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離婚して自分の人生を生きていく⑧

第八章

裁判所での調停中に、私のように別の調停を起こされた場合、同一の調停委員で2件の調停を同時に実施することになる。前回の調停で、私が申し立てた婚姻費用の調停は終了したのだが、夫婦関係調整の調停の方は継続しているので、毎月同じ4名の『いつメン(調停委員2名と私とソウ)』での調停は、まだ続くことになった。

この頃になると、いつまでこれが続いていくのか不安になっていた。調停に来るためには、新しい職場だろうと平日に有給を使って来るしかない。まだ子どもも保育園児で体調を崩すこともある。あっという間に有給は無くなってしまうのでは、と不安だった。慣れない環境での有給申請に後ろめたさもあり、余裕もなくピリピリしていた。


別居後の子どもの習い事問題

この後の展開で関係して来るので、子どもの習い事関係で起きた出来事について一度書いておきたい。たくさん失敗してしまったので、バカだな〜と思いながら、温かい目で見てもらいたい。

保育園に通っていた子どもは、仲の良い友達と一緒に個人がやっている小さな体操教室に通っていた。平日の夕方に、保育園の後に行っていたので別居前は私より帰りが早かったソウが送迎をしていた。別居してからは、私の仕事の都合で、それができなくなるので、体操教室は一旦辞めさせてもらうことにしようと思っていた。

まず、私は体操教室に通うママさんたちのグループラインに、辞めようと思っていることを報告。先生も入っているグループで、急な開催場所の変更やお休みの連絡などもグループラインで行うことが多かった。今までの感謝と諸事情で送迎が難しくなってしまったことを簡単に伝えた。

すると、なんとそのグループラインにソウのメッセージが入った。これが私の失敗。送迎をしていたソウも、もちろんこのグループラインにいたということが、すっかり抜けていた。しかも最悪なことに、諸事情の部分をソウは長々と綴っていた。自分の都合の悪いことだけは伏せた形で。。。

『妻からのメッセージについて補足します。恥ずかしながら、現在妻とアイが家を出て行ってしまい、妻とも連絡が取れない状態です。ーーー中略ーーー アイが体操教室を楽しんでいたので、こんな形で辞めることになるのは納得できません。ご迷惑とは思いましたが、妻に連絡を取る手段が他になく、こちらからメッセージさせてもらいました。失礼しました』

その体操教室に通っていた保護者15名ほどに、このメッセージは公開された。別居していることをひた隠しにしたい訳ではないけど、私は自分やアイが好奇の目にさらされることが怖かった。別居した理由なんかもプライベートなことで他人には関係がないと思っていたし、自分からいろんな人に話したいとも思わなかったし、そのエネルギーも無かった。本当に自分の意図しないタイミングでやらかしてくれたな、とこの時は本気でソウを恨んだ。

そのメッセージ後、心配の気持ちなのか単なる好奇心なのか、何人も私に何があったのか、と聞いてくる人たちもいたが「まぁ、いろいろありまして〜」と濁して私からは詳細を話すことはしなかった。みんな人の話は聞きたがるが、自分の話はしたがらない。私が自分の話をしてこの人の意見を聞いてみたいと思う人が居なかったし、正直傷つくのが怖かった。

その中で一緒に通っていた子どもの友達のママ友Sさんが、アイを体操教室に送り届けるから辞めないで続けないかと言ってくれた。Sさんは離婚経験があり、面倒見が良いタイプ。体操教室の先生の奥さんだった。私にとっては、保育園のママさんの中でも気心の知れていた間柄だと感じていたのだが、別居前はソウも含めて仲良くさせてもらっていたので、別居後は気まずさと忙しさで、Sさん家族とは自分から距離を置いて接していた。

そんな中での申し出に、子どもも辞めたくないと言っていたので、迷いはあったが有り難く受け入れることにした。メッセージのことについては、なんとなく事情はわかったけど、あれはルール違反だよね、ビックリしたよ、と笑ってくれたのは救いだった。時間の経過とともに、私たち夫婦のことは暗黙の了解っぽくなり、生暖かい目で見守られながら、日々やり過ごしていた。

