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岩田清文・武居智久・尾上定正・兼原信克『自衛隊最高幹部が語る令和の国防』(新潮新書、2021年)

机の横に積み重なった新刊書の数々を手に取って、中を開いて堪能し始めました。こちらの一冊、学者外交官であり、戦略思想家である兼原さんが、「平成の名将」を集めて縦横無尽に、現在の問題を語り合っておられます。今、日米間で緊迫した課題となっている「台湾危機への対応」の章もあり、まさに時代を先取りして、問題の本質に迫っておられます。


とりわけ、冒頭の兼原さんの「はじめに」は必読。現在の中国から来る圧力を近代史のなかに位置づけて、「この圧倒的な圧迫感は、日本が明治時代に帝政ロシアに怯えたり、三国干渉時に独仏露の欧州列強から感じたりしたものと同じである」と喝破。だとすれば歴史の中に、それへの対応のヒントがあるはず。


また、「孤立した平和を楽しんできた日本は、世界史を演出するような大戦略を描くことが苦手である」という、現在の日本が抱える問題の本質を、抽出しています。すなわち「今、日本の政治指導者に最も求められている資質の一つは、軍事、戦略に関する幅広い常識である」とも述べておられます。「幅広い常識」。あたりまえのようで、ほとんどの人が馴染みのない「常識」。戦前の日本人にもそのような「常識」があれば、「負け戦」である対米戦の開戦にあれほど熱狂しなかったはずです。


私は、もっとも高い知性が要求される職業の一つが、軍人だと思っています。というのも、圧倒的な暴力であり、殺戮兵器である軍事組織において、高い知性と理性、そして「常識」がなければ、それは悲劇しか生みません。そこに、高い知性が備わることで、われわれは軍事力という暴力を、逆説的に、平和を維持して、幸福を得るために活用することが出来るからです。


現代の日本において、そのような高い知性を有する多くの軍人がおられることは、もっと評価されて良いと思いますし、反対にそのような知性や理性、そして「常識」を持たない狂人が、もしも軍事組織のリーダーになったときに恐怖と不幸を想起するべきなのだろうと思います。だとすれば、このようなかたちで、兼原さんが三人の「名将」を集めて、安全保障問題の最先端を議論する意義は、限りなく大きいと思いますし、それが新書というかたちで多くの方の目にとまることは、素晴らしいことと思います。

(2021年4月23日記)

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