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谷一巳『帝国とヨーロッパのあいだで ーイギリス外交の変容と英仏協商 1900−1905年』(勁草書房、2021年)

おそらく日本語でのイギリス外交史研究の著書史上、もっとも装丁が美しく品格がある(私の主観)、谷一巳博士の初めての著作、『帝国とヨーロッパのあいだで』(勁草書房)がまもなく刊行されます!

谷君は、10年少し前に私がプリンストン大学に在外研究に出ているときに、日吉で、私の代わりに講義をお願いしておりました君塚直隆さんの洗練された西洋外交史の講義に完全に魅了され(あまり話すのが得意ではなかった谷君には、君塚さんの講義でのトークは圧倒的であった)、君塚さんの演習も履修し、その後君塚さんが慶應の専任教員ではなかったために、やむをえずに私のゼミに参加。

当時、8月に帰国して、急遽入ゼミの募集をしたので、ほとんどの学生の皆さんはそれぞれ、国際政治系の人気ゼミなどに入っておりました。そのようななかで、君塚さんのご助言を聞き、私の帰国を待って、当時「少数精鋭」となった私の秋学期からのゼミの主力として、国際政治学や外交史研究を研鑽してくれました。

比較的無口で、おそらくあまり器用ではない谷君は、他の方よりも研究の成果が出るのには時間がかかりましたが、同じ第一次世界大戦前後の時代のイギリス外交史研究をしていた大学院の先輩の、大久保明君(名古屋大学准教授)、藤山一樹君(大阪大学専任講師)、赤川尚平君(日本国際問題研究所)君らとの自主的な勉強会から刺激を受けて、彼らの背中を見て、たくましく大学院時代に成長してくれました。

徳島から東京に出てきて、東京で洗練された慶應内部生たちに囲まれる谷君は、その後なんとイギリスの名門、LSEの大学院の国際関係史専攻で留学することになりますが、はたして無口で、それほど社交的には見えなかった(実際には結構社交的です)谷君がロンドンで無事にやっていけるのか心配しておりました。すると、「徳島から東京に出てくることと比べたら、東京とロンドンはそれほどかわりません」という名言を残して、イギリスへ出発。ロンドンでは、シャーロック・ホームズと、キューの外交史料をこよなく愛し、第一次世界大戦史研究の世界的大家のデイヴィッド・スティーブンス教授や、アントニー・ベスト教授らの指導を受けて、研究者としても人間としても成長して帰国。

ということで、はたしてここまで、学部と大学院で指導教授でありながら、いつ私が指導したかなかなか思い出せないながらも(翻訳でも、中曽根平和研でも、日本国際問題研究所でも、仕事をお願いした記憶はたくさんあるのですが…)、20世紀初頭の外交史研究から、シンクタンクで現在の国際政治研究まで、幅広く研究する優れた若手研究者となりました。今は、任期付での日本国際問題研究所のポストと、慶應での非常勤講師のポストのみで、将来は不安定ではありますが、今回の単著の刊行で、きっと優れた若手国際政治研究者として、今後軌道に乗ってくれることと確信しています。

ということで、外交史好きの皆さん、どうぞ本書のクリスマスのご刊行を楽しみにしていただければ幸いです!



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