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「望郷」最終話

 新幹線の乗車口の窓から、互いの告白の余韻で恍惚としたまま外の景色を眺めていた俺達は、少しずつ言葉を交わし始める。兄は入場券を買うフリをして、新幹線の乗車券と自由席の切符を買っていたらしい。

「最初がら新幹線乗るつもりだったの?」
「いや、おめの返事聞いだ後決めだ。
自惚れがもすれねんだげんど、慎司無理すてる時の顔すてだがら。発車する直前、おめが手振っておらば見だ時、確信すたんだ」
「何を?」
「慎司は今も、おらと同ず気持ぢだって」

 言いながら、兄が俺の手を握ってきて、俺もその手を強く握り返す。血の繋がりはなくても、俺達はまごう事なき兄弟だという強固な楔を、兄は強引に広げ切り離し、新たな楔を打ち込んでくれたのだ。

「ありがとう、あんにゃ」

 兄を見つめ素直に礼を言うと、次の停車駅を知らせるアナウンスが流れてきて、俺は、とりあえず俺の席に行こうと兄を促す。

「んだげんと、席一づすかねだべ?」
「いや、隣さ誰が来るの嫌で2席取ってっから」
「なんだよおめは、やっぱり金もち芸能人でねが」
「違うよ、前さプライベート旅行すてだ時、隣さ座ってる人さバレで面倒になったごどがあっから」

 今はもう、男の格好していれば顔バレなんてことは滅多になくなったけど、知らない人間がすぐ隣に来ることのない気軽さに抗えず、いまだに一人旅をする時はどうしても2席取ってしまう。節約すべきだよなと迷いつつ、今回もそうしておいて良かった。
 デッキから車内に入ると、兄が俺のキャリーバックを荷物棚に入れてくれる。指定席に二人で座ったら、兄が照れくさそうに笑いかけてきて、今までに経験したことのない幸福感がジワジワと胸に広がった。

「あの時もこうすてれば良いっけんだよな」
「あの時って?」
「おめがうず《家》出でった時」

 兄は俺の顔を見つめ、ずっと会えずにいた空白の日々について語り始める。

「あの日、おめにキスされた直後、おらはすぐにおめば追いがげるごどがでぎねがった。
自分の気持ぢには気づいでだんだげんと、あの頃はまだ、兄弟である事越える勇気なんてねえっけがら、追いがげで掴まえて、おめに正直な想い伝えるごどは、美里だげじゃなぐ、親父どお袋裏切るごどになるど思ったんだ」

 それは当然の感情だ。俺だって今日、自分達の想いが家族を壊してしまうのが怖くて兄から逃げようとした。当時の兄が、俺を追いかけられなかったことを悔いる必要なんて全くない。

「そうごうすているうぢに、お袋がおらの様子ば見にきて、慎司の手紙見づげで、親父は農業さ誇りたがいでだがら《誇り持ってたから》慎司の手紙見てカンカンに怒ってすまって、お袋捜索願い出さんなって言っても、ほだなごとすねぐでいい!男がこれだげ大見得切って出でったんだがら、好ぎにすればいいんだって」

 俺の手紙が父に思った通りの効果を上げたことは分かったが、今は、あんな事書くべきじゃなかったと後悔している。

「多分、家族全員、心のどごがで、慎司はまだ高校生なんだがら、きっとすぐに帰ってくるど思ってだんだ。んだげんと、おめはほんてん帰ってごねぐで、二週間経った頃、おらとお袋は親父さ内緒で捜索願いだすに行ったんだ。その時、未成年どはいえ事件性もないす、自分の意思で出て行ってっから中々難すいど思うってはっきり言われで、こうなったら自力でたねる《探す》すかねって、おらは少すでも時間見づげだら、東京や新宿さ行っておめばたね始めだ《探し始めた》。
バカだべ?ちゃんとすたあでもねげんどさ。親父は見て見ぬふりすてぐれでだんだげんと、ほだなこどすてるうぢに、美里には、毎日毎日慎司慎司っていい加減にすて!って振られで」
「ごめん…」

 思わず謝ると、兄は首を横に振る。

「いや、慎司は悪ぐねよ、ただの自己満足だったんだ。当時は農協さ就職すたばがりで、その合間にうぢの農家の手伝いもすでだがら、ほだな頻繁に東京さ行げでだわげでねげど、1、2年、ほだな闇雲なごどすてだ。
でもある日同僚と飲んでる時おめのごど話すたら、探偵さ頼めばいいべって言われで、なんで今まで思いつがねがったんだって思ったよ。んだげんど、探偵さ依頼すんべとすた矢先、たまたま仕事帰りに寄った深夜のラーメン屋で、テレビの中さ映る慎司見づけだんだ」

