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王子公園再整備は神戸市にとって経済的合理性がないから進めてはいけない

この再整備は土地の売却ありきではないか?

神戸市の進めている王子公園再整備では大学誘致が「最も有力な施策」として掲げられていますが、大学誘致に合理的理由がなく、大学誘致ありきの再整備であると多くの人が考えています。また、この再整備は神戸市の財政に悪影響を与えかねない計画が多く、特に土地の売却について全く経済的合理性がありません。ですから、私はこの再整備は「大学誘致ありき、かつ、土地の売却ありき」であり、絶対に進めてはいけないと考えています。以下に、市の財政面で問題があると思う点をまとめました。
根拠法令等だと思うところは一応書いていますが、抜けていたり、間違った箇所を見ていたりしている所があると思うので、参考程度でお願いします。

※追記。とりあえず書いてみたのですが、学校法人への土地の売却は通常より安価になるというのは正しいのか?固定資産税の理解はこれで良いのか?という点で自信がありません。(市町村視点の税金などの解説が見つけられなかったので。)

100億円の使い道がひどい

王子公園再整備では、王子スタジアムとその北側の土地を、大学に100億円で売却する予定である。その100億円で公園の残りの部分を整備するのだが、出来上がる施設はのきなみ狭小で配置が悪い。パブリックコメントや市民集会で指摘されてきた問題点が下の図で、これでも一部しか書けていない。無くなってしまう施設についても、書くスペースがなかった。

王子公園再整備の変なところ

金銭面で問題が大きそうな場所を挙げてみる。スタジアム、動物園、立体駐車場あたりは、建設後の管理コストも大きくなり、次の再整備まで問題を抱え続けることになると思う。

  • 駐車場はお金をかけて立体にするのに、動物園来客に不都合である。進入路の位置も大型バスでの利用が考慮されておらず、問題がある。

  • 大金を使って、傾斜の大きい公園北側に切土盛土をして、音を出しにくく、防災機能が低下したスタジアムを建てる。スタジアムの北側は神戸海星女学院、老人ホームに接している。南側は動物園に接している。

  • 王子動物園の北側にスタジアムを隣接させるので、動物園は騒音被害を受ける。六甲おろし、スタジアムの照り返しも予想され、飼育環境が悪化する。王子動物園の価値を激減させる。

  • 歴史ある登山研修所が再整備となり、ピラミッドウォールに係る費用が大きい。

  • 重要文化財ハンター邸を移動させる費用が大きい。

大学への土地の売却は譲渡価格が低くなる

公の性質をもつ学校法人への売却では、譲渡価格が市場価格より低くなると思う。現に、公募要項では100億円という価格が示されていて、入札ではない。
公園→大学→マンションの過程で大学に生じる売却益は、公園→マンションなら市の歳入になる。これは王子公園に限らず、どの自治体がどの学校法人に土地を売った場合にも起こることで、何ら問題はないと思う。ただ、市民も分かっていたほうが良いと思う。特に王子スタジアムの土地は、地震にも土砂災害にも強い駅前の一等地であり、宅地としての価値は極めて高いだろう。
学校法人であるという理由、公募要項の条件での値引き額が妥当かは、また別に判断すべきである。

防災拠点を市場価格を参考にして売るのはおかしい

毎日新聞の報道によると、100億円という価格は、「市場価格を参考に外部の鑑定結果を基に決定した。大学側がスタジアムを撤去する必要があり、その分を差し引いた」ものであるそうだ。
民間事業者は、土地を購入するときに、交通利便性、災害の危険性は考慮する。しかし、防災拠点としての価値は考慮しない。防災拠点としての価値は市場価格に現れない。それなのに、市は市場価格で防災拠点を売ろうとしている。学校用地としては100億円程度の価値かもしれないが、市と市民にとっては100億円をはるか超える価値があるはずだと思う。

