自転車

昨日は自分が企画したイベントの日だった。
もう9回目になるそのイベントは今まででも一番の大盛況で、もちろん楽しい一日だったのだけど、毎度イベントの翌日は反動で誰とも口を聞きたくない気分になる。

なので大抵は引きこもって過ごすのだけど、今日は数ヶ月に一度通っている鍼灸院の予約を入れていた。
昨日はとりわけ嬉しいことがあったし、起きて洗濯をしていたらあまりに気持ちのいい陽気で、家から1時間もかかるけどその調布の鍼灸院に自転車で向かうことにした。

あらゆる移動が好きだけど、昔から自転車に乗ってどこかに行くのが好きだ。静岡までママチャリで行ったこともある。山を3つ越えて辿り着いた伊東温泉は、せっかく温泉なのにおしりがすりきれてしまってなんとかシャワーを浴びて、温泉には全く入らずに帰った。

一時期デートしてた人がドラムを叩く人で、好きな音楽について話してたら、自転車に乗って音楽を聴くから、自転車の速度のリズムの曲が多いねって言われてものすごく納得したこともある。

そんなわけで自転車。今まで考えたことなかったんだけど、調布までの道のりにはわたしの人生が詰まってて、タイムマシンのようですごく楽しかった。

上石神井と西荻窪の間にある自宅から、まずは吉祥寺を目指す。これは現在のわたしの生活圏内。ここ2年間で知った道を吉祥寺まで走り抜ける。

吉祥寺から、どこの駅も近くない三鷹高校を目指す。三鷹高校はわたしの母校で、吉祥寺のNOAHという音楽スタジオで当時のわたしは6:00〜8:00の時間にバンドの朝練をしていた。忙しいからというのもあったけど、主には安いからという理由で頑張って早起きしていた。

ギターを背負った高校生のわたしが駆け抜けた道を、当時と変わらずすっぴんで走る。三鷹高校は私服で校則もなくて、一瞬だけ髪を脱色して金髪というか最早黄色い髪にしたところ、学校には髪が緑の奴と赤の奴がいたので、3人で並んで信号機〜とか言ってた。それくらい自由だった三鷹高校は中高一貫校になって、偏差値が上がった代わりに制服を着た黒髪の真面目そうな生徒たちが歩いているのを見かける。わたしがいたあの学校はもうない。

三鷹高校の裏にある団地には小学校低学年から中学まで住んでいた。高校からは、団地から歩いて数分の一軒家に引っ越した。わたしは家に何のこだわりもないから団地で十分快適だったのだけど、一軒家で生まれ育った母にとっては団地暮らしの生活をする子供たちが不憫だったようで、そんな近くにわざわざ引っ越した。

小学生の時に通った駄菓子屋さんはとっくにないけど、中華屋さんとか韓国料理屋さんとかは変わらずあってほっとする。

消防大の坂を上がり、深大寺の方に抜けていく。深大寺の脇の御塔坂下という土地で、わたしは生まれた。団地に引っ越す前、野川の流れる近くで生まれ育った。初詣はいつも深大寺で、背は低いのに異様に歩くのが速かった祖父に、家族全員が頑張ってついていっていたのを思い出す。変な思い出だけど、なんだか温かい気持ちになる。祖父も祖母も数年前に亡くなった。

御塔坂下の横断歩道は、「花束みたいな恋をした」という映画のロケ地で、初めて菅田将暉と有村架純がキスをするシーン。なんであんなに何もない横断歩道で撮ったのかというくらい何もない場所。有村架純が、こういうスキンシップは好きな方です、とかなんとか言う。

そこからわたしが赤ちゃん時代にベビースイミングをしていた後楽園スイミングスクールに向かう。それはわたしの結婚生活を送っていたエリアでもある。結婚生活を駆け抜けると、調布に着く。

色んなことがあったのに、天気も気分も良いと全部良かったことのように感じられる。鍼灸院ではどうしたんですか背中がバキバキですよと言われる。マッサージ屋さんって大体バキバキですよって言ってくるし信用してないけど、その鍼灸院はもう4年ほど通っているので、その鍼灸師さんの言うバキバキは本物のバキバキだと信じられる。次回の予約は少し間隔を縮めた。

帰りは深大寺近くの銭湯で陽が沈むまでのんびりして、夜は吉祥寺で映画を観て、「瞳を閉じて」というその映画は今のところ今年観た映画の中で一番好きな感じで、帰りに西荻窪の行きつけのバーでブランデーを飲んで帰った。最高の日。

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