 兄が見たのは、まだテレビに出て間もない頃の俺だろうか?話を聞きながら、俺は家出した当時のことを思い出す。
 東京に出てきて、とにかく住む場所を探さなくてはと思った俺は、寮のあるゲイ風俗で働きだした。自分自身、女に欲情できないことはわかっていたし、兄と結ばれることは絶対ないと諦めていたから、もう顔も覚えていない見ず知らずの男に体を売り、それが俺の初体験になった。

 山形にいた頃は、ゲイの人間なんてこの世に存在しないんじゃないかと思っていたけど、そこには俺と同じ性的趣向を持つ人間が沢山いて、中には妻や子どももいながら俺を抱きにくるお客さんもいて、仕事は大変だったけど、自分を偽り田舎にいた時よりも気持ちはずっと楽だった。 
 若かったからか、あっという間に売れっ子になり、2年くらいでかなりの額のお金が貯まった俺は一人暮らしを始め、仕事も風俗から女装バーに変えた。風俗で俺に目をかけてくれていたお客さんが、自分が通っている女装バーに口利きをしてくれたのだ。

 今考えてみれば、俺はすごく運が良かったのだと思う。俺は知らなかったのだが、その女装バーは、テレビに取材される有名な女装バーだった。そこのママに、あんたは美人生意気キャラでいくわよ!と決められ、取材に来たテレビの深夜番組で、綺麗すぎるオネエがいると持ち上げられた。
 店の宣伝になるからと、ワイドショーで密着取材までされて、そこでまた、女装前の男の子の時はイケメン!と大げさに囃し立てられ、女子高生や若い子達に人気が出た。
 あの頃の俺は、店に紹介してくれたお客さんや、ポッと出の俺を雇ってくれたママの顔を潰さないように、周りが求めるキャラクターを演じるのにとにかく必死だったのを覚えている。 

「びっくりすたよね、家出すた弟女装すてテレビなんか出でだら」

 俺がそう言うと、兄は素直に頷く。

「うん、でも、テレビに映るおめは、ほんてん、誰よりも綺麗でキラキラすて見えだよ。
おめ小せえ頃女の子の格好するの好きだったべ?んだがら、ああ、慎司は、自分がやりでえ事叶えに行っただげなんだがら、おらが探して無理矢理連れ戻す必要なんてねえっけんだって、そごでようやぐ、自分の気持ち納得さしぇる事でぎだんだ」

 兄はこんな風に言ってくれているけど、父と母はきっと、急にテレビに出始めた俺を見て卒倒しただろう。近所の人や親戚たちにも、白い目で見られていたかもしれない。あの頃はまだTwitterは世間に浸透しておらず、2chが全盛で、どんなに隠していても、有名になればなるだけ、家族の情報や出身校、中学の卒業写真まで晒されてしまう。
 もちろん、女装バーで働く前、売り専にいた過去のことも…。

「おらが出るようになってがら、いやがらしぇされだりすねがったが?」

 思わず尋ねると、兄は言い淀むように、あー、どうだったかなあととぼけてみせる。

『縛りはきつくなるけど、事務所には入った方がいいわよ。自分の身を守るためはもちろん、ネットの書き込みを止めるのは無理でも、家族取材NGにしたり、ある程度プライバシー守れると思う』

 サリーさんのアドバイスで、俺に興味を持ってくれた芸能事務所に入ったが、勝手に動く一般の人の行動を抑えることなどできるはずもない。真理さんの話を聞いた時、何つう女と結婚してるんだよと思ったが、俺は真理さんをどうこう言えるような人間ではないのだ。

「慎司?」
「え?」
「まだ余計な事考えてただべ」

 図星をさされつい目をそらすと、兄は俺の手を恋人繋ぎのように握り、指を絡ませてくる。

「もう、おめのごど離す気ねがら、おがすなごど考えねで、ちゃんと話す聞いで」

 俺だって、こんな幸福を知ってしまったら、どんなに罪悪感があろうと、兄を手放すなんてもうできない。

「うん」

 顔をあげ頷くと、兄は優しく微笑み話の続きを語り出した。

「おらはそれがら、おめのごど忘れるだめに仕事さ打ぢ込んだ。土日はうずの農家手伝って、農作業すてる時は無心になれっから。
親父もお袋も、おめの事は触れねがったす、そうやって少すずづ年月重ねで、ようやぐ気持ぢが落ぢ着いでぎだどぎに、真理と真由さ出会って結婚すた」

 そこからは、昨日聞いたのである程度は分かっている。ただ俺は、どうしても確かめたいことがあった。

「あのさ、真由ぢゃん今日、まこっちゃんは慎司さんのごど好ぎだったがらねって言ってだんだげんど、あんにゃ真由ぢゃんに何が言った?」

 すると兄は、あー、それなと言って気まずそうに笑う。

「おらど真理ど真由は結婚すて2、3年ぐれは、農協がある山形のアパートで暮らすてだんだげんど、真由がすごいテレビっ子だったんだよ。真理は結婚すてもスナックやめねぐて、おらのその時の部署は残業少ねえっけがら、真由と二人だげで夕飯食うこと多ぐなって、そすたらさ、真由と一緒さ見でだテレビさ、久すぶりでまだおめが映ってだんだ」