売却より貸付のほうが有利である

長く貸すほど有利である

土地の売却予定価格は100億円だ。これを売るのではなく、例えば年2億円で貸したとしたら、51年目で貸付のほうが総収入額が大きくなるのは、すぐに分かると思う。市町村は固定資産税を払わなくていいので、収入だけでなく経費を引いた後の利益も51年目までには逆転する。大学が50年経たずに撤退してしまっても、土地はまるまる残るので、やはり市にとって有利である。あとから公園に戻すことだってできる。

学校法人が土地を所有していると市に税収が生じない

学校は私立学校でも「公の性質をもつ」ので税制上優遇されている。学校法人には、国税も地方税も、原則として課されない。(売店で文房具を売ったとか、空き地で駐車場経営をしたとかの収益事業を行なったら、その分については税金が課されることになっている。※法人税の場合。)市が徴収できる税金には、都市計画税なんかもあるようだが、ややこしくて見にくくなるので、下の表では金額が比較的大きい固定資産税と法人市民税だけを書いている。土地の持ち主が大学になってしまうと、土地からも、土地の上に建てられた建物からも固定資産税は得られない。法人市民税も当然得られない。いったん土地を大学に売ってしまうと、その後は市の財政の助けになることはない。

売った場合と貸した場合の比較

法人税法4条1項
地方税法296条1項2項
地方税法348条2項

市が不動産を貸すと、民間が貸す場合に比べて圧倒的に有利になる

(結論:市町村が土地を誰かに貸す場合、貸付料決定に近隣の賃料(地主が払う固定資産税入り)を考慮しなければならないが、市町村は固定資産税を払うわけではないので、市町村視点だと固定資産税分の地代が丸儲け、という状態になる。)

考えるのに必要な前提が2つある。
1つ目。
土地を貸すとき、地主さんは、自分が市町村に払う固定資産の額と、自分の儲けになる金額を足した額を地代にする。下の図の例だと固定資産税100万円と、自分の儲け200万円を合わせた300万円を地代にする。自分が払う固定資産税の額より低い地代を設定する人は居ない。居たとしても、何か特別の理由がある人だろう。
市町村に固定資産税100万円を納めに行くのは地主さんだが、100万円を実質的に負担するのは借りた人である。そういう取引がたくさん行われて、なんとなく出来上がる地代の相場には、借りた人が負担して、地主さんが払いに行く固定資産税の額が含まれている。

普通の土地の賃貸借

2つ目。
市は土地を民間に貸す場合、近隣の賃料を考慮しなくてはならない。
市は株式会社のように利益を追求する組織ではないが、市の財産は守らないといけない。あまり安い値段で貸すと民業圧迫にもなるだろう。だから、市が土地を貸す場合には、近隣の賃料が考慮される。
 
市が民間に土地を貸す場合、上記2つが合わさってとても有利な状況になると思う。市町村は固定資産税を払わなくていい。むしろ課す側だ。そして、近隣の相場を参考にした地代300万円には、払う必要のない固定資産税相当額100万円が含まれていて、 300万円がまるまる市の儲けになる。圧倒的有利さ。借り手の民間も、損をするわけではない。他の人から借りたとしても、地代は300万円になる。

市が土地を貸した場合

王子公園の場合、相手が学校法人だから、「公の性質をもつ」分は安くなるかもしれない。でも、近隣の賃料を考慮した分は高くなる。神戸市が払わなくていい固定資産税分丸儲けという要素が入った取引になると思う。大学が何か損をするわけでもない。
 
※学校法人が民間事業者から土地を借りた場合、その土地が教育のために使われていても、民間事業者は固定資産税を払わなくてはならないので、考慮すべき近隣の賃料に固定資産税相当額が含まれないということにはならない。

大学が民間から土地を借りた場合

市町村は不動産業者ではないし、むやみやたらに財産を貸し出してはいけないのだろう。あまりに有利すぎて民業を圧迫しそうだ。でも絶対に貸したらいけないわけでもない。
私立学校には、校地校舎は原則として自己所有であることが求められている。ただし、特別の事情があり、教育上支障がない場合には借地でも良いことにもなっている。絶対に自己所有でないといけないわけではない。現に、神戸市は、1年間売却か貸付か明言を避けてきたので、貸付でも法的には問題がないのだと思う。

