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株式市場の予言

爆発事故と株価

かつて株式市場がスペースシャトル爆発事故の原因を予言したことがあります。

1986年1月28日午前11時38分
スペースシャトル、チャレンジャー号がフロリダのケープカナベラル(ケネディ宇宙センター)から発射されました。
しかし、73秒後、地表から160Km上昇したところで爆発し、7名の乗組員が死亡しました。

直後、株式市場はチャレンジャー号発射に関わった主要4社の株を投げ売りし始めました。
つまり、この4社が事故の原因である可能性が高いと疑われたんですね。

4社は以下の通り。
ロックウェル・インターナショナル=シャトルとメインエンジンを担当
ロッキード社=地上支援を担当
マーティン・マリエッタ=シャトルの外部燃料タンクを担当
モートン・サイオコール=固形燃料ブースターを担当

事故から21分後、
ロックウェル・インターナショナルの株価は6%下落
ロッキードは5%
マーティン・マリエッタは3%
そして最も下落が激しかったのがモートン・サイオコール社で、取引が停止されるほどでした。

その日のうちに取引が再開されたのですが、その日の終値は前日の高値から12%も下落してしまいました。
対象的に他の3社は持ち直して、下落幅は2%にまでとどめたそうです。

これだけ見ると、事故原因がサイオコールの固形燃料ブースターにありそうですが、事故当日に原因が分かるはずありません。
翌朝のニューヨークタイムズ紙にもサイオコールの責任について言及されていません。

爆発の6カ月後、大統領調査委員会により、ついに原因が判明しました。
結果は株式市場が予測した通り、モートン・サイオコールの製品に問題があったのです!

なぜ株式市場は、原因不明の事故原因を即座に判断し、しかも的中させることができたのでしょうか?


クイズミリオネアの正解率

結論を言うと、株式市場が事故原因を当てた決定的な理由は分かっていません。
ただ、「大衆の意見の平均値が正解に近い可能性がかなり高い」というのは科学的に証明されつつあります。

それは、クイズミリオネアの正解率を見ればわかります。
クイズミリオネアは、みのもんたが司会を務めていた有名なクイズ番組ですよね。
元々はアメリカのクイズ番組で、4択クイズを15問連続正解したら賞金をもらえるシンプルな番組です。

回答者は回答に迷った場合、いくつかの救済措置を得ることができます。
その中の1つが、エキスパートから助言を得る方法。
これはあらかじめ自分が設定した、頭が良さそうな知人に電話して助言をもらうシステムです。
そしてもう一つがオーディエンスから助言を得る方法。
これはスタジオにいる視聴者全員にどれが正解かアンケートを取って回答者に見せるシステムです。

エキスパートとオーディエンスの意見。
二つの正解率を割り出すと、
エキスパート=65%
オーディエンス=91%

つまり知識人とよばれる人たちよりも、スタジオのお客さんたちの方が正解率が高かったんですね。

みんなの意見の罠

時に大衆の意見はものすごく正確で、専門家以上の正解率をたたき出すこともあります。

これ以外にも様々な実験によってこれが証明されています。
大きなビンにジェリービーンズを詰めて何個入っているか当てる実験。
ここでも大勢の答えの平均値が正解に近かった。
雄牛の重量を当てコンテストでの調査も行われました。
ここでもやはり全員の平均値が雄牛の体重に近かった。

しかし、ヒトラーは民主主義によって大衆から選び出された人物です。
日本でも全体主義が戦争に結び付きました。
身近な例をあげると、集団になると迷惑行為を起こすやんちゃなグループがいます。

大衆は時に、暴走して自滅への道を突き進んでしまう場合があるんですね。

結局のところ、大衆の意見は正しいのでしょうか? それとも間違ってるのでしょうか?

正しく導く条件

「みんなの意見は案外正しい」の著者、ジェームス・スロウォッキーは
大衆の意見が正解に近かった場合を分析して、ある答えを出しました。

それは次の2つの条件にマッチした場合、大衆の意見は正しいものになる可能性が高い。
2つの条件とは、

「多様性」
「独立性」

多様性とは、人種や性別などを差別せず色んな人から意見を聞くことですね。
独立性とは、意見を言う個人が独立した人間であるかどうか。
つまり、他人の圧力を受けない環境にいるかどうかですね。

ヒトラーが誕生したころは、第一次大戦後のイギリスによる圧力からの反発力が強かった時期です。
また、ユダヤ人に対する差別意識も強かった。
なので、一部の力を持った集団が大衆の意見に圧力をかけてしまったんですね。

集団で悪さをする不良グループも仲間外れにされたくないというバイアスが働いてます。

逆に株式市場は純粋な利益追求の場であり、一切しがらみはありません。
(上司の知り合いの会社だからと言ってその株を買う証券会社はつぶれてしまいます)
クイズミリオネアのオーディエンスも、回答者が正解しようが不正解だろうが自分たちには関係ありません。
ジェリービーンズの数を当てるのも雄牛の体重当てコンテストも、
イギリス人ならこう答えるべき、なんて圧力はありませんよね。

コロナへの対処をまとめる

大衆の意見はかなりの確率で正確になる。
この現象をうまく利用できれば、新型コロナ「COVID-19」への対処方法も導き出されるのではないかと思います。

新型コロナなどのウイルス感染による問題は、
人権の保護と感染者の拡大を防ぐことです。
長期化した場合は経済活動をどうするのかという問題も発生しますね。

残念ながらこれらは矛盾する場合があります。
感染者の人権を考えると長時間の隔離は不可能ですし、経済活動を優先したら感染者が増えるでしょう。

こういった関係はしばしばトレードオフと呼ばれていますね。
「こちらが立てばあちらが立たないシーソーのような関係です」

コロナ対策で政府が批判されていますが、人権を優先しても感染拡大防止を優先しても叩かれるでしょう。
そのバランスが大事なのですが、なかなか良い答えが出せそうにないですね。

トレードオフが発生している以上、何をしても問題は起こります。
だとしたら、大衆の判断にゆだねるのが一番かもしれません。

原因不明の事故の原因を当てたように、ミリオネアのオーディエンスの正解率が91%だったように、大衆の意見はほぼ的確です。
大衆にはこういった未曽有の事態に正しく対処するポテンシャルがあると思います。

宇宙人が攻めて来たら?

「国民に押し付けるなんて、無責任だ!」
政府が大衆に判断をゆだねるなんて言ったら、当然こういう反応になるでしょうね。

ただ、政府にこのまま任せっきりでいいのでしょうか?
それとも専門家に任せるのが一番でしょうか?
(すでに専門家と政府が結託して取り組んでいるのですが、この状態です)

新型コロナウイルスはいわば未知なる存在です。
ウイルスを生物と表現すると、未知なる生物になります。
なんだか宇宙人のようですね。

そう!
未知なるウイルスの襲来は宇宙人の襲来に似ているのです。
ウイルスの場合はまだ専門家がいます。
しかし、宇宙人には専門家がいませんよね。

こうした場合はどう対処すればいいのでしょうか?
やはり大衆の判断にゆだねるしかないでしょう。
大衆の正解率を見れば、それが一番科学的な選択です。

ただ気を付けないといけないのは、2つの条件ですね。
多様な意見を集めることと、余計なバイアスをかけず独立性を担保すること。
この条件さえ注意すれば、未知との遭遇にも正しい対処ができるでしょう。

参考

みんなの意見は案外正しい ジェームズ・スロウィッキー
普通の人たちを予言者に変える「予測市場」という新戦略 ドナルド・トンプソン

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