ホキ美術館、アニメーション、存在意義について考えるとき

最近、デザイナーさんとお話する機会が増え、デザインとは何か?英語のdesignと日本語のデザインの定義にもズレがあるな、などと考えていました。そんな中、たまたま動画で建築家の山梨和彦さんの講演を見て、住宅地の中に不思議に調和するホキ美術館が美しく感じ、千葉県の土気まで行ってきました。

写実絵画専門の美術館、ということで新鮮でした。写実絵画だけをこれだけ続けてみると、一言に「写実」と言っても幅があるし、作家による個性も分かって面白かったです。私が特に良いと思ったのが五味文彦さんという方。(近くにいた方も「やっぱり五味さんだな~」と呟いていた。笑)現実を切り取ったようにリアルに見えて、現実以上にリアル。実際はこんなにくっきり見えていないものを再構築している、超現実的なイメージ。それと、題材によって懐かしさを感じる作品も素敵でした。廣戸絵美さんの「階段」という作品が、学校の階段を思い出させてくれて、懐かしい気持ちになりました。切り取る場面の角度が好きで、ポストカード買いました。懐かしさのもつ安心感、温かさを感じました。

ホキ美術館は、地上1階と地下2階の3フロアで構成されているのですが、建築様式もとても興味深かったです。何と言っても、機能上必要な設備が、見事に美的に昇華されていること。鉄板の壁にマグネットで絵を飾ることですっきりと見えるし、天井の2色のLEDは星屑みたいにきれいでした。そして、地下に自然光を取り込むので、天気によって変わる雰囲気が楽しめます。私が入館した時は曇り空でしたが、だんだん晴れてきて変化を味わえました。しかし、私が一番感動したのは、地下2階の静けさです。現在「私の代表作」というテーマでホキ美術館が作家さんたちに依頼した、100号以上の大作が飾られているのですが、真空のような完全な静けさにびっくりしました。こんなに深く落ち着いた空間に居たことがなかった。いつも何処かにノイズがあった、と思わせる落ち着き。そして、意外だったのが、写実絵画は素人の私からすると写真のようにも見えるのですが、さすがに100号の絵に対峙すると筆致が見えます。遠目には「現実そのもの」でも、近づくと1ストロークが追える安心感。すべての崇高なものや、自分では手が届かないようなものも、地続きなのだと教えてくれる温かさがありました。難しい、無理だ、と思うことも、落ち着いて分解して、たくさん練習すると上手くなる。基本的なことかもしれないけど、最近気づいた大事なことを、再確認させてもらいました。

地下2階には、作家さんのプロフィールも説明がありました。若い方も多く、この先も写実絵画が楽しみな限り。この難しい2020年に描かれた作品群、というのもホキ美術館の心意気を感じました。

そして、写実絵画自体に私が思うことは、もともと記録のためにルネサンス頃から描かれていたはずですが、写真が登場した時、改めて問われた存在価値について。ジャーナリズム(私の大学の専攻)やその他多くの物事にも通じると思うのですが、新たな技術が登場した時、脅威にさらされた時にこそ、そのもの自体が進化・深化していくのではないか、と。多くの人にもてはやされている間は、存在意義をあまり考えない気がします。新たなパラダイムが提示されて初めて「あれ、私って何なのかな?」という本質に向き合うというか。(初恋は最後の恋と感じ、最後の恋は初恋と感じる、的な。え、違う?)。それぞれの作家さんが写実絵画の在り方や立ち位置をどう認識して作品を作っているのかは分からないけれど、現実+美しき超現実という風に私は感じました。現実を忠実に再現しているのにも関わらず、夢のような世界へさりげなく誘う独特な美しさ。それが魅力に感じました。

そこまで考えて、それって今の日本のアニメのクオリティにも近いものがあるな、と思いました。実写映画が存在していても、アニメーションをよりリアルにしていく探求は続いているし、着地点は実写映画のリアルさとはまた違うと思います。アニメの「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」の映像美は、作品の内容により奥行きを与えていて、木々の揺れや水しぶき、キャラクターの動きは本当に美しく、リアルに感じるのに、現実には鬼も、水や雷の技を繰り出せる人間もいない。呪いも無いし(多分)、領域展開もできない。だけど、映像はどこまでもリアルに感じられて、観ている間はその世界にいることができる。「リアル」は1つじゃないし、すべての物事は二者択一ではない。ライバルが現れてこそ分かる自身の在り方があるし、ピンチや恐怖ではなく、進化のチャンスかもしれない。

ホキ美術館に行って、そんな希望を感じました。結局、自分の頭が世界をどう捉えるか=現実、だと思うので、ポジティブな世界にいられるよう、行動していきたいな、と思いました。建築やデザインについて、もっと学んだり触れたりしていきたいです。土気駅、ほんとに遠かった。。。けど、ホキ美術館は、とってもおすすめできる場所でした。

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