What happened

ヒラリー・クリントンの「What happened」を読んだ。ヒラリー・クリントンが大統領選に敗れたことを自ら振り返った本なのだが、Audible版はヒラリー本人が朗読していてそれがすごいということで、気になった。


でも、朗読を長々と聞けるような生活サイクルではないのでKindle版で買ってしまった。


ヒラリーのチャーミングな女性としての側面、母親としての側面を自ら描き、女性が弁護士や政治家であることのパイオニアとしての悩み、バーニー・サンダースと予備選から、炭鉱はなくなる発言、大統領選でのメール事件でのメディアからの執拗な攻撃へと続いた。それが敗因だと断じている。ベンガジ事件についてほとんど言及無し。


そのあとを読んで暗澹たる気持ちになってしまった。トランプ-ロシア-ウィキリークスをシンジケートと断じてその凶悪さをひたすらあげつらい出したのだ。とてつもなく長くページを割いて。


トランプは国を分断することで人気を勝ち取ったと言われている。それは保守の堕落したあり方だと。しかし、リベラルだって結局は同じだったのだ。あれだけインクルージョンの重要性を謳っておきながら、最後にはロシアという敵を設定しなくては自分たちが団結できないのだ。ムスリムに対する差別を正そうとしながら、ロシアからの移民はどうなる。


インクルージョンに境界線がないということはあり得ない。今目の前で銃を突きつけている相手をインクルードできるわけがないからだ。インクルージョンはフィクションだったのだ。


敵がいなければ味方が作れないというのはいかにも浅ましい人間の本性なのだろう。小学校の教室で行われていることと何も変わらない。


それよりも、炭鉱はなくなる発言と、それによる炎上のストーリーの方がヒラリーの敗因を語っているような気がした。炭鉱労働者は本来、民主党支持のはずだ。炭鉱労働者は労組に与しているはずだからである。それが一転共和党支持になってしまった。と、ヒラリー自身も書いている。


カーター時代みたいなインフレスパイラルであれば、労組はパワーを持ち得た。物価上昇を背景にベアアップかストかと迫ることができたからだ。それは、企業間競争が緩やかだったから成立するのだ。高い賃金はそのまま価格に転嫁してしまえばよかったのだ。


もう、労使間対立にそれほど意味はない。設備投資が行われなければ、企業の競争力がなくなり、企業の業績自体が悪化してしまう。企業の業績が悪ければ賃金の原資がなくなってしまう。賃金アップを価格に転嫁するなど考えようもない。


企業にとって外部からの脅威が大きいのであれば、企業内部の経営と労働者の利害は一致してしまう。そうでなければ経営も労働者もどちらも市場から退場するだけだ。


企業間競争によって低賃金地域での生産によってコストを下げるばかりでなく、自動化と機械化によってコストを下げる方向へと向かっていく。その競争は全世界対して全方位的に発生する。


だからトランプの産業保護政策が支持されるのだ。競争が人間を疎外するのであれば、その競争を阻害してしまえばよいのだ。


インクルージョンの精神は産業保護政策とは合わない。その反対だ。トランプのメッセージは一貫している。競争を退けたいのだ。そのためには、何か外部的なものを退けるのだ。


産業保護政策によって競争を避けることができる。でもそれは同時に不自由なものだ。規制社会だからだ。


競争と不自由。どちらがマシな選択肢なのだろうか。どちらも結構な人間疎外だ。アメリカの空気はもう競争なんかくクソくらえということなのだろう。そのためには不自由を積極的に受け入れようと決めたのだ。


もし、産業保護政策進むのであれば競争が阻害されれば企業にとっては外部の脅威が弱まるのでまた、企業内で経営者と労働者の対立関係に帰していくのかも知れない。

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