嘘みたいに風が強い夜(怪談)

ドタドタ、ドタドタ


夜逃げかな


と思うくらい音がうるさく、
自分のなかの危機管理センサーが働く。

めずらしく物音で目が覚めた。


どうやらただの風だ。

浴室の取ってつけたような
アクリル板が風にふかれてバタバタと音を立てている。

泥棒もびっくりの騒音。

安普請。

熱帯の住居らしい。


まだ朝4時なんだけど、、、

まぁ、でも、いつも5時くらいに起きるので時間は良い。 


こんな夜に女ひとり、不安になる。
侵入者ではなく、暴風の仕業とわかっていても、
音自体が不穏である。

外では椰子の木がわんさか揺れている。


まったく、愉快な朝だ。


エアコンなんていらないくらい涼しい。


本来、自然の前には我々は成す術を持たない。  

そんな当たり前の事をつい忘れさせてくれる現代。


天候によって生活が左右されるのは傘がいるかいらないか、くらい。


それも、車移動でほぼ事足りるので傘すら持たずとも支障は少ない。


昔の人は感受性を持って
天気や自然と折り合いをつけていたのだろう。

農作物の為に雨乞いをしてみたり、
災害や圧倒的な自然を神様や鬼と呼んでみたり。


そんなことを考えて遊んでいると、静かになってきた。
家中のドアや窓をもう一度確認して戸締まりをする。

風がやんで、いつもの音に近くなってきた。
風音の代わりに車の音が少し聞こえてきた。


やっと静かになった。

女は、なんだか落ち着いて再びベッドに横になる。








「やっと静かになった…」


見知らぬ男の声がベッドの下から聞こえてきた。

(完)










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