別居して数ヶ月程度経った頃、その体操教室にお手伝いという形でソウが関わり始めたということを体操教室の先生から聞かされた。まだ、面会交流について何も決まっていない頃の話だった。

例のグループラインでの暴露報告の後から、体操教室の先生とソウが個人的にやり取りをした後に決まった話らしい。

「あんなふうに、奥さんと子どもさんに迷惑をかけるのは良くないって、しっかり伝えましたからね!アイちゃん、お父さんと会ってすごく嬉しそうでしたよ。お母さんが迎えに来る前には、帰ってもらうことにしますので。」

体操教室の先生は、一体ソウからどんな話を聞いて、どういう経緯でこういうことをしたんだろうか。そんなことをゆっくり問い詰めたり、怒ったりする余裕もなく、勝手に恨んで、勝手に諦める、精神的にもかなり具合が悪い。子どもの体操教室を辞めさせたら、私が悪い親って思われるんじゃないか、結局私は自分がどう思われるかばかり考えてるとか、自分を責めたり、人を恨んだり、どうしたいのか、どうすべきかわからないまま、流されるままに体操教室はそのまま続けていた。ここで、子どもや周りからどう思われようと、辞めればよかった、というのも私の失敗だ。

色んな人がいて、色んなことをしてくれるけど、情に厚くて面倒見が良くて、自分のしていることが絶対に良いことだと信じて疑わない人がたまにいる。今回もきっとソウの話を聞いて、自分に何かできないか、こうしたらハッピーなんじゃないかって考えての行動だったのかもしれない。

でも私は言いたい。対立し合う双方がいる場合に、片方だけの話を聞いて、物事を進めるのは大迷惑。さらに言えば、その人が本音を話しているかなんて、誰にもわからない。人間は自分に都合の悪いことは嘘をつかないまでも言わないことは多々ある。それを個人の解釈やおせっかいで首を突っ込むことはやめてほしい。善意だと思っている行動が、必ずしもみんなにとってハッピーかはわからない。良かれと思って、が裏目に出ることはよくあることだし、正義という名のもとに戦争が行われているのと同じことだ。

この頃、私はSさんに「離婚は考えていないの?」と聞かれることがあった。私はその問いに対しては、赤の他人を巻き込みたくないという気持ちから「どうですかね〜、今はまだ離婚はしないかも」と濁していた。彼女はそれを「離婚するつもりはない」と捉えたらしく、そのことをソウに伝えていたらしい。

私は伝えてほしいとも言ってないし、他人を巻き込むことに抵抗があったので、本音を話してもな〜と軽く考えていた。この時はっきりとSさんに、その件については調停してるので話したくない、と言えなかったことが、私の失敗だ。

そういうわけで、面会交流についての詳細は決まっていないが、ソウと子どもは週に1回体操教室で会っている、という状態になっていた。

調停6回目

さて、前回どのように子どもの面会交流を実施していくか、という話になっていた。ソウと直接連絡を取らずに面会交流ができる方法はないかと思い、情報収集をしていた中で、面会交流支援団体(親子交流支援団体)というものがあった。

親子交流支援団体は、例えば・・・
・父母間の連絡調整:具体的な日時や場所等を決めるための連絡を代わりに行う
・子の受渡し支援
:子どもの受渡しを代わりに行う
・見守り支援
:親子交流の場に付き添い、親子交流を見守る
など様々な支援を行っている民間の団体です。

法務省パンフレット

世の中には私たちのように連絡がうまくいかない人たちがいて、そのために子どもと別居親の関係が悪くなくても面会交流ができないケースがある。そういう親子のために、面会交流をサポートしてくれる団体が全国にあるそうだ。まさに私の求めていた団体である。

初めに調停委員に話を聞かれたのはソウの方からだった。いつもの如く長い。
40分以上経った後に、ようやく私が呼ばれた。

最初に調停委員からは、婚姻費用の一部月に2万円は支払われているか確認された。「はい、支払われています」「そうですか、それは良かったです」
いや、当たり前なのでは?と思ったが、特に口に出さず飲み込んだ。

