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堤林剣・堤林恵『「オピニオン」の政治思想史 ー国家を問い直す』(岩波新書、2021年)

私の勤務先での尊敬する同僚、堤林剣先生の、奥様との共著が刊行されました。堤林先生は、研究者として卓越した能力を有するのみならず、私の勤務先では、私の数倍の大変な事務処理業務を日々になっておられ、さらには高校時代にイギリスで過ごされたそのジェントルマン教育の精神から素晴らしい人格です。


ちょっと褒めすぎのような気がしますが、実際に今、政治学科の1年生向けに政治学基礎という科目をご一緒しているのですが、堤林先生と一緒に担当していると、自らの研究者、教育者、大学行政者としての能力の低さを痛感し、日々つらい思いをしています。


ケンブリッジ大学で政治思想史を学ばれて、博士号を取得された堤林先生。単に、欧米の最先端の研究成果を輸入するというのではなくて、自らの頭で考えて、自らのオリジナルな知見を提示するという、希有な高い志とそれを実現する能力をお持ちの思想史家だと思っております。本書でも、「オピニオン」というあまり耳にすることのない斬新なコンセプトを用いて、現代政治の本質に迫ります。


「なぜ国家は死ななくなったのか」という政治思想的な問いに対して、「オピニオン論」という最先端の概念を駆使して、「国家が死なないのは多くの人びとにそれを死なせるつもりがないからだ」という、認識論的な観点から、現代国家の強靱さを説きます。


さらには、そこにとどまるのではなく、「オピニオン論にもとづいて理解された『死なない国家』の成立条件が、テクノロジーの進歩などによって変化した場合にどうなるか」という、より切実な、現在進行形、あるいは未来形の問いに真摯に向き合っておられます。


最上の学問的な思索を、丁寧に咀嚼して、読みやすい一般向けの文章と構成で描くというのは、本来の新書が目指していた理想だと思います。ちょっとタイトルが、とっつきにくい印象を与えてしまうような気もしますが、文章自体はとても流麗で読みやすく、是非多くの方にお読み頂きたい一冊です。
いやはや、最近の私は、メールの返信もほぼ停滞して止まっており、大学での事務作業も大幅に滞って、多くの方々を怒らせてしまっています(私が悪い)。政治学基礎を共同担当している堤林先生。メールの返信がないことにも切れず、私のミスや、期限を過ぎた業務についても、さりげなくフォローをしてカバーをしてくれるという紳士ぶり。もう恥ずかしいというか、もうしわけないというか、そのようなご迷惑をおかけして、フル回転で大学の業務を適切かつ期限内にいつも済ませておられる堤林先生が、いつの間にかこういった立派な学問的な成果を出されているのですから、もう私なんかは、穴があったら入って人様に顔を合わせずに済むようになって、猛省したい気分です。

(2021年4月23日)

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