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ヤフー社へ株を売却し、ZOZOの社長を辞任した本当の理由。

TOBが無事成立したので、忘れないように書き残しておく。

なぜ僕はヤフー社へ株を売却したのか?
なぜZOZO社の代表取締役社長を辞任したのか?

9月12日の記者会見、その後の社員への説明会の様子など、当時の自分が何を考え、どう感じ、どう判断し、どう行動したのかを、まだ記憶の新しい今、手記として残すこととした。

寝ても覚めてもいつもいつも考えていたこと。

「ZOZO社が今後さらに成長していくためには何が必要か?」

ファッション好きのお客さまには認知され利用されている。ただ、もっともっと成長するには?

「ZOZOTOWNの利用者数、利用者層をそれぞれもっと拡大しなくては。」

どうやって?

「ファッションが好きな人たちにはすでにZOZOは知ってもらえているし使ってもらえている。これからはファッションにそこまで興味のない人たちにも知ってもらい使ってもらう必要がある。ただし、そうした人たちに知ってもらい使ってもらうには、広告コストや時間が今まで以上にものすごいかかりそうだ。」

何か方法はないか?

「自力ではなく、どこかの企業と組むというのはどうだろう。すでにたくさんの顧客を抱えている企業で、ビジョンも共有でき、お互いの利害や思惑が一致するような企業。」

いくつかの企業を想像する中で、

「それはヤフー社だ。多くの顧客を抱えているのはもちろん、ZOZOがこれから拡げていかなければならない40〜50代の顧客層にも強い。集客支援をしてもらえればかなり強力だ。さらに、ヤフー社が課題としていたEC事業の拡大を当社の協力で補完することもできるかもしれない。まさにお互いの弱いところを補い合い、強いところを伸ばし合えるような、最高のパートナーになり得るのではないか。」

すぐに孫さんや川邊社長にお会いした。

「お互いが想像していることが綺麗に共有共感できた。提携した場合に具体的にやりたいこともいくつか意見交換でき大いに盛り上がった。あとはお互いの関係についてどこまで踏み込んでやるかだ。」

覚悟。

「お互い中途半端な関係性での提携は望んでいない。どうせやるならがっつりだ。だとすると、当然資本の話にもなるだろう。ヤフー社としては、TOBによる1/3超の株式取得(*1)、もしかしたら50%超の過半数取得を希望するかもしれない。いずれの場合でも、自分の持ち株(約37%)の一部または全部をヤフー社に売却する必要が生じるであろう(*2)。覚悟を決めなければならない。」

*1
上場企業の株を特定の買い付け者が1/3超で買い集めようとする場合、TOB(株式公開買い付け)が必要となり、事前にいくらの株価でどのくらいの株数をどの時期に買い付けるのかを買い付け者が事前に公表しなければならないルールがある。

*2
一番の大株主である僕がTOBに賛同し、株を売却する意向があるのかないのかは、ヤフー社にとってTOBを成功させるための重要な判断基準となるため、今回の場合、ヤフー社と僕との間でTOBに応募する(株を売却する)ことを約束する応募契約を結んでいた。

第一の決断。誰にも相談せず。

「決めた。自分の持ち株をヤフー社にだったら売ってもいい。ZOZOの未来を考えてのことだ。自力でやる方法もなくはないが、さらなる圧倒的な成長を目指すのであれば、タイミングも提携相手も申し分ない。ここで決断しなければ後悔するかもしれない。野生的な直感を信じよう。今だ。今しかない。」

そのようにヤフー川邊社長に伝える。先方からは50.1%の株式取得を目指したいとのリクエストが。

「バリュエーションは8000億円(時価総額ベース)程度、株価にすると2620円を考えてくれているとのこと。第一印象は高すぎず低すぎずだ。株売却する僕からすればなるべく高く買ってもらいたいが、ここで無理を言って破談してもいけない。さらにヤフー社側は4000億円をも超える投資になり、投資家や株主への説明責任もある。投資対効果を合理的に説明できる目一杯の数字が8000億円なのだろうと理解した。次に、公表の時期。これはなるべく早くとのこと。それはこちらも望むところ。こんな超極秘事項を抱えたまま日々素知らぬ顔で暮らすのもしんどい。決まったのなら決まったで一日でも早い公表を望む。」

役員の反応。

「もちろん最初はみんなびっくりしていた。ただ、資本業務提携の内容については概ね同意し納得している様子。僕の株売却についても、当然社長の株ですから僕たちがどうこう言うつもりはありません、というスタンス。ただ、株を売った場合、社長職はどうするんですか?と聞かれ。」

社長職どうする??