 真由ちゃんも見るような夕飯時の番組に出ていたという事は、多分、芸能界をやめる前、最初で最後の写真集のプロモーションをしていた時だろう。
 思えば事務所もよく、オネエである事以外特に際立った素質もない俺を、6年近くもたせてくれたと思う。俺は運が良かっただけで、中学生の頃に見て憧れた女装タレントたちのような、才能も根性もなかったのだ。

「真由は何にも知んねがら、この人男なんだって、綺麗だよねって普通さ言ってぎで
でもおらはその時おめが、笑ってるけど辛そうに見えだんだ。それがらすごだまおめのこと心配になって、おらはおめがテレビ出るものは全部調べて録画すて、雑誌とかグラビアどが、くまねぐチェックするようになった」

 人気も注目度も下がっていく一方だった俺を、身内なのに、まるでファンのように追い始めた兄に、俺はつい笑ってしまう。

「兄弟なんだがら、ほだな心配になったなら、兄だって言って、お袋みだいに事務所さ直接連絡ぐれればよいっけんど《良かったのに》」
「それはできねがった。おらは真理ど結婚すて、真由でいう娘がでぎで、それなのにおめに会ったりすたら、おらは二人ば裏切ってすまうがもすれねって#おっかねえっけんだ《怖かったんだ》。
んだげんとさ、おらが慎司の出る番組やら雑誌やらチェックすてるの、そのうぢ真理も気づいて、おめ何突然オネエタレントさハマってるの?って聞いでぎで、実は弟なんだって打ち明けたら、真理は、全然似でなーい!って笑って受け止めでくれだんだげんど、真由はさ、真理がいね時おめが出でる番組見でだら、まこっちゃんこの人のごど好きなの?って聞いでぎだんだ。それでおら、上手えごど言い訳できねぐで、うんで返事すてすまって」

 兄の話に、真由ちゃんの今までの言動はそういうことだったのかと納得する。

「なるほどね、まあんだげんと、恋愛感情どがはわがってねだべ」
「いや、多分わがってるど思う。真由は勘がいいす大人びでっから、キスどがすてえ好ぎ?って聞いてぎだんだ」
「ええ!」

 今から5.6年前といえば、真由ちゃんはまだ小2か小3くらいの筈だ。

「それで、あんにゃ何て答えだの?」
「うんで答えだ」

 兄が嘘をつくのが苦手なのは知っているが、さすがにそれは、小学生の女の子に言っていいのか?と心配になる。男なのはもちろん、真由ちゃんにとって、俺と兄は兄弟という認識なわけで…。

「真由ちゃん、引いでねがった?」
「いや、全然。おがぢゃんには内緒にすといでけるねどは言ってだんだげんと、子供だがらあまり固定観念がねのがもすれね。あど、もすかすたら逆さ安心すたのがもな」
「安心?」
「真由、男なんて大嫌いだって言ってただべ」
「うん」

『絶対ねす!おら男なんて大嫌いだす』

  あの時の真由ちゃんの激しい拒絶っぷりは、俺も印象深く覚えている。

「実は、おらと真由結婚する前、真由は真理の彼氏の一人さいたずらされそうになったんだ。
たまだま真理わらわら《早く》帰ってぎで追い出しぇだがら良いっけんだげんと、危ねどごろだったらすい」  

 兄の話を聞いて、俺は胸糞が悪くなった。兄に出会う前の真由ちゃんは、まだ小学生になったばかりか幼稚園生くらいで、そんな子におかしな気を持つ男の気が知れない。

「真理は絶対大丈夫だと信頼すて真由どおら二人ぎりにすてだんだど思うんだげんと、内心おっかねえっけんでねがな《怖かったんじゃないかな》。
んだげんと、おらの話聞いて、おらがほだな目で見るのは慎司だげだって気づいだんだって」

 それはいいことなのか?と疑問を持ちつつ、真由ちゃんの安心材料になったのなら、ある意味良かったのかも知れない。

「あ、でも兄弟だけど血繋がってねごどは言ったよ。正直おらにどっては、兄弟なんだって罪悪感の方がすこだま大ぎぐで、男同士ってごどはあまり気にすてねえっけがら」
「え?なんで?」
「うーん、なんていうか、おらにとって慎司は慎司だがねえっけんだよね《慎司でしかないんだよね》。おめが生まれだ時がら、とにかくおらは慎司がめんごいぐでたまらねぐて《可愛くてたまらなくて》、大好きで、おらが大事さ守ってやりだぐで、それは家族なんだがら当たり前の感情で、おがすいごどだなんて全ぐ思ってねえっけ。
おめ触れでえなあとが、おめと一緒にいでやりでえなあって感情、おかすいのがもすれねってわがったのは、美里どつき合い出すてからだったんだ。美里にするみでえに、おめに触りながらキスすてえなってふと思った時、ああ、おらの慎司さ対する感情はそうだったのがって気づいだ」

