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歩いている

環七を歩いている。遠くて近い場所に住む人に、どうしても会わなければならないと思って歩いている。
ミニストップで買ったレモンサワーとピザまんを持って、ノタノタと歩いている。
春を通り越したんじゃないか、と錯覚するもたついた空気の中で、ヘッドフォンをして歩いている。
変わらない信号に苛立つこともなく、そのうち青くなるだろう、その時進めばいいやと歩いている。
そういえば自分からあの人に会いに行くのは初めてかもしれないと思いながら、なんとなく歩いている。
週末の深夜、それでも途切れない車の流れを横目に自分の曲を聴きながら歩いている。
我ながら馬鹿だなぁと思いながら、この年になってようやく好きになることのできた自分を愛しながら、自分の声を聞きながら歩いている。
小さい頃、大嫌いだった自分の声を聞きながら。小さい頃大嫌いだった短い足をてくてくとうごかしながら。小さい頃大嫌いだった世界の中をのんびりと歩いている。
そういえば歌い始めた理由はなんだったか、と改めて思いながら、出ない答えを探しながら歩いている。
「そうよあたしは知ってたの、明日世界は終わるんだって」で始まる自分の曲を聴きながら「毎日毎日世界は終わってるんだよ」と返事をしながら歩いている。
いつかの夜に消えてしまったマボロシを追いかけながら、とはいえ歩みを早めることもなく歩いている。
消えてなくなりたいと思った人のことを思いながら、立ち止まってタバコに火をつけて、大きく息を吐き出してまた歩いている。
「僕にはわからないことだらけ いつでも吐き気を堪えてる」と歌う自分の声に「そうだよねぇ」と頷きながら、吐き気を催すための酒を飲んで歩いている。
僕の過剰なセンチメンタルと肥大した自尊心を、笑いながらそばにいてくれるあの人に会うために歩いている。
むしろ寝ていてくれたら、また曲なんか作るんだろうなぁと1人でニヤつきながら歩いている。
傷つきたいんだ、多分一生。
傷ついた自分の作る曲を聴きたいために、自分を追い込んでいるようにも感じる。
ずっと嫌われたくないと思って生きているのに、ふとした時に嫌われたくて仕方なくなる。嫌われてしまった自分を愛していたくて、僕は傷つききった自分の曲を聴きたくて仕方なくて、だからそのために歩いている。
でも、多分本当は愛されたくて仕方ないこともわかって歩いている。
今日、あの子に会えるのかな。会えたら、いいなぁ。気づいたら桜が咲いていた。

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