そのままでいて。

子供の頃、絵を描くのが好きで、自分の描く絵は嫌いだった。

絵を描くことには中毒性があり、やめようと思ってもやめられなかった。運動が苦手、ゲームも苦手で、漫画は買ってはいけなくて(溜まると邪魔だから!)、他に娯楽があまりなかったのもあるかもしれない。
「あんたは絵ばっかり描いて、画家になるわけでもないのに!」と怒られて、布団の中にノートと鉛筆とペンライトを持ち込んで、こそこそと描いた。

小学校の写生大会でささやかな賞をもらって、「そんな下手な絵で賞をとって、審査員の趣味おかしいんじゃないの?」と言われ、また別のポスターのときは、公休をとって授賞式に行ったのに、「並んでいる絵の中であんたのだけがおかしいわ、ほら見てみなさい。」と言われ、気まずい顔で賞状をもらった。先生に、折角だから学校にポスターを貼りましょうと言われ、やめてくれ、余計なことしないで、と思ったけど、「どっちでも良いです。」と答えた。なんて可愛くない子供なんだろう。参観日の日に、廊下に貼ってある絵を見られて、「あんたの絵より、〇〇ちゃんの元気いっぱいの絵が良い絵なんだから、あんたのなんか全然だめなんだから。」と友達の絵のところまで手を引いていかれ、私はその友達がとても優しくて素敵な人で、どうしても嫌いになれないのが悲しかった。

でも、何を作っても、どの場所にも、ひとりは必ず、「君は君のままでいてね。」「そのまま作り続けてね。」と言ってくれる人がいて、その言葉をなんとなく頭の片隅において生きてきた。そう言うおとなたちの、私のさらに向こう側を見るような、優しく遠い、ちょっと哀しい目が忘れられない。祈るような声だった。私は変わりたいと思って生きているけれど、変わらないというのは、きっとすごく難しいことなんだ。作り続けてって、きっとすごく大変なことを言われているんだ、と、子供ながらに緊張して聞いたのを覚えている。

この前作った本を、おばあちゃんが欲しいと言ったので、ついでに実家にも送った。母は、「絵が力強くて良いですね。」と言った。子供の絵を見て喜ぶような人じゃなかったのに。私が”そのまま”でいられなかったのか、母の趣味がおかしくなったのか、ふたりとも、ただ年を取っただけか。
子供の頃は、あんなに認められたかったのに、いざ「良いですね」と言われてみると、ただ虚しく、やりきれない。ひねくれ者だからだろうか。

また、あの時みたいに、「そんな絵、タダで貰っても誰も嬉しくない。」「まだ取ってあるの? 早く捨てたら良いのに。」「ゴミばっかり作って。」って言ってほしい。もっと私を打ちのめして。そんな、「まあ、良いんじゃないですか、」みたいな適当な返事は要らない。私を否定して、蔑んで、私を諦めないで。さらっと引退しないで、自分の価値感を生きて。そんな、普通のお母さんみたいなこと言って、傷ついた私をひとりで置いて、勝手に丸くならないで。
……求めすぎだろうか?

「怒ることにも体力が要るんだから。」と、母の昔の口癖を思い出している。


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