 俺は、兄が自分の気持ちに気づいたきっかけが、美里さんという彼女ができてからであることを知り驚いた。

「んだげんと、あの頃はおめまだ中学生だったす、自分一瞬でもほだな事思ったのショックだった。んだがらおらは、ほだな感情は無えっけごどにすて、兄弟とすて、家族とすて、これからも慎司大事にすんべって決めてだんだ」
「おらも、自分のあんにゃさ対する感情がおかすいって気づいたの、あんにゃさ彼女がでぎだ時だよ。あんにゃの彼女が羨ますくて、すこだま辛えっけ」

 自慰をしていた事はさすがに言えない。
 でも、あの時から、兄も俺と同じ感情を持ってくれていた事が嬉しかった。

気づいでけれなぐて《気づいてやれなくて》ごめんな。おらに彼女がでぎだ時って、おめまだ真由と同じ中2だもんな。おらが中学生の時は、まだおめ小学生だったす、全然ほだな悩みねえっけんだげんと、中学生でその感情さ気づくのは辛えっけよな」

 優しく頭をなでられて、俺は兄が愛しくてたまらなくなる。互いに対する長年の想いを知った今、片思いだった頃の妄想など遥かに超えた焦燥感で、二人きりになれる場所へ行って、このまま抱かれたいと願ってしまう。 
 会話が途切れじっと見つめあっていたら、兄の顔がゆっくりと近づいてきて、その意図を察した俺は、黙って瞳を閉じる。
 だけど、兄と俺の唇がほんの少し触れ合った次の瞬間、突然兄の携帯が鳴り響き、俺たちは慌てて顔を離した。見ると、兄の携帯の液晶画面には、母と大きく表示されている。

「やばい、忘れでだ」

 兄の言葉に、俺は苦笑いして頷く。
 俺の嘘を信じて送りだしてくれたのに、それきり連絡が全くなかったら、母が心配してかけてくるのは当たり前だ。

「こごでがげぢゃダメだがら、とりあえずデッキ行こう」

 俺と兄は新幹線のデッキへ向かい、一旦切れてしまった通話を再び母につなげる。

「あ、もすもす、おがぢゃんごめん、うん、実は間違えで慎司ど一緒さ新幹線乗ってすまって」

 そんな言い訳通用するのかと心配していたら、案の定母に呆れらているようで、兄は困ったように返事をしている。

「うん、うん、大丈夫、ちゃんと帰るから、うん、それはおらがやるす、うん、え?慎司?うん…」

 兄は気乗りしない顔をしながらも、自分の携帯を俺に渡してくる。

「もしもし」
「慎司?全ぐ誠は何やてんだがよね?ラインすだのに全然返事返ってごねがら心配すたんだけんと、まさか間違えで慎司と新幹線乗ってるどは思わねがったわよ。おめの店は大丈夫そう?」

 両思いになれた夢見心地気分が、母の声を聞いて一気に現実に引き戻されてしまったけど、だからといってもう、兄を諦めようとは思わなかった。心の中で謝りながら、俺は母の気遣いに感謝し返事をする。

「うん、大丈夫、多分何とがなるど思う」
「だったら良いっけ、誠、帰りも違う新幹線乗っちゃいそうで心配だがら、ちゃんと慎司教えでけでね、次の駅どご?」

 そういえば、兄と話すことに夢中で、今どの辺まで来ているのか全く把握していなかった。窓に映る景色はもうすでに暗く、山形からだいぶ離れてしまっていることはわかる。

「あー、ちょっと車内アナウンス聞がねどわがんねや。でも今は携帯で調べればわがっから、ちゃんとあんにゃのごど帰すよ」
「どうもね、え?ああ、いいわよ、慎司、真由ちゃんがおめと話すてえっって」

 急によくわからない相槌を打ち出したと思ったら、どうやら真由ちゃんと話していたらしい。

「慎司さん?」

 電話口の相手が、聞き慣れた母の声から、まだ少女のあどけなさが色濃く残る、瑞々しい女の子の声に変わる。その声を聞いた途端、俺は昨日と同じように、過去から現代にタイムスリップしたような感覚を抱いた。
 真由ちゃんの存在は、時に雁字搦めになってしまいそうな家族という鎖を簡単に解いて、新たに繋げてしまう不思議な軽やかさがある。

