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「松戸市在住アトレウス家」に行ってきた

私の好きな「アトレウス家」シリーズの最新作「松戸市在住アトレウス家」の3月24日の回を体験してきました。

「アトレウス家」とはウェブサイトの説明によれば

ギリシャ悲劇に登場する「アトレウス家」の家族が現代のまちに暮らしていたら、という想像をもとに、2010年にスタートした演劇のプロジェクト。

ということです。

「アトレウス家」シリーズは上演形態の性質上、人それぞれ違う経験をするのが面白いので、私の観劇体験をメモしてみようと思います。

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松戸駅に着くと、快晴で街歩きには良さそうなお天気です。

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集合場所は駅近くの純喫茶・若松の店内。はらぺこ満月「食べたい記憶」の上演会場として訪問したことがあります。

受付して喫茶店の席に着くと、二枚の地図が渡されて今後の進め方の説明を受けます。地図には行き先が示され、そこに行くと何かが起こるという仕掛けのようです。

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地図を受け取った時点で
・受付時の案内人が色々と忘れている
・地図の表紙写真のロゴが欠損
・地図の封に書かれた文章
 「みんな忘れる。」
 「何もかも変わっていい。消えていい。まちも。私たちも。会話のかけらも。みんな忘れてしまうのだから。」
ということから、今回は「忘却」がテーマだと何となく感じます。

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たまたま受付で会った知人とそれぞれの地図を比べてみると行き先が違います。どうやら人によって最初の行き先や起こる出来事が違うという事がここで分かりました。

私の地図はバスで少し離れた場所への移動を、知人の地図は駅近くへ徒歩での移動を示しています。

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さっそく地図が示す道順通りに一人でバス停へ。

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日曜午後というのんびりした空気の中、小旅行気分で郊外へ向かいます。

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15分ほどで目的のバス停「陣ヶ前」に到着。

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清掃工場の煙突が目立つ場所で、「陣ヶ前」だし「お城の物見櫓」みたいだなどと妄想しつつ目的地へ。

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地図が示す場所に着くと案内人が、松戸市のマンホールには名所である「矢切の渡し」と姉妹都市にちなんだ「コアラ」の2つのデザインがあることを教えてくれます。

別れ際には不穏な音楽がどこからともなく流れます。(記憶にまつわる映画の音楽だったようですが気付きませんでした)

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畑が広がる道を歩いていると次の案内人にバトンタッチ。
二人で歩きながら、
・この近くで1888年に梨の品種「二十世紀梨」が発見された
・その後に導入した鳥取の代表品種となり松戸ではほぼ栽培されない
・今でも地名として「二十世紀が丘」の名前だけが残っている
といった土地の歴史を教えてくれます。

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元は「二十世紀梨」の原木があった場所も、今では鉄塔がたっています。

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原木のモニュメントがある公園で三人目の案内人が登場。同じように二人で歩きながら話していると、これまでとは少し様子が違って話題はアトレウス家です。

アガメムノンの次女エレクトラは弟オレステスを待っているのだと第三者視点で語りつつ、時々思い出したように自分がエレクトラであるとも話します。

エレクトラは近くの小学校や公園のブランコを指さし、昔オレステスと遊んだ場所で鳥取からの帰りを待っていると話し、ギリシャ神話、二十世紀が丘の過去、現在の話が混ざっていきます。

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エレクトラと入れ替わるように現れた次の案内人は、アガメムノンの三女クリュソテミス視点から、次女エレクトラ、弟オレステス、母クリュタイムネストラについて語ります。
また思い出したように自分がクリュソテミスであるとも話します。
話し終えると音楽が流れこの場所のイベントが終わったことが暗示されます。

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帰り道、クリュソテミスがオススメする地元のお菓子屋さんに立ち寄ると、贈答品向けの箱入りお菓子を買い求める地元の方でにぎわっていました。

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帰り道に指示されたバス停は「梨元町」。松戸駅に戻ります。

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二枚目の地図を開けると、松戸駅東口の長い階段の上が行き先として指定されています。

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公園の入り口で案内人から、この地がかつて工兵学校であったことが説明され、周辺をぐるりと歩きながら門や駐在所の跡を見てくるよう指示されます。

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広場の小さなお祭りをなど眺めながら元の位置へ。すると戻るまでのタイムの計測結果が告げられ、工兵学校の後にはここに競馬場があったことも明かされます。

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次に指示された場所は今は人が住んでいないという団地の片隅。
二人の女子大生が階段に座ってお菓子を食べながら雑談しています。

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一人はお菓子を差し出しつつ、ギリシャ神話の勉強しているので聞いてほしいと、ノートに家系図と「不倫」「殺」など物騒な関係性を書きながら出来事を説明してきます。

前半に出てきたエレクトラ、クリュソテミス、オレステスの関係についても話がおよんで、ふむふむと話を聞いているともう一人が松戸駅周辺のいいお店情報を聞いてほしいと割り込んできます。

しばらく交互に説明する二人。
しかし最後には同時に説明が始まり全く頭に入ってきません…

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二人の話が終わると、長い階段を下って前半は終了です。
さきほど教えてもらった松戸駅周辺のお店を食べ歩きしながら後半を待ちます。

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後半の集合場所は元ラブホテルの建物を改装したPARADISE AIR。こちらも過去に展示や公演で訪問したことがある場所でした。

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五階の会場はスナック風の内装。
前半の受付で記憶を失っていた案内人が登場し、クラブ パラダイスの座長だったことを思い出したのでおもてなししたいと迎えます。
いくつかのドリンクメニューがありましたが「梨のささやき」という松戸の隣の鎌ヶ谷、梨ワインを飲みながら待ちます。

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テーブルあたり五~六人の相席なので、同席になった人たちと自然と情報交換。自分の地図や体験を共有して、ルートは近距離が二か所、遠距離が二か所の全部で四ヶ所だった事が分かります。

街中で案内人として出てきたスタッフ陣もママとしてテーブルに加わり、制作過程の話も聞きながら盛り上がります。

出し物は大衆演劇フォーマットに合わせた三部構成
・歌と踊り
・人情芝居
・グランドショー

矢切の渡しでの別れの芝居はエレクトラとオレステスを、「恨み節」「忘れていいの」などの昭和歌謡はドロドロのアトレウス家の呪いを想起させます。

最後はカラオケ大会。「天城越え」のバックに流れる安い映像に愛憎劇の果ての刺殺シーンがあったりして、ギリシャ悲劇と勝手に重なり合います。

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最後にパンフレットが配られて終了。
一年を通したリサーチ活動の集大成が本作品であることが解説されていて、途中過程でも内輪で作品としてのアウトプットをしていたようです。見てみたかった!

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これで公演は終了ですが、参加した知人と雑談していると松戸に存在した遊郭の話になり、寄り道してから帰ることに。
数少ない痕跡の道しるべから左側が「平潟遊郭」である事が読み取れると思います。

今ではほぼ何も痕跡が残っていないかつての遊郭の大通りですが、かつては赤い格子窓の向こうで愛憎劇が繰り広げられていたのかも、、などと思いつつ家に帰りました。

また、こんな意見も出ていましたが、お客さんが増えたら面白そうだなと思います。色々な人に体験してほしいです。(運営側は相当大変そうですが。。)

今日の記憶を忘れずに、
 またアトレウス家に会える日を楽しみにしています!

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