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リチャード・エヴァンズ『エリック・ホブズボーム』(岩波書店、2021年)

7月発売のと、6月発売の『思想』のアイザイア・バーリン特集号。どちらも刊行を心待ちしていた本であり、また20世紀のイギリス史を学ぶ者には必読の文献となりそうです。


共産党員で、マルクス主義的な歴史観を持つホブズボームと、冷戦時代において共産主義には批判的で、自由主義的な思想を尊重するバーリン。思想的には対照的な二人ではありますが、古き良きイギリスの学問を象徴するような、のびのびと自由であり、斬新な視点を提起して、巨大な問題に怯むことなく臨み、また歴史を俯瞰する独自の視野の広さを持つ問いという点で、どこか共通点も感じます。


私が大学生、そして大学院生のときに、イギリス外交史を学びながらも、この二人の名前はつねに身近なところにあり、また歴史を理解するヒントを多くそこから学んできた気がします。


何よりも、ホブズボームの評伝は、現代のイギリスでの最高峰の歴史家ともいえるリチャード・エヴァンズ・ケンブリッジ大学名誉教授によるもの。このエヴァンズは、2008年にケンブリッジ大学歴史学欽定講座教授のポストに就くまで、ロンドン大学バークベック・カレッジ教授を務めており、そこではホブズボームも歴史を教えていました。バークベックとケンブリッジで、この二人の繋がっているというのも面白いところ。

また、エヴァンズのCosmopolitan Islandersという、ケンブリッジ大学教授就任演説をもとにした短い著書は、私自身が『アステイオン』で書評エッセイを書いております。

そのエヴァンズが、思想的な立ち位置の異なるホブズボームの人生を通じて、20世紀を俯瞰して、また一人の巨大な影響力を持った歴史家の存在を描こうとするわけですから、面白くないはずがない。木畑先生が監訳され、門下の方々が書かれた訳文は、流れるように読みやすい。期末試験の採点や、諸々の原稿執筆が詰まっており、本書をゆっくりと読む時間はなかなかとれませんが、こういった20世紀を代表する知識人を通じて、イギリスという社会の多面性、複雑性を少しでも理解できればと思っております。

(2021年7月25日記)

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