「まこっちゃんがら全部聞いだが?」
「うん、全部聞いだよ」
「良いっけ、慎司さん、まこっちゃんのごどよろすくお願いすます」
「了解だ、ありがとう」

 この子はきっと、俺が同じ年齢だった時よりもずっと鋭くて、優しくて、周りの大人をよく見ている。そして、ある意味ぶっ飛んだ真理さんに育てられていたからか、固定観念や偏見がない。
 むしろ、恐い経験をした過去から、男女の恋愛に嫌悪感を抱いてしまっているのかもしれないと思うと、やるせない気持ちにもなるが、家族の中に、一人でも俺と兄の関係をそのまま受け入れてくれる子がいると思うと心強かった。

「あ、まこっちゃんにかわってもらえますか」

 真由ちゃんに言われ兄に携帯を渡すと、兄は真由かと最初は父親らしく話していたが、次第に声を荒げ動揺し始める。

「何言ってんだよ、大人からがうんでね!今日帰っから、はい、じゃあな」

 怒ったような口ぶりのまま電話が終わり、俺は兄に尋ねた。

「どうすたの?」
「時間稼ぎすてだんだげどごめんって。おがちゃんが電話すねように色々すてだらすい。東京さ泊まってぎでいいよどが言ってぎだ」

 真由ちゃんてどこまで大人びてるんだと笑ってしまったけど、兄の口ぶりで、それはできないことがはっきりとわかって、少しだけ残念に思う。

「あいづにもっと田んぼのごど任しぇられればいいげんども、まだ種籾の様子見で、酸素や水どりがえだり細げえごどはでぎねがらな、お袋も最近腰悪くなってぎでるす」

 東京と山形は、やっぱり距離が遠すぎる。
 でも、そんなことわかった上で、俺は兄の手をとったのだ。

「次の駅で降りで、山形行きにうまぐ乗れるどいいんだげど」

 俺が携帯で停車駅や新幹線の時刻表を調べようとすると、兄が俺の携帯を持つ手を掴んできた。

「慎司、おがぢゃんの声聞いで、やっぱり兄弟のままでいようどが思っってねが?」

 心配そうに俺を見つめてくる兄に、俺は首を横に振り応える。

「もう、今更無理だよ。おらはどっくの昔から、あんにゃのこと男どすてすか見れでねす」
「あーくそ、離れだぐねす、やっぱり東京さ帰すたぐね」

 そう言いながら抱きしめられて、強がっていた心が崩れそうになってしまう。
 俺だって同じ気持ちだ。だけど今は、兄も俺を好きなのだという夢のような幸福を胸に、互いの家に帰っていくしかない。

「慎司、おらだライン交換すてなぐねが?」
「あ、そうだ、やっとくべ」

 兄のアイコンは、澄み渡るようなを空の下、多分うちの田んぼであろう、稲が豊かに実っている写真だった。

「綺麗だな」

 何がと聞かれたので、ラインのアイコンを指差すと、兄は嬉しそうに笑った。

「そうだ慎司、これがらは里帰り沢山来でけろ。8月はこの写真の時期よりは早えげんども、丁度稲の穂出でぎで小せえ米の花咲ぎ始める時期だす。おめこの花めんごいって好ぎだったろ?」
「うん、すごだま好ぎだった。久すぶりにあの花みでえな」

 兄の話を聞き、俺は懐かしい気持ちでいっぱいになる。大好きな兄と一緒に父に連れられていく田んぼで、地道な農作業をしながら、育っていく稲を見守っていた幸せな日々。 

「なあ慎司、これがら忙すい時期さ入って、おらからは中々会いに行げねぐで、遠距離になってすまうげど、ラインや電話沢山すっから、ちゃんと恋人どすて、これがらおらと付ぎあってくれるが?」

 改めて言われた、まるで中高生が恋愛を始めるような兄からの告白に、俺は擽ったいような、失った青春を取り戻していくような、小っ恥ずかしい気持ちになる。でもあんにゃとなら、こんな甘酸っぱい感じも新鮮でいい。

「うん、まだ必ず来るす、これがらは恋人どすて、よろすくお願いします」

 そう返事をすると、兄は嬉しそうにガッツポーズをして、再び俺の体を抱きしめてくる。 
 山形から新幹線が出る直前、俺は絶望的な気持ちで兄に手を振った。でももう今は、離れることが寂しくはあるけど怖くはない。兄と恋人になれたのだという、圧倒的な幸福感に包まれながら、俺と兄は、周りに人がいないのを確認しながらキスをする。もうすぐ兄は降りてしまうから、止まらなくなってしまわないように、触れるだけの優しいキス。

