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名前のこと

 平凡ながらもそれなりに慣れ親しんだ苗字を捨てたとき、特にこれといった感慨はなく、ただ事務手続き的な煩わしさだけを長く引きずった。すでに人生の長い夏休みに突入して久しく、名前を呼ぶ人など家族と、新しく家族になった人たちと、両手で足りる程度の近しい人々、あとは記号のようなハンドルネームでこと足りた。
 遠い昔のことはさておき、呟き続けること二千余日、紆余曲折の末に落ち着いたアイコンに引きずられただけの名前。白と黒の生き物。いや、私のそれは緑か。

 このノートを作ったとき、同じ名前でも構わなかったはずなのに、何となくつけたIDを眺めていたら海鳥が頭のなかを過っていた。
 いやいやいや、海なんて遥か遠くだし、鳥のようにどこへでもなんて飛んでいけない、むしろお風呂にちゃぷちゃぷ浮かぶアヒルちゃん程度が似つかわしい。お風呂は嫌いだけど。
 それでも海鳥の影は消えず、ならばちょっとだけひねって海烏にしようと、安易な連想ゲームは終わりとなりました。絶滅危惧種のオロロン鳥。道を踏み外した身にはお似合いの、白と黒の生き物。いや、緑なんだけどね。

写真は数年だけ縁のあった懐かしい街。
ここもたぶん、もう二度と行くことはない。

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