「おっ、そういえば考えてこなかった。ZOZO社の未来だけを想像してきたので、自分の進退については後回しになっていた。さて、どうしよう。資本業務提携後の自分の役割は一体なんだろう?またそれを全力で楽しんでできるのか?どんな経営体制がZOZO社の成長のために今後必要か?孫さんや川邊さんは僕に社長を続けて欲しいって言ってるけど、、。」

第二の決断(9月上旬)。もちろん誰にも相談せず。

「なぜか心がとてもすっきりしている。寂しさも感じないし、怖さもない、迷いもない。全てがすんなり腹に落ちていて、これしかない、と思えた。最後の最後で下したこの決断が英断であるかのようにすら思えた。僕は本案件の公表日(9月12日)をもって社長を辞める。21年間続けてきたこの会社の代表取締役を辞任し、新社長にその道を譲る。それがZOZO社にとってもベストだ。」

すぐに孫さん、川邊さんに意向を伝える。

「業務提携を進める上で、特に僕の力は必要ない。粛々と現場レベルの業務や開発が回れば問題は起きない。そして、このタイミングでZOZO社は抜本的に経営スタイルを変えた方が良いと思っている。僕のワンマントップダウン経営では限界がある。現場の裁量や権限を重んじるチーム力を活かした組織型経営への移行が急務だ。そしてそれを率いるのは澤田が適任だ。彼を新社長に選任し、新経営陣でZOZO社は次のステージに進むべきだ。僕は9月12日の時点で辞任をし、潔く澤田にその道を譲りたい。どうかこの判断を信じて欲しい。」

孫さんも川邊さんも驚いてはいたが、すぐにその真意を理解してくれた。

「おそらく僕に残された最後の大仕事は、この決断や方針をZOZO社の社員達に伝えることだと思う。ZOZO社の未来、ファッション業界の未来、自分たちの理念やビジョンの追求、これらを頭がちぎれるほど考え抜いた結果、今回の決断に至ったことを。社員とはいえ、適時開示後(世間への公表のタイミング)の事後報告になってしまうのはとても心苦しいが、内容が内容だけに仕方ない。その分、心でみんなに語りかけたい。自分の最後の言葉として。」

9月12日、発表当日。

「朝一の役員会から一つ一つやるべきことをこなしていく。そのどれもがもう最後なんだ、この会議室に入るのも、この椅子に座るのも、、、そう思うと急に感傷的になる。実家の六畳一間の部屋で始めたCD販売からの夢のような21年間、あれもこれもが走馬灯のように頭を巡る。スイッチがそっちに入らないようにと、目の前の業務に集中する。8:30の適時開示後すぐにネット上もテレビの中も騒然となっている。まあそりゃそうだ。けど僕の心は思った以上に穏やかだ。実感がないせいなのか、やり切った安堵感なのか、よく分からない。一度帰宅し、記者会見用の衣装に着替える。21年前に創業したスタートトゥデイ社(後にZOZO社に社名変更)と、未来への想いを乗せた、Let's Start Todayと大きく胸に書かれたTシャツを着て。さあ記者会見会場に向かおう。」

恵比寿ウェスティンホテルにて記者会見。

「会場に到着すると、まだ頭の整理がついていない、さっきこの事実を知ったばかりの広報担当の社員達がなんとも言えない表情を浮かべながら、僕の方を見ている。それでも目の前の仕事をこなさなきゃって頑張っている。また頭のスイッチが感傷モードに振れてしまいそうになる。戻して戻して。よしリハーサルだ。まあいつもだけど、今日もまったく緊張していない。最後の日なのに。隣の澤田さんは緊張のあまり見たことないような顔をしている。さあ本番だ。」

「あろうことか会見中に涙を流してしまった。民放全局の中継カメラが入っていることも知っていたのに。昔からだけど、社員の話をしたり聞かれたりすると本当に弱い。ただ、最初の川邊さんのプレゼンから、孫さんのサプライズ登壇、質疑応答まで、終始和やかで笑いの絶えない前向きな会見になったと思う。ヤフー社にとってもZOZO社にとっても新しい門出に相応しい会見になったように思う。さて、この後は遂に、、、」

臨時社員総会。夜の20時を過ぎていたにも関わらず都内のホテルの大広間には800名を超える社員が集まっていた。

「ステージに上がったものの、みんなの顔がまともに見られない。静寂の中、あちこちで鼻をすする音が異様に響き渡る。きっとみんなの表情を見てしまったら、瞬間で感傷スイッチが入ってしまうから。正直、何を話したのかほとんど覚えていない。もちろん台本も原稿もない。とりとめのない起承転結のないぐちゃぐちゃな話だったように思う。一つだけ言えるのは、心から語れた気がした。心からの感謝を何度も何度もみんなに伝えることができた気がした。社長対社員ではなく、まるで家族に語りかけるように。」

その後、たくさんの社員からLINEやメールが届いている。そのどれもに、新しいZOZOへの期待、自分のミッションの再確認、やってやるぞーという意気込み、などなどが綴られている。そしてそのどれもに必ず入っている言葉がある。「社長ありがとう」と。

2019年11月13日、ヤフー社によるZOZO社の株式公開買い付けが成立し、ヤフー社はZOZO社の発行済株式の50.1%を取得し、ZOZO社を連結子会社とすることとなった。

最後に。
新生ZOZOのこれからの発展を心から祈っている。
ありがとう、ZOZO。ありがとう、みんな。

2019年11月14日
前澤友作

*写真は9月12日の社員総会後にみんなで集まって撮ったもの。

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