「あーくそ、やっぱり、離れたぐねえなあ」
「おらもだよ、でも、またすぐくるから」
「本当に?約束だぞ」
「うん」

 次の駅に到着するまでの間、俺たちは別れを惜しむように身体を寄せ合い、またすぐ会えると互いに言い聞かせ笑いあった。


「はーん、そうですか」
「何ですかそれ、ミサさん繁忙期の4月の土日に店休んで田舎帰るなんて仕事舐めてるなと思ったら、一人だけそんな青臭いことしちゃってたんですか?」  

 自分たちから聞いてきたくせに、サリーさんには面白くないわとでもいうような顔をされ、同じ事務所で元オネエタレント仲間だった後輩のアンナには、経営者としての姿勢を注意され、俺は、つい酔って、事の顛末を軽々しく応えた自分を後悔する。

 今日は、ニューハーフバーを経営しながら、YouTubeチャンネルでも精力的に発信しているアンナに、二丁目の今を語り合う飲み会動画を生配信するから出て欲しいと言われ、俺とサリーさんはゲストとして出演した。
 配信後、せっかく久々に3人集まったんだからもう少し話そうと飲み会を続けていたのだが、そこで二人にボロクソに言われているという、不条理な状態なのだ。

「大体ミサさんて、元芸能人のくせにインスタもYouTubeもやろうとしないし、それってどうなのかな?て思っちゃいますよね、私は。まあアパート収入もありますし、3流タレントだった私と違って稼ぎも凄かったでしょうし、そんな必死にお店やらなくても大丈夫なんでしょうけど」
「ちょっとアンナ、噛み付くのやめなさいよ。この子間違えて男の体で生まれてきちゃったけど、中身はふっつーの田舎の女の子なのよ。ほら、ちょっと見てくれ良くて、タレント目指して上京したけど、諦めて田舎に帰ってソコソコのイケメンと結婚して、ソコソコ幸せな人生を歩んでいく女。そういう子、芸能界に沢山いるじゃない」
「サリーさんも庇ってくれてるんだかなんだかわからないんですけど!大体私だって店適当にやってるわけじゃないですからね!しっかり貯金して…」
「そう、この子農家で育ったから無駄遣い本当にしないのよね。コツコツ貯めて農閑期の冬に備えるっていうのかしら、そういうのが体に染み付いちゃってるんでしょうね」
「女装してるとどう見ても派手なキャバ嬢かホステスなのに、見た目とのギャップえぐいですよね」

 普段から優しい言葉をかけてくれる人たちではないのは嫌と言うほど分かっているが、二人のあまりの言いたい放題っぷりに、俺は反論を諦めため息をつく。

「でもそれじゃあミサさんが話してた医者のセフレの話はなんだったんですか?」
「あれは私から話したんじゃないでしょ!サリーさんが変な言い方するから」
「仕方ないでしょ?ああいう話した方がなんだかんだで再生回数伸びるし盛り上がるのよ。アンナのためにも、私も心を鬼にするしかないじゃない?」
「だったらサリーさん自分のことネタにしてくださいよ!私に敢えて桐島の話ふることないでしょ!」
「その桐島って私も興味ある!サリーさん紹介してくださいよ」
「ああ、あの男ニューハーフはダメなのよ、細身でも男の体じゃないと興奮しないの」

 アンナがガックリと肩を落としたので、桐島は顔と体がいいだけで、中身は相当変人だからどちらにしろやめた方がいいと言ってやる。

「そしたらあの男紹介してやりなさいよ!ほら、あんたの店でバーテンダーやってる正樹!アンナ前にタイプだって言ってたじゃない」
「あいつはバイで遊びまくってたけど、彼女の一人が妊娠したからって今度結婚しますよ、サリーさんも知ってるでしょ」
「なんで期待させるようなこと言って突き落とすんですか!!」
「ごめん、とりあえず誰かしら適当に勧めときゃいいかと思って」
「はあもう!ミサさんはともかく、なんでサリーさんみたいなのに男いて私にいないんだよ!」
「失礼ね!あんたの場合男見る目ないだけでしょ。ちょっと褒められるとホイホイお金出して貢ぐから碌でもない男に利用されるだけされて、普通の女にとられるのよ」
「酷い!!」

 ヒートアップしていく二人を見ながら、空になったグラスにウイスキーを注いでいると、突然サリーさんが自分に話を振ってくる。

「でもさ、あんたのお兄ちゃんて今時珍しいくらい純朴でまっすぐな男じゃない?今までの男とは全然違うんだから、あんたもお兄ちゃんと覚悟して付き合うことにしたんなら、これからのこと真剣に考えた方がいいわよ。
お兄ちゃんとはずっと遠距離で付き合っていくつもりなわけ?店もこのまま続けていくのか、しっかり考えて決断しなきゃ」