さらに調停委員との話は続く。「今、お子さんは体操教室に通われているということですが、ソウさんもそこに行ってるんですか?」
「はい、別居後におそらく子どもに会いたさで、手伝っているようです。子どもが体操教室を気に入っているので、悩みましたが辞めていません」
「では今は週に1回、お子さんに会っているということですね」

調停委員から聞かれることで、ソウからの話の確認作業をしているんだろうと思う。嘘をついていないかどうか事実を確認しているんだろうなと私は思う。調停は裁判と違って、裏付けの証拠を必ず出さなくてはならない、ということはなく、また嘘の証言をしたとしても、基本的に罰せられることはない。あくまでお互いの話し合いを調停委員が中立の立場でサポートするという場である。

「面会交流についての話なんだけど、ソウさんは既にお子さんに会っているということですよね。お子さんの様子はいかがですか?」
「様子というと?元気かってことですか?」
「お父さんに会って、楽しいとか怖いとか、何か言ってますか?」
「パパいたよ、くらいでした。子どもにパパと何かあったかなどは、こちらからは聞き出すことはしていませんが、した方が良いでしょうか。何かあれば言ってくるかなと思っているのですが」
「そうですか、わかりました。ユイさんは面会交流についてでも、今の状況についてでも何かお話はありますか?」

面会交流については、面会交流支援団体を使いたいこと。今の現状については、習い事は『面会交流』ではないのでやめてもらいたい事を伝えた。私は本当に口で物事を伝えることが苦手なので、言われたことに対して答えることしかできない。そのため、話したいこと自分の気持ちも色々あるはずなのだが、シンプルに2点についてのみしか伝えることしかできなかった。

「ソウさんには伝えるのですが、毎週お子さんに会っているのでなかなかわかっていただけるかは分かりません。お子さんと体操教室で活動することが、ソウさんにとって大切な事のようになっているというお話ぶりでした。面会交流支援団体についてもお伝えしてみます」

面会交流支援団体についてと体操教室の件を伝えてもらったが、ソウの返事は両方ともNoだった。「子どもも喜んでいて、自分は体操教室にいた方が良いと思う、というお話だったのと、面会交流支援団体は子どもにとって知らない人が関わることになるから、負担だと思う、とのことでした。ソウさんからの提案としては、今の体操教室の先生を介して子どもを受け渡すのはどうかということでした。現状、それが可能なようですし、ユイさんはいかがですか?」

「今は体操教室に通っているので可能と思っているかもしれないですが、先生もご自身のご都合などもありますし、この先どうなるのか分からないので、私は面会交流支援団体の方が確実に行えると思います。実績のある専門の機関に頼れた方が、安心なので」
「そうですね。裁判所としても、身内でない方に面会交流の協力をしていただくことは、あまり聞いたことがないのですが、ソウさんはその先生のことをかなり信頼している様ですね」

もう一度私の気持ちをソウに伝えてもらったが、やはり答えはNoだった。話がまとまりそうになく時間だけが過ぎていく状況で、調停委員から提案があった。
「ひとまず、来月に一度、面会交流を実施するために日程だけ決めて、その体操教室の先生を介して行えるかどうかやってみませんか」

早くこの調停を終わらせたい、いつまでこれが続くんだろう、という気持ちから、「分かりました、ひとまずそれで良いです」と言ってしまった。この時に私側もNoと言っていれば、結果は違ったのか、今となってはわからない。私も、おそらく調停委員も、今日はもう終わりにしたい、という気持ちで、ソウの思い通りのやり方を受け入れてやってみることになってしまった。こうやって私はいつもソウや周りのペースに流されていたことが、振り返るとよくわかる。

ソウは体操教室の先生に電話で連絡をとって日程や都合の話をまとめ許可を取ってきた。もしかしたら、事前に打ち合わせていたのではないかと思うくらいスムーズに。

約2週間後に体操教室の先生の家にアイを預け、ソウに受け渡すことになった。次回の調停期日ではその面会交流中のアイの様子や、今後の方向性についてもう一度話すことになる。私は、実際に利用したい面会交流支援団体の資料や情報を集めてくるように調停委員に言われた。完全にソウのペースで今回の調停は終了した。

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