の予告編(NETFLIXの予告編)とは、どのような要素で構成されているのでしょうか?


予告編に共通する要素というのはいくつかあるのですが、まず大きなポイントは、キーとなるセリフの積み重ねで構成されているということです。ナレーションなどでの説明は最小限にとどめ、登場人物のセリフによってストーリーを伝えるというのが、映画の予告編に共通した特徴になります。もちろん、ただ印象的なセリフを羅列しているだけでは、ストーリーは伝わりません。ストーリーを伝えるための、共通した構造が存在します。

映画の予告編の構造を理解するためには、まず「映画というものがどういう構造になっているか?」を理解する必要があります。


映画は三幕構成で作られている。

映画のストーリーは、(特にハリウッド映画のほどんどは)三幕構成と呼ばれる、第一幕、第二幕、第三幕の区切りによって構成されています。日本で、起承転結や序破急と呼ばれるものに似ていますが、もっと具体的です。まず、第一幕と第二幕の間には、ターニングポイントと呼ばれる出来事が生じます。ターニングポイントは、物語を飛躍させるエンジンの役割を果たします。同様に第二幕と、第三幕の間にもターニングポイントが存在します。

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わかりやすいように、トイ・ストーリーで三幕構成について考えてみましょう。

まず第一幕において、オモチャたちが、持ち主の人間の知らないところで生きて、意思を持っているという設定が描かれます。主人公ウッディは、持ち主の一番のお気に入りのオモチャですが、そこにバズという名の最新のオモチャがやってきて、ウッディはお気に入りの座を脅かされます。

ここで1つ目のターニングポイントが生じます。
「ウッディが嫉妬して、バズを殺しかける」という出来事です。

このターニングポイントを経て、物語は第二幕へ移行します。
第二幕のストーリーラインは、「ウッディとバズが反目しながら持ち主の元へ帰ろうとする」という内容です。そして、この第二幕こそがトイ・ストーリーという映画のメインテーマ、主題となる部分です。

第二幕におけるターニングポイントは、ウッディがバズに対して負けを認める場面です。ウッディは「君はすごいオモチャだ。凄すぎて羨ましいよ」とバズに語りかけ、自分が最早一番お気に入りのオモチャでないことを受け入れます。ウッディとバズは和解し、第二幕が終わります。

第三幕のストーリーラインは、ウッディとバズが協力して、持ち主の元へ帰ろうとするという内容です。

簡単にまとめると
第一幕 主人公は、誰でどのような状態か。
第二幕 主人公は、どのような状況に陥り、何を目指すのか。
第三幕 主人公は、どのような結末にたどり着くのか。

このような構成が映画には、というよりも、ほとんどのストーリーには存在します。そして、映画の面白さを伝える予告編も同じ構成が存在しています。映画の予告編にも、三幕構成によって成り立っているのです。「主人公が誰でどのような状態か」が描かれ、「どのような状況に陥るのか」が描かれ、「結末がどうなるのか」を煽って終わるという構造です。


『クイーンズ・ギャンビット』予告編はどう作られているのか?

では、予告編において三幕構成がどのように使われているのかを見てみましょう。

こちらはNetflixオリジナルシリーズ『クイーンズ・ギャンビット』の予告編です。冒頭で述べたように、この予告もまた、映画の予告と同じ構造で作られています。つまりキーとなるセリフの積み重ねで作られていて、三幕構成が存在する、と言う構造です。

この予告編をいくつかのパートに分けてみましょう。まず音楽に注目すると、予告編の中で何度か音楽が変化することに気づくかと思います。さらに、ポイントとなる重要なセリフとともに何度か音楽が切れるタイミングがあるのがわかるかと思います。

また、印象的な場面で、音楽のタイミングに合わせて、画面全面にテロップが出てくることもポイントです。結論から言うと、音楽が変わるタイミングやテロップの出てくる箇所がターニングポイントで、そこで第一幕から第二幕、第二幕から第三幕への変化があります。