地方税法348条1項2項
神戸市公有財産規則34条?
地方自治法238条の5?
私立学校法25条
私立学校法の施行について(昭和25年3月14日文管庶第66号各都道府県知事あて文部次官通達)

大学に土地を貸す選択をしないのに、Park-PFIを検討するのはおかしいと思う

王子公園再整備では、一部について都市公園法の改正で創設されたPark-PFIという手法を使うことが検討されているようだ。ざっくり言うと、公園の一区画を民間企業に任せて、カフェなどの収益施設と、広場や園路などの公共部分を両方作ってもらう。民間企業は、カフェから得られる収益を広場や園路の整備費に充てるかわりに、公園内で20年間カフェを営業できる、といった感じの制度だ。正確な説明は、そのままPark-PFIでネット検索すれば出てくる。須磨水族園や東遊園地で使われる手法でもある。ただ、国土交通省の資料には、Park-PFIのデメリットが書かれていないので、思いついた金銭面でのデメリットとなりそうな事をあげておく。

  • 収益施設から見込まれる収益で、収益施設と周辺の公園施設の2種類を整備しないといけないので、民間企業にとって負担が大きい。

  • 民間企業への負担は、一部は民間の工夫で解決できるかもしれないが、一部は市民が負担することになると思う。コーヒーが高いかもしれないし、園路が安っぽいかもしれない。

  • 今まで商業施設のなかった公園内に商業施設ができるので、周辺の商店と競合する。商店に店舗を貸している不動産業とも競合する。

Park-PFIの目的は以下の通りである。
「本制度が広く活用されることで、都市公園に民間の優良な投資を誘導し、公園管理者の財政負担を軽減しつつ、都市公園の質の向上、公園利用者の利便の向上を図ることが期待される。」
 Park-PFIの利用目的には、市の財政負担軽減のためという理由が、制度の趣旨から考えて必ず含まれている。王子公園再整備の中で、大学に土地を貸すという有利でデメリットがあまり見当たらない手段はとらないのに、無視できないデメリットが生じそうなPark-PFIが検討されるのはおかしいと思う。王子公園の南側には、水道筋商店街をはじめ、商店が多い。王子公園に来た人を、いかに駅の南側に流すかが大切なのに、公園内にカフェができてしまうと、今より人が流れにくくなってしまう。Park-PFIを使うなら、最低でも水道筋商店街と競合しない収益施設でないといけない。
(大学に土地を貸すことは個別性が高く、競合という問題は起きにくいと思う。起きたとしても、競合相手が他の自治体なら、神戸市が配慮する必要はない。)
 
都市公園法5条の2
都市公園の質の向上に向けたPark-PFI活用ガイドライン

個人的に思うこと

ここまで見てきた通り、今進められている王子公園再整備には神戸市の財政面での合理性がない。長期的にも短期的にも市が損をすることばかり計画されていて、「土地売却ありき」だと思われて当然の杜撰さだ。
売却される土地について、おそらく神戸市の頭の中では、「宅地としての価値>学校用地としての価値>公園・防災拠点としての価値」か「学校用地としての価値>宅地としての価値>公園・防災拠点としての価値」なのだろう。私は、「公園・防災拠点としての価値>宅地としての価値>学校用地としての価値」だと思うので、この売却話は、市と大学はルーズルーズの関係にあって、お互いに行わない方が良い取引だと考えている。関学にあっては、土地投資としておいしい話だからという理由で本業(キャンパスの新設)が左右されているなら、本末転倒で危険だと思う。
 
繰り返しになるが、市町村には固定資産税が課されない。だから、民間企業のように、「土地を持っているだけで固定資産税がかかるから、工場を建ててそれ以上の儲けを出さなきゃ!」なんてことはしなくていい。だから、公園や防災拠点として「遊ばせておく」ことができる。王子公園は市民の貴重な広域防災拠点なのだから、しっかりと遊ばせておいて欲しいと思う。震災時の利用実績で、その価値の高さは証明されている。