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佐橋亮『米中対立 ーアメリカの戦略転換と分断される世界』(中公新書、2021年)(2021年8月1日記)

気候も暑く、オリンピックも暑く、またオリンピック開催をめぐる論争も暑い毎日ですが、刊行を楽しみにしていた、新進気鋭(すでに大御所?)の佐橋亮さんの『米中対立』(中公新書)を読みはじめました。

昨年に刊行された詫摩佳代さんの、同じ中公新書の『人類と病』や、池内恵さんの『イスラーム国の衝撃』(文春新書)のように、その時代のもっとも重要な問題であり、かつ誰もが深く知りたいと思うテーマについて、長年学術的に最先端の研究をしてきた方が一般向けの書籍を刊行するのは、日々の努力の蓄積がなければ実現し得ません。他方で同時に、努力のみならず、その時代の趨勢を捉えることもまた重要な意味を持つのでしょう。その意味でもとても良いタイミングでの刊行だと感じます。


こちらのご著書は、学術的な堅牢な議論を基礎に据えながら、同時に一般向けのわかりやすい記述を心がける努力が随所に見られます。また、ニクソン・ショック以降の米中関係史を俯瞰しながら、同時に現在進行形の政策の論争をカバーするという、これまた佐橋さんでなければできない重要なご貢献と感じています。


かつて、現在の勤務先の東文研の偉大な前任者、田中明彦先生が『日中関係史』という重要な通史を書かれ、国際政治学者としてこの二国間関係を概観する視座を提供されました。後任の佐橋さんは、それを米中関係史において、異なる角度と手法で実現したようにも感じます。国際政治学者としての強靭なトレーニングがあってはじめて、そのような広い視野を提供できると思います。このような大きな国際政治の構図を描写することは、細部を史料を元に詰めていく史学的なアプローチだけではなかなか難しいのかもしれませんね。国際政治学者という立ち位置と、アメリカの対中政策という立ち位置を明確にすることによって、今後のこの分野の研究の広がりをもたらす、重要な基礎になるのだろうと思います。


あらためて、私自身は、アメリカについても、中国についても、よく知らなかったということを実感しています。私のようなこの分野に明るくない立場の研究者には、このような専門家のご貢献は本当にありがたい限りです。これから長らく読まれるであろう、スタンダードな一冊になるのではないでしょうか。大量に目の前に積み重なっている採点作業の合間に、少しずつ読み進めるのを楽しみたいと思います。

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