 先程まで下衆に盛り上がっていたとは思えないほど真剣な口調でサリーさんに問われ、俺は返事に窮してしまう。
 俺のお店は、バイトの店子二人と、バーテンダーの正樹と自分だけで回している小さなお店だ。美味しいお酒とつまみを食べながら、直接お客様にメイクや洋服を選んで女装を楽しんでもらうという、アットホームな雰囲気が売りで、開店当初は元々俺のファンだった男性から女性まで、口コミのみでお客さんが途絶えることはなかった。だけど最近は、インスタやTwitterを駆使した、若い子達に人気の女装バーにおされぎみになり、客足も鈍くなってきている。

 店の売り上げをあげるために、自分も何かしなければと思いながらも、昔あることないこと晒された経験から(あることの方が多かったけど)ネットへの苦手意識が抜けず。そこにきて、開店当初から一緒にやってきた正樹が、今年いっぱいでうちを辞め、地元に帰って独立したいと突然言ってきたのだ。

『いや、俺もまだまだ先のつもりだったんだけどさ』

 正樹は事務所の同期で、年齢も近かったからかなぜだか気が合い、正樹が俳優を辞めた時期と自分の店を出す時期が重なり今まで一緒にやってきた。
 細身の色男で正直タイプではなかったし、仕事上のパートナーと関係を持つと後々面倒なので、肌を合わせたことはなかったけど、バイで遊びまくっていたくせに、まんまと自分だけ普通の幸せを手に入れようとする正樹に、恨めしさと、置いていかれる寂しさを感じたのも確かで

 自分は一生、誰かと結婚し家庭をもつという、所謂普通の幸せを手に入れるのは無理だろう。それでも、この人といられでば幸せだと思えるような恋人もいない。人生の目標があるわけでもない。
 自分はこの先どう生きていきたいのか、一人でこの店を続けていく覚悟が本当にあるのか。母から父の三回忌に来いと連絡があったのは、そんな時だった。あの時はまさか、あんにゃと恋人になれる未来が待っているなんて、思ってもいなかったけど…

「なになに?ミサさんお店たたんで田舎に帰ってお兄ちゃんと農業やるの?そしたらYouTubeで撮らせてくださいよ、元カリスマ美人オネエタレント、お兄ちゃんと農業始める!みたいな」
「絶対やめてよ、これ以上家族に迷惑かけたくないし、あんにゃまでおかしな目で見られたら申し訳ないんだから!」

 俺の悩みを面白がるようなアンナに、つい食ってかかると、アンナは冗談よと言いながら、でもねーと言葉を続ける。

「こっち住んでると、私達みたいなの別に普通だしって感じだけど、田舎帰るとキッツいわよね。男同士な上に兄弟までくっついてきちゃうと、血は繋がってなくても、ご近所や親の目は厳しいでしょうし。私、何があろうと絶対田舎帰りたくないもん、特に私は九州だったからさ、九州男児がオネエって、そりゃもう親や親戚のあたり地獄よ」
「東北の方がまだいいのかしら?」
「さあ?今は昔よりは認められてきてるとは思うけど、でもどちらにしろめちゃくちゃ会ってみたい!」
「お兄ちゃん!」

 ちょっと前まで暗くなっていたかと思えば、今度は二人で声を合わせて盛り上がる。

「いいわよね、そんなノンケいる?真っ青な太陽の下、軽トラに乗って迎えに来てくれるマッチョで純朴な優しい男!お前にも稲を見せたい!とか言われてみたいわ!」
「いや、なんか二人ともバカにしてるよね?」
「してないしてない!本気で羨やましがってるの!」

 とその時、マナーモードにしていた携帯が振動していることに気づき画面を見ると、もう深夜でとっくに寝ていると思っていた兄からライン電話がかかってきている。

「ごめん、私ちょっと抜ける」
「何よ、お兄ちゃん?」
「ここで電話しなさいよ」
「また連絡するから」

 ヤイヤイ言ってくる二人を無視して店をでたら、あんにゃからの電話は切れてしまっていて、俺は自宅マンションまで待ちきれず、眠らない街を歩きながら兄に電話する。

「もしもし、あんにゃどうしたの?こだな夜遅ぐに電話ぐれるなんで珍すいね、明日も早えげんど大丈夫?」

 あの日から俺達は、週に何度か電話をし、毎日のようにラインでやりとりをしている。内容は、今日から種まきが始まったとか、苗が育ち始めたとか、田んぼのことが殆どだけど、兄がこんなにまめだとは知らなかったから、高校生同士の付き合いみたいですごく新鮮で嬉しい。

「あのさ」

 でも今日の兄の声は、いつもとす少し違っていた。

「どうすたの?」
「医者の男って誰?」

 兄の言葉に、俺は青ざめる。深夜だし、オネエのYouTubeチャンネルなんて兄が見ることはないと思っていたのに、一体なぜ!

