選り好みをする余裕がない人間の部屋選び

ドミトリーを探すこと1週間。職場へ通いやすいこと、そしてできるだけ安いこと、という2点にのみ重点を置き検索したところ、最終的に2つの物件に絞られた。夫の意思が固く別居は不可避、とわかった翌日、2件まとめて見学に行った。

1つは前記事で紹介した「ひつじ不動産」に載っていた物件。夫と暮らす自宅と会社のちょうど中間ほどにあり、自分としてもなじみの深い街に建っている。

待ち合わせ場所で管理会社の担当者から名刺を渡され、契約した場合に必要となる費用やスケジュールなどの丁寧な説明を受けながら物件へ向かった。

ハウスへ入ると、おそらく在宅で仕事をしているのだろうか、人の良さそうな住民女性がリビングでPCを操作していて、私に気付くとニコッと笑ってこんにちは、と挨拶をし、またPCへ目を落とした。ちょうどいい距離感。年齢も年齢だし、シェアハウスに住むといってもあまり人と関わるつもりのない私にはベストである。

さほど新しい建物ではなかったが、それなりに綺麗に清掃されている。ドミトリーは狭く4人相部屋なものの、個人の収納スペースが十分に確保されており、事前に友人から聞いていた「シェアハウスを選ぶ時のポイント」はほとんどクリアしていた。駅から近く買い物も便利で、理想の物件のように思えた。


次に見に行ったのは、より職場近くの物件。こんな所に住むのは芸能人かなんらかの社長しかいないのでは、というような大都心の駅が最寄りだと言う。

駅の出口で担当者を待っていると、チャラい兄ちゃんが「どうもッス」と軽いノリで現れた。名刺を渡してくる素振りもなく「じゃ、行きましょっか、ていうかここなんすけどね」と、目の前の雑居ビルに入っていく。

「近いっしょ? 駅から5歩っすよ。傘いらないっすよ」

実はこの物件、他のドミトリーを申し込んだところ「二段ベッド2つで4人の相部屋だが、そのうち3人が男性なのでおすすめできない」と言われ、その代わり同じ値段の女性限定ドミトリーにたまたま空きが出たからどうですか、と提案された部屋だった。そのため最寄り駅と家賃以外の詳細をほとんど知らないまま見学に来てしまったのだが、駅チカというよりもはや駅そのもの、という近さに笑ってしまった。

中に入ると、とにかく古い。狭い。そしてなにより全体的に薄ら汚い。経年劣化による汚さもあるが、そこはかとなく掃除が行き届いていない感じがする。

ドミトリーは2人(二段ベッド1台)のみであとは個室が6つあるそうで、個室はどうか不明だがドミトリーの部屋と共有スペースにはほとんど収納がなかった。というか共有部にある戸棚などは全て謎の段ボールなどが詰め込まれており、担当のチャラい兄ちゃんが「ここも収納なんで!」と意気揚々と扉を開け「……なんか入ってますね〜」とそっと閉める、というやりとりを数回見る羽目になった。

もともと商業ビルだったものを無理矢理住居にしたとのことで、リビングの中央に唐突に現れる風呂場には脱衣所がなく、簡素なカーテンで仕切られているだけで、しかも住民が入浴中で風呂の様子を見ることもできなかった。商業施設の名残で暖房や乾燥機などはガスを使用しており、リビングに置かれた暖房器具には「ここから動かさないでください! ガス栓が抜けて爆発します!」とマジックで書かれたボロボロの紙が貼ってあった。怖ぇ。


正直、どう考えても、住むなら最初に見た物件の方が良いと思う。2件目に見た大都会のハウスは明らかに管理が適当である。管理が適当なハウスは住民も気遣いの無い人が多い傾向にあるから気をつけなよ、って友人も言っていた。


しかし結局私が住むことに決めたのは、古くて汚くていいかげんな、大都心にある2件目の方だった。

理由はただ1つ、圧倒的に安上がりだったからだ。


最初に見た物件の方はちゃんとしていた。ちゃんとしているゆえ、契約にあたっては契約料30000円と事務手数料25000円、加えて入居日からの日割りの家賃が必要であり、かつ最低入居期間は半年とのことだった。ざっと計算しても10万程度は初期費用がかかってしまう。

かたや大都心の物件の方に必要なのは契約料1万円と日割りの家賃、それと鍵代5000円。それだけだった。鍵代は退去時に返ってくるという。即日入居可で、入居日に必要なのは初期費用と身分証明書のコピーだけで、いつでも出ていっていいそうだ。今まで普通に引っ越しをしていたときは、やれ連帯保証人だの、会社の情報だのなんだの面倒くさい手続きがたくさんで目眩がしたものだが、あまりにも簡素なのでそれはそれでクラクラした。大丈夫なんだろうか、本当に。


だけど、その適当さにずいぶん救われたのも確かだった。いいかげんゆえに格安なおかげで、なんとか自分の手持ちのお金だけで、すぐに引っ越すことができる。マジでやばいところだったらすぐに他を探せばいいや、どうせ着替えくらいしか持たない暮らしだし。と、腹をくくって、翌日には契約を申し込むメールをしたのだった。


光熱費共益費込みの家賃39500円、大都会の駅から徒歩0分(5歩)のドミトリー。

自分の居場所はベッドの上だけ。


まさか40過ぎてこんなことになるとはなぁ、と情けなく思いつつ、どこかこの人生をエンタメとして楽しんでいる自分もいたりする。

次回は引越しの日の話を書く予定です。


オマケ

シェアハウス暮らしの長い友人からアドバイスをうけた「シェアハウスを選ぶ時のポイント」で、私自身も意識したものを以下に。あくまで友人や私が気にするポイントで、人によっては全然当てはまらないこともあると思うのであしからず。

・リビングを通らないで自分の部屋へ行けること

・トイレや洗面所近くの部屋ではないこと(人の往来が多くうるさいとのこと)

・掃除は住民当番制ではなく業者が入ること(当番制だとモメることが多い)

・キッチン、リビングなどの共用部に個人の収納スペースがあること(例えば自分の調味料や、お風呂セットなどを置く場所がロッカーのような形で共用部に設けられてると良い)

・下駄箱が狭いシェアハウスが案外多いので、個人の靴をどのくらい置けるかはチェック必要


ほか、必要な物とか確認した方がいい事項などもあったけど、この5点は安さと立地以外にそこそこ気にして探した次第です。ご参考まで。


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