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【オペラ日記 5】新星トッレ嬢の「フィガロの結婚」を堪能 ミラノ・スカラ座 “La Scala TV”

Photo by Martin Anselmo on Unsplash

なかなかタイムリーにレポートできないのが悩みですが、10月17日(日本時間10月18日)にライブストリーミングがあった、ミラノ・スカラ座の「フィガロの結婚」を観ました。

スカラ座の公演は、今まで基本的にイタリア国内でのテレビ放送でしか観られなかったのですが、今シーズンから、”La Scala TV”という有料配信サービスができて、日本からでも問題なく観られるようになりました。

ウィーン国立歌劇場の総裁だったドミニク・マイヤー氏が、2020年にスカラ座の総裁になって、きっと配信サービスも開始されると期待していたのが実現しました。イタリアオペラの基準となるべきスカラ座の配信サービス開始は遅すぎる位でした。

毎年12月7日のスカラ座のシーズン開幕公演は、NHK BSで数カ月遅れで必ず放送されるのでありがたいのですが、それ以外の公演が、インスタ等でチラッとしか観られなかったので、イタリアオペラ好きとしては、うれしいサービスです。

最新作だと9.9ユーロ(現在のレートだと1,600円位。ウルトラHDだと11.9ユーロ)で、昨今の円安もあるのですが、他の劇場では最新作は大体3,000円はしているので、決してお高くはないと思います。コロナ禍で多かった無料配信は最近なくなってきているので、興味のある公演にはぜひ利用していただきたいです。イタリアオペラの殿堂での最新の公演が、スマホや自宅の画面で観られるのは、すごいことです。字幕が、イタリア語と英語がメインので、日本語なしでもある程度筋がわかっている必要があります。

ライブだと日本では夜中からになってしまいますが、オンデマンドでも一週間観ることができ、一度見始めてから72時間視聴できます。新作だけでなく、そのときどきでアーカイブからの配信があるので、いつでもオペラやバレエを楽しめます(現在、マエストロ・ムーティの「ワルキューレ」も観られるので、こちらも気になっています。)

今回「フィガロの結婚」を観たのは、お気に入りのイタリア人歌手が3人揃い踏みしたからでした。

「フィガロの結婚」舞台写真(スカラ座 Instagramより )

「フィガロの結婚」は題名役のフィガロより、花嫁となるスザンナの方が出番が圧倒的に多いのです。今回スザンナ役のソプラノ、ベネデッタ・トッレ嬢(Benedetta Torre)をずっとネット上で追っかけてきていたので、本当にうれしかった。昨シーズンの「愛の妙薬」で、体調不良で降板した歌手に代わってスカラデビューした後、憧れのスザンナ役でスカラに再登場しました。相手役のフィガロは、俳優からオペラ歌手になって、あっという間にスター歌手となったルカ・ミケレッティですし、カップルを邪魔してスザンナを口説こうとする伯爵役は安定のバス・バリトン、イルデブランド・ダルカンジェロですから、観ないわけにはいきません。伯爵夫人役も品があってよかったですし、他の歌手たちもなかなかに美声揃い。日本人ソプラノの谷口まりやさんも、明日のスターが演じるバルバリーナ役で出演していました。なにしろ、トッレ嬢の伸びやかで透明感のある声でつむがれる、美しいフレージングをたっぷりと堪能しました。やっぱりスザンナ、大事です。リアルに若い、伯爵も魅かれるであろう、はつらつとしたスザンナを久しぶりに聴けた気がしました。


第4幕 “Deh vieni non tardar” (早く来て、素晴らしい喜びよ)
スザンナが、フィガロが伯爵との仲を疑っているのを知り、フィガロが物陰に潜んでいるのに気付きながら、伯爵への嘘の思いを当てつけに歌う。トッレ嬢が発する美しい言葉と響きが、劇場いっぱいにただよいます。


「フィガロの結婚」は、だましだまされ、といった細かい出来事が続き、登場人物も多いので、最初はストーリーとして取っつきにくいかもしれませんが、何度か聴くと、そこかしこの美しい旋律やハーモニーの魅力に毎回気付きがあります。

私の中での現状のベスト盤は、こちらのパリ・オペラ座の2010年の公演です(日本語字幕入りがないのが残念)。トッレ嬢の師匠のバルバラ・フリットリ(Barbara Frittoli)が伯爵夫人を歌っていて、やっぱり何度聴いても完璧で素晴らしいです。同じジョルジョ・ストレーレルの演出で、どこを取っても絵画のような美しさ。衣装がパリとミラノでは少し異なるようでした。師匠と同じ名演出で、トッレ嬢もスカラという大舞台でスザンナを歌って、ファンの一人としてうれしい限りでした。

この「フィガロの結婚」はあと2日、“La Scala TV”で観られます。そのうちアーカイブでも観られるようになるのではないかと期待します。


ではでは、また近いうちに!

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