旅人

夜の海を小舟が進む。小舟とは思えないほどのスピードで、風を、波を切って舟は進む。

空には月と満天の星があった。空に煌めく星々を道しるべに、一切の不安も、迷いもなく、舟は進んでいく。

舟先に立つその表情は楽しそうだ。火はない。日もない。明るさといえば夜の女王とその仲間たちの輝きだけだというのに。

捨てられないと抱えていた荷物は、気が付けば中身がからっぽになっていた。持っていると思っていたものは、すべてただの錯覚で、本当はなにも持っていなかったのだ。

小舟は新大陸を目指す。その進路に迷いはない。待っているのは未知の場所。持っていくものは、この胸に満ちる希望だけで事足りる。

さあ行こう。夜が明けたらそこはもう新天地だ。

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