2013年、夏の話その二


そして今日もまた、雑多だけど猥雑さを感じさせない御徒町の駅を歩く。

少し前に比べればいささか熱気を失った、それでも汗ばむには十分な大気に包まれながら、スーツ姿の合間を縫って、歩く。

校了前の焦れた気分のまま、一日を過ごし、明日の昼にはひと段落しそうだと思い安堵する。

帰ったらギターをひこう、帰ったら歌を歌おう、途中の駅で降りて、少し歩いて帰ってシャワーを浴びよう。

それが、いまの僕の人生だ。

明日は土居くんにあって、明後日は出かけて、明々後日は遊びに行く予定だ。

そして、月曜には次に出る雑誌の校正をしなければ。





もともと、約束や決まりごとが苦手なのに、こんな生活を送るようになるなんて夢にも思ってなかった。
もっと人生なんて簡単なもので、楽しい事だけやって生きていくんだと思ってたけど、そうでもないらしい。

そもそも楽しいってなんだろう。

今目の前で笑いあっているカップルは何が楽しいんだろうか。遊びにピンクの花柄ワンピースの彼女は、一体何が楽しいのだろうか。青地の柄シャツを着て、微笑む彼はなにが幸せなのだろうか。

人もまばらな山の手線内で、僕は大音量でたまを聴きながら帰宅している。考えなきゃならないことも、考えたいことも腐る程あるはずなのに、頭が思考することを拒否するから、とりあえず垂れ流すことしかできないわけで、とろりとろりと流れ出すのは言葉なのか、それとも僕自身の魂やらそういったものの残滓なのやらわからなくなってくる。


柔らかい言葉が好きだ。
さらに言えばや行の言葉が好きだ。ゆい、という名前もとても良い。優しさ、とか、ゆっくり、とか宵の明星、とか。ようやく、なんていうのもいい。

や行の言葉にうもれて眠れたらどれだけ幸せだろう。

おやすみ。

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