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「先生、ツイッターやりすぎじゃないですか?」

私のゼミ生たちが伝統的に有する美徳の一つが、他の人が言いにくい厳しい言葉を、率直に私に言ってくれる学生がいること。学部生も院生も。それで、バーミンガムで夜にゼミ生たちと集まってお酒を飲みながらおしゃべりしているときに、ふとこんなことを言われました。予期していたとおりですが。

「先生、ちょっとツイッターやり過ぎじゃないかって、ゼミ生みんな心配してますよ。せっかくイギリスに一年いるのだから、専門の外交史の執筆にもっと時間を使った方がいいんじゃないですか。」正論過ぎて、ぐうの音も出ません。まさに。

で、その場では、「ウクライナ戦争がはじまって緊張状態というか、ハイテンションというか、国際政治学者として色々と感じることがあり発信してきたけれども、これからはもう少し専門の研究に時間をかけますよ」と答えました。もちろん、メールの返事が来ないことを心配するゼミ生も…。

こういったことを率直に言ってくれるのは、本当に有り難い。プーチンと一緒で、教員も長くやって年をとってくると、率直に真実を語ってくれる人が減ってくると思いますので。

他方で、なんで自分はこの二ヵ月、毎日ツイッターで投稿をしていたのか、ちょっと振り返る契機となりました。というのも、それまでは一月に数回しか呟いておらず、あとはリツイートとか、自分の原稿掲載とかの宣伝がメインでしたので。

それで、ちょっと考えてみたら、そもそも学者としての私の仕事は、専門としてのイギリス外交史研究と、現代の国際政治についての論評という論壇での活動と、主にこの二つがあり、最近はシンクタンクでの仕事が増えて、後者の比重が大きくなったことを実感しました。

それで、ツイッターで発信する中でも、尊敬する盟友ともいえる池内さんと篠田さんと私は、他の専門家の方々がかなり自らの専門に限定した発信をする中で、幅広く論じていることに気付きました。この三人の共通点は、30代で論壇賞などをとっていること。池内さんと篠田さんは大佛論壇賞(朝日新聞!)。

そして私は30代末に読売吉野作造論壇賞。あとはサントリー学芸賞という共通点も。それで、この二つに関わっている山崎正和先生から、授賞式の2次会のバーの席で、「細谷さん、これはあくまでも、これから論壇で発信して頂くことを期待しての賞ですよ」と、専門に閉じこもらず、幅広く論じてほしいと。

そういったことをサントリーと吉野作造賞と二度にわたって言って頂きました。私の場合は大して力もないので、申し訳ないという気持ちで、いわば「前借り」というか「債務」として、これまでの活動の業績評価ではなく、これからの発信で恩返しをするという気持ちを持ってます。拙いながらも。

もちろん、それを考えると私の力不足、そして発信する内容の不足について忸怩たるものがありますが、それでも池内さんとは、もう10年以上前に次々と論壇誌が消えていき、論壇という空間が消えていくことに危機感を持って色々と語った想い出もあります。

論壇やメディアの進化について、研究者として希有な才能と感性を持つ池内さんは、これからの論壇の空間がネットにうつるといち早く察して、Foresightのウェブ版移行の必要を説き、また支え、さらに最近では東大での自らのプロジェクトで、次々と素晴らしい動画配信をしています。

実際に、専門家は残りましたが、「論壇」という空間はほぼ消えてしまった。それぞれが「サイロ」に閉じこもり、近い立場の見解を共有することを続けることで、自らと異なる見解への不寛容さと、敵意が募る。自戒も込めて。

なので、私の場合はイギリス外交史という専門と、国際政治や外交、安全保障問題に関して、論壇で可能な範囲で僭越ながらも発信するという、この二つをうまく繋げたいという想いがあります。これまでもそうしてきました。

今後もこの二つを同時並行で、相互補完的に続けると思いますが、他方で専門のイギリス外交史の軸足が弱くなっているのも事実。そして、そのためにイギリスに来られる機会を頂いたのも感謝。気付いたら一年の半分以上が過ぎていた。あと半分。

私の発信を僭越だと感じる方が多いと思いますし、専門分野の外のことで不正確な言及もあるかと思いますが、それでも「論壇」という空間が日本で残ってほしいという想いがあり、健全な外交論議が不可欠と信じています。

とはいえ色々とドライブをしながら、あるいはコーヒーを飲みながら考えていて、さすがに後の残りのイギリスでの半年は、外交史研究に専念しないとまずいな、という認識。ですので、論壇の仕事を少し控え、またツイートの発信も徐々に抑制しようと考えています。

同時に、学生時代はジャーナリストに憧れていて、現在進行形の国際情勢にどうしても関心、好奇心が引き寄せられてしまうので、どれだけ抑制できるか分かりませ。ただし、可能な限り失礼な発信、読む人を不快にさせる発信がないように、その点については今後よりいっそう抑制していきたいと思います。


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