まずは、冒頭。「男たちは教えたがる」のセリフとともに正面を見つめる主人公の顔が映し出されます。主人公が、女性のチェスプレーヤーであること、その力量が男性顔負けである様子が描かれます。ちょうど1分の所で、音楽がブレイクし、「想像と心の闇は表裏一体。つまり、天才と狂気よ」と言うセリフとともに、ドラッグを飲みこむ主人公の映像が描かれます。ここが一つ目のターニングポイント。

第二幕に入ると音楽が変わります。ロシア人の男が現れ、彼が世界チャンピオンであることが描かれます。主人公は「ロシア行きが決まった」と言いますが、さらにドラッグやアルコールに耽溺していきます。

「主演 アニャ・テイラー=ジョイ」のテロップとともに第三幕が始まります。主人公に起る栄光や苦悩が描かれ、最後は「才能の裏に代償がある。何を支払うのか?」と言うセリフで終わります。

まとめるとこうなります。

第一幕 主人公は、誰でどのような状態か=女性チェスプレーヤー

第二幕 主人公は、どのような状況に陥り、何を目指すのか=ドラッグに溺れながらもチェス世界チャンピオンに挑む

第三幕 主人公は、どのような結末にたどり着くのか=主人公はチャンピオンに勝てるのか?才能の代償に何かを失ってしまうのか?

つまり『クイーンズ・ギャンビット』の予告編は、「女性チェスプレーヤーが、ドラッグやアルコール依存と戦いながら、チェスの世界チャンピオンに挑む。彼女の挑戦は果たして?」と言うストーリーを我々に伝える構造になっています。

予告編に、三幕構成が存在することがお分かりいただけたでしょうか?全てとは言いませんが、多くの予告編にはこのような構造が存在します。主人公はどのような人間で、彼・彼女に何が起るのか?というのを、音楽やテロップによりメリハリをつけて、わかりやすく示すというのが、予告編で三幕構成を使うメリットであると言えます。

『全裸監督』『ゴジラ対コング』予告編の三幕構成は?

こちらはNetflixの全裸監督の予告になります。テンション上がる、クオリティの高い予告です。同じように分析すると

第一幕 冒頭から「行きましょうか。作りたいものを作りにです」のセリフまで。黒木香と村西の出会い

第二幕 「ファンタスティック」のセリフから「実話に基づく」のテロップまで。村西のAV制作が進むが、国家権力、ヤクザとの争いの予兆が描かれる。

第三幕 「実話に基づく」テロップ出現から、ラストまで。 

となり、この予告が、「一人の女優と出会ったことをきっかけに、AV監督が、権力やヤクザと対立しながら自分の作りたいものに挑む」というストーリーを伝える構造になっていることがわかります。

Netflixオリジナルシリーズでない、劇場用映画の予告も同じように分析してみましょう。『ゴジラvsコング』の予告編です。冒頭にも書いていますが、映画予告も、Netflixの予告も基本的には同じマナーで作られています。繰り返しになりますが、セリフの積み重ねによってストーリーを伝え、音楽やテロップの切り替わりによって、三幕に別れると言う構成です。

第一幕 冒頭から「最強はどっちだ」のテロップまで。ゴジラとコングの出現

第二幕 「最強はどっちだ」のテロップから「神話は本当だった。今その戦いに決着がつく」のセリフまで。ゴジラとコングの対決による世界崩壊の危機。

第三幕 「破壊神」テロップ出現から、ラストまで。

音楽の転換や、ブレイク、テロップの出現によって三幕構成に分けられることがわかるかと思います。


このように映画の予告編には特徴的な共通する作り方のポイントが存在します。他にもテロップや、キャストの出し方、効果音の使い方などに、予告編に特徴的なポイントが存在します。予告編を見ながら、三幕構成などの構造に注意してみると面白いかもしれません。


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