「真由が、なんかこれに慎司さんゲストで出るみだいだよって言って教えでぐれだ。あいづ、昔がらほだなの調べるの得意だがら」
(真由ちゃん!良かれと思ったのかもしれないけど、そんなマニアしか見ないマイナーなチャンネル見なくていいし!)
「あれは昔の話だがら!付き合ってだわげでもねす!」
「んだな、付ぎあってなぐでも、都会の人間同士ってのは、ほだな体の関係あったりするもんなんだよな」

 みるみる落ち込んでいく声に、俺は焦りだす。
 いや、別に都会の人間がみんなそうってわけではないのだが、一回関係を持ったからと結婚を決めた兄からしたら、セフレなんて許せないと思われても仕方がない。

「ごめん、あんにゃがらすたら信ずられねよね。ただ、今は誰どもほだな関係はなぐで」

 言い訳しながらも、やっぱり自分みたいな人間が、浮かれて兄と付き合うべきじゃなかったのだと心は沈んでいく。軽蔑されて振られたとしても文句は言えない。

「んだげんど、もすおらのごど嫌になって恋人じゃなぐなったどすても兄弟ではいでくれる?」
「は?なんで?恋人じゃなぐなるわげねだべ!」

 だが兄は、俺の言葉を強い口調で否定する。

「今はその男ど会ってねんだべ?」
「会ってねよ」
「もう彼氏がでぎだがら会えねでちゃんと言ったが?」
「うん」

 東京に帰ってきた後、桐島から連絡が来た時、恋人ができたからとラインして以来何の返信もない。自分に恋人ができると惚気まくるくせに、人の幸せは聞きたくない身勝手な男なのだ、あの男は。

「だったらいいんだ。ごめん、おら、余裕なぐで」
「ううん、嬉すいよ、あんにゃがほだな風さ思ってぐれでるの。誤解さしぇですまってごめん」
「よす、じゃあこの話すはこれで終わり!ところで慎司8月は予定通りうちこれそうか?」
「うん!あ、ごめん、今家着いたから、ちょっと待ってくれる?」

 俺はオートロックのエントランスからマンションに入り、エレベーターに乗り込む。深夜なので誰に会うこともなく自宅にたどり着いた俺は、再び兄に声をかけた。

「ごめんあんにゃ」
「いや、大丈夫、まだ外だったんだな、忙しい時にごめん」
「全然大丈夫、それより8月…」
「ああ、8月のごどなんだげんと…」

 声が重なり、俺は兄の言葉を待ったけど、なぜか突然言葉を濁しはじめる。

「いや、うん、あのさ…その」
「何?いいよ、何でも言って」

 俺が促すと、兄は決心したように言葉を発した。

「俺がじぇじぇこ《お金》だすからさ、前の日霞城シェントラルのホテル泊まってがらうぢごねが?
おらもその時期忙すいがら、会えるの夜になってすまうんだげど」

 話を聞いているうちに兄の意図が分かり、途端にドキドキしてきた。

「あ、うん、ありがとう。でも、帰りの方があんにゃ楽でね?おら帰るの夕方がら夜ってごどにすて、おらば送るついでにさ、その…」

 こんなこと散々してきて慣れているはずなのに、ずっと好きだった兄が相手だと、心臓が破裂するんじゃないかと思うほど脈打って、体が熱くなってきてしまう。

「そすたら今月中にどっちにするが決めよう、予約はおらがすっから」
「うん、ありがとう」
「何か悪いっけな、こだな時間さ突然がげで」
「ううん、寝る前にあんにゃの声聞げで嬉すいっけ。おやすみなさい」
「おやすみ」

 山形と東京を繋ぐ電話が切れてからも、顔のニヤけが抑えられず、兄との会話の余韻に浸るように、俺は、毎日のように来る兄からのラインの画面を見つめる。

(どうしよう、幸せすぎて怖いよ、あんにゃ…)

 父の三回忌に行くかどうか迷っていたあの日まで、俺は、桐島と愛のないセックスをした後、どうしようもない孤独に気づかないふりをして、天井へと消えていくタバコの煙を眺めていた。だけど今は、タバコを一切吸わなくなり、誰でもいいからと、人肌が恋しい焦燥感にかられることもない。
 すぐ会える場所にいなくても、好きな人が自分を好きでいてくれるだけで、人はこんなにも心が満たされ、強くなれるのだと知った。 

 お店のこと、これからのこと、考えなきゃいけないことはまだまだ沢山ある。
 父や母に対する罪悪感も、決してなくなったわけではない。それでも俺は、兄と結ばれたいという欲望に、もう抗うことはできなかった。

(ごめんね、父さん)

 だからせめて、本当の兄弟として俺達を育て守ってきてくれた父に、心から感謝し続ける。 
 身体の内側から溢れてくるような幸福感に浸りながら、俺は、兄のアイコンに映った青空と、美しい稲穂の花を見つめた。


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