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細谷雄一『迷走するイギリス ーEU離脱と欧州の危機』(慶應義塾大学出版会、2016年/Kindle版2021年)

ちょうど今日、『迷走するイギリス ーEU離脱と欧州の危機』のKindle版が発売です!といってもこちら、5年前に紙のものを刊行しており、時間が経ってからのKindle。でもちょっと嬉しいです。イギリスは迷走し続け、5年経ってもまだ読んでもらえそうで。でもイギリス外交を学んできた者として、本当は悲しむべきかも?


こちらの本は、すでにほかのところで書きましたが、2016年6月23日のイギリスのEU加盟継続を問う国民投票での離脱の結果を受けて、急いで2ヵ月ほどで書いてまとめて、10月5日の後付けで刊行しています。なんとも綱渡りで、使命感のようなものを感じながら一気にまとめました。


というのも、私の慶應での修士論文のタイトルが、「イギリス外交とヨーロッパ統合の起源、1948-50年」(1997年)というもので、どのようにイギリスが欧州統合の起源において重要な役割を担ったかということと、そしてなぜそこから離れる決断をしたのかを論じたものです。バーミンガム大学大学院留学中に集めた一次史料を用いて書いたものです。


その後、20年近く、研究の関心を拡散し続けてきましたが、やはりイギリスとヨーロッパとの関係はつねに関心を抱き続けてきたために、その研究対象が「消える」ことは自分の中での研究者としての1つの「区切り」になるのではないかと、感じました。


私の慶應での師匠の田中俊郎先生が、まさにイギリスとシューマンプランの関係についての研究をしており、その門下の庄司克宏慶應義塾大学大学院教授、そして鶴岡路人慶應義塾大学准教授と、三人揃って、「ブレグジット本」を刊行するというのも、ちょっとした嬉しい偶然です。庄司克宏先生は、『EU危機 ーBREXITショック』(2016年)と、『ブレグジット・パラドクス ー欧州統合の行方』(2019年)、そして鶴岡路人さんは『EU離脱 ーイギリスとヨーロッパの地殻変動』(2020年)です。


いよいよ2021年1月1日に完全にEUから離脱したイギリス。それを記念して、四冊まとめて、読んで頂くのはいかがでしょうか。「ブレグジット博士」になれるかも?!三者三様で、まさにそれぞれの専門と個性が色濃く出ていると思いますので、どれか一冊だけで済ませるというよりも、続けて読む方が深く、立体的に、理解が進むと思います。


今振り返って、ぱらぱらと読み返してみても時間が経過しても、中で書いていることが大きく間違っていないということが、なんとも安堵しているところです(そうでなければ、Kindle版ははずかしくて刊行できませんので…)。とはいえ、研究者の使命は将来を予測することでもありませんし、細かいところで私の想定と異なる軌跡を描いているところも多々あります。歴史はわれわれの想像を超えて、多様な要因が相互作用して、曲折しながら進んで行きます。


アイザイア・バーリンがかつて語った、人間性という曲がった木材からは、一切直線的なものはつくられてこなかった、という言葉がとても気に入っています。人間が政治を動かしているのだから、政治もまた曲がりくねった、紆余曲折したものとなるのもやむを得ません。


歴史を基礎に現代の国際政治を語るという、北岡伸一先生や田中俊郎先生の研究スタイルを気がついたら、影響を受けているのだろうと思います。もちろん、お二人と違って才能の欠如した私の場合は、かたや歴史家の方々からは史料の利用が少ないと怒られ、政治科学を行っている方々からは科学性が欠落していると怒られ、その間の空間をさまよい続けています。


何ごとも、複数の美徳を総合して、適切な均衡を得ることが重要だと考えています。同時に、アリストテレスが倫理の中で語った、極端を排する中庸の価値をいつも感じています。そのような観点から、イギリスとヨーロッパの関係や、現代の国際政治、さらには日本外交についてなど、今後も色々と独自性と斬新性のある見解を論じて行ければと思っています。

(2021